怪少女と嗜好品
アイスキャンデー、わらびもち。そんな文字を見つけた瞬間、夏目の隣をちょろちょろと歩いていたニャンコ先生の瞳が、きらりと光った。「夏目! 夏目!」 振り返ったそのネコの表情を見つめ、夏目はこの間食べただろうと口を開こうとした瞬間、ニャンコ先生は駆け抜けた。素早い。まるで猫のようだ。一応猫だが。
くるくるくると車の周りを、雪の中を駆け回る犬の如く走るニャンコ先生に、頭へと白いタオルの鉢巻きを巻きつけた店主は苦笑いしたように、「かわいいネコだね」と夏目へと声をかけた。夏目はほんの少しの苦笑と、学生ズボンから取り出した財布から、2枚の硬貨を手渡した。「あいよ、また二つね」 どうやら彼は、この間のことを覚えているらしい。
夏目はほんの少し気恥ずかしくなり、アイスキャンデーを受け取りながら軽く会釈をすると、逃げるように背を向け、タカタカと足を動かした。
暫く前と同じように、キノコ雲のような木の下で、ほら、とニャンコ先生へとアイスを渡そうと屈む。この間のことできちんと学習したので、アイスはまだしっかりとした冷たさに、ひゅるりと冷たい蒸気が漂っている。
「あ」
小さな少女の声が漏れた。いつぞやと反対だ。夏目達は日陰へと入り、は日向で足元に小さな影を作っている。けれども変わらず夏目の持つアイスへと瞳をくぎ付けにさせていて、夏目は苦笑した。「いる?」
差し出したアイスの距離は、少し通い。また逃げられるのかな、と夏目は思いながら、オレンジ色のアイスを見つめると、反射した光が、少し奇麗だった。
困った、と言いたげに、はパチパチと瞬きを繰り返していたのだが、「とけちゃうよ」と掛けた夏目の声に、決死したようにたっと足を動かした。
一文字に口元を結んだまま、夏目を見上げ、ゆるゆると手のひらを大きく広げる。特にじれることもなく、夏目はその様子を見つめている下で、ニャンコ先生が「うあー!!」と叫ぼうとしたところを、なんとか足でおさえる。器用だ。
ゆっくりと手のひらにアイスをとり、それを両手で握りしめ続けるに、「食べていいよ」と夏目は声をかけた。そうしなければ、延々とアイスを見つめているだけで終わるかと思ったのだ。
夏目を何度も確認するように瞬きを繰り返し、はかっと大きく口を開け、アイスを一口に飲み込んだ。そんなにあわてなくていいのに、と思いながらも、夏目は自分の分も、ぱくりと含む。
ニャンコ先生がフーフーと毛を逆なで怒っているらしいのだが、反対の手で彼の背中を押さえつけ、自分が口にしたアイスをぽいと放り込んだ。それを小さな手で器用に固定し、ちびちび舐める猫はとても幸せそうだ。
まるで餌付けだ、とニャンコ先生との両方を見つめながら夏目は思い、ふと、口を開いた。
「ちゃんは、好きなの?」
きょとんとした彼女に、ああ言葉が足りなかったか、と「アイスキャンデー、好きなの?」と言いなおす。彼女はやはり困ったように、消えたアイスの棒のみを見つめ、ゆらゆらと首を動かしながら、ふいに夏目を見上げた。「うん」
歯切れがいい言葉に夏目は微かに笑うと、照れたように、は顔を伏せ、肌色のアイスの棒を、ちゅうとすするように口へと含んだ。
ニャンコ先生は、未だ幸せそうだ。
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2009/01/21
1000のお題 【351 肴はあぶったイカでいい】