ぶるぶるぶるぶるぶる



第7話   先輩





ケータイが震えていた。バイブモードって、「ああ寒い、寒いよ助けて!」なんてケータイが言っているように見えるよな、と俺は常々感じる。別にそんなことないのはわかっているんだけれど、ぶるぶるっときた瞬間、「あ、着信とらなきゃ!」とほぼ反射的に通話ボタンを押してしまう。


しかしながら、そんな俺でも、「ああ嫌な予感がするなぁ」というものがあるのだ。それが今だ。ああ、「…………なんかすっげぇかかりたくねぇ」

ぱかっと開けた先には、黒い画面にぽつり。知らない番号だ。誰だ、と思いつつ、俺はポチリと通話ボタンを押した。れっつらゴウ。

「あ」 ブチッ


別に俺が切った訳じゃない、勝手に切れた。
なんなんだ、と暫く暗い画面を見つめながら、悪戯電話かと納得して、パタリとケータイを閉じて窓から暗い空を見つめた。ぽかりと上る月を見つめて、「お、今日は七夕かぁ」
織姫は、彦星に会えたのかなぁ





「春ちゃん英語の宿題やったー?」
「はい千鶴くん、おかげさまで、ありがとうございました!」
「っていうか要さぁ、職務怠慢はまずいんじゃないの」
「そうそう、俺達侵入しちゃうよ」
「うるせえな」
「ちゃんと渡せたんでしょうか、あの子」
「大丈夫よ春ちゃん!」

……………なんだろう。

「っていうか合コンごっこさー、途中だったからさぁ、また今度やろーぜー!」
「嫌だっつのお前らだけでしとけ」
「要っちつめたい!」

……………なんだろう、この、


「昨日はこわかったですけど、楽しかったです」
「そうだなー!」
「なによあんたへっぴり腰だったくせに」
「うっせぇメリー!」
「痴話げんかは余所でしてね」
「ちげぇっつの!」

「なんだこのレッツ疎外感ンンンンン!!!!」


屋上でもしょもしょいつもどおりご飯を食べているだけなはずだ。けれどもおかしい。俺を抜きにしてずんずんと進む会話に、一人クエスチョンマークを飛ばしても、周りはそうそう! と何やら理解しているらしい。なにこれなにそれどういうこと!?「要せんぱーい!」「ちょ、おまなんだよ!」「やっぱ俺だけ仲間はずれなんですか!」

ひどすぎる。
俺が天の川見えるかなぁと空を見上げている間、こいつらは仲良く何をやっていたんだ。なんだこわかったけど楽しかったって。どういうことだ。

「メリーとサルまで一緒なのになんで俺だけ!」
「メリーいうな!」
「サルじゃねー!!」

ひどすぎる、とすんすん鼻をすすれば、春さんが「ごめんなさいくん」と、慌てたように手のひらを振った。しょんぼりとへたりこんだしっぽが見える春さんに、「いえそんな気にしないでください」と手を出そうとした瞬間、ビシィ! とメリーに腕を手刀で落とされた。………痛いな。

ぷらりとたれた手のひらを見つめていると、ふとかぶった大きな影はもさもさだ。相変わらず前髪が長い。「ちゃんと連絡したよ俺」「はぁ?」

なんのことだ、と考えたとき、ふと昨夜の『あ』とだけ呟いて、ぶっちりと切れた身元不明の悪戯電話のことを思い出した。

「なんか電源切れて」
「ちゃんとこまめに充電しなさいっていうかなんで俺の番号知ってんだよ!」
「要に」
「センパァイ!!!」
「俺に話をふるなややこしい!!」


なんてこった。俺は自分からチャンスをどぶに捨てていたのか。がっくりと屋上に手をつきながら、俺だって要先輩と春さんと遊びたかった。「まぁ次がんばんなよ」 ぽん、ともさもさから優しげに乗せられた手のひらが無性に暖かく、ああチクショウ俺ってば、とぐるぐると後悔の念がわきあがる。
あのとき、なんだろうおかしいなと思ったとき、もう一度かけなおして、いやいや電源切れたって無理じゃん、じゃあ要先輩に確認して、いやそもそも知らん番号だったし、誰だかわからんし。


「俺どうしようもないじゃんこのバカヤロウ!」
「八つ当たりはみっともないよ」

やってらんねぇと座りなおして、俺の知らない記憶を共通するみなさんに、ケッとやさぐれ気味に吐き捨ててやりたい。ケッ!

せいぜい楽しめばいいさと体育座りをする俺に、春さんがよそよそと腰を低げに近づいた。なんだろう、と首を傾げたとき、彼はズボンのポケットからケータイを取り出して、「くん、アドレス交換しましょう」 よくよく考えたら、僕まだくんの番号知らないんです。

恥ずかしげに頬をかく春さんに、心底きゅんと来て、「春さんだいすき!」「春ちゃんに近づかないでよ!」

しょうがねぇなぁ、と金髪のサルも自分のポケットをいじりだして、ほら、と取り出した機体を見つめ、うるせぇ、と毒づきながら、俺も、とポケットをいじろうしたのだけれども、はたりと動きを止めてしまった。


「どーしたんだよー?」
「いや、俺学校にケータイ持ってきてないし」
「ハァ?」
「いやだって校則違反じゃん」

ねぇ要先輩、と声をかけると、先輩は肩を震わせながら、「ああそうだな」と頷いた。にやにやする双子の顔を思いっきり殴りたくなって、春さんは「あ!」というように慌てて自分のケータイをあわあわとしている。メリーはどうでもよさげに春さんの隣をぶんどっているし、金髪のサルはふっと笑いながら、
「ジャパニーズくそまじめ」
「うっせぇこのサルが!」





  


2009/04/08