少女と散歩道



気の所為なのだろうか。

「違うな」

夏目の思考を笑い飛ばすように、ニャンコ先生はその可愛らしいお顔をにやりと歪めた。夏目はそれをぶっさいくだなぁ、と思うのだけれども、友人に言わせてみれば、そこがいいのだそうだ。よくわからない。

背中に感じる視線に、夏目はゆっくりと振りかえった。


その瞬間、白い布きれが彼の視界に映り、細い電信柱へとひょいと吸い込まれる。風が吹くたびにぴろぴろと白い布が揺れ、じっと暫く見詰めていれば、彼女はちょこりと顔を出し、慌てたようにまた顔をひっこめた。



「懐かれたな」
ニャンコ先生の小さな声が、夏目の耳元で聞こえる。懐かれた。なんて動物的な言い方なのだろう。けれども今の状況は、とてもそれに近い。

どうしたものか、と夏目は少々口元へと力を入れながら、熱い日差しの中、彼女を見つめた。話しかければいいだけの話なのだが、彼女自身隠れている(つもり)らしいので、こちらから声を掛けることも、少々憚られた。

けれども自分の後ろを、ちょこまかと着いてこられるのは、妙な気分だ。まるであのときの子狐のようだな、と夏目はくすりと笑う。
何を笑っておるのだ、とニャンコ先生が夏目の頭部へと、どしりと体重をかけ、夏目の首から少々嫌な音が聞こえたその瞬間だ。


大きく風が吹いた。
下から湧き上がるように、ぱっと大きく空へと駆け廻る空気の塊は、彼女の頭へと、ちょこんと乗せられていた麦わら帽子を空高く浮かび上がらせ、体中に抵抗をおびるように、ゆるゆるふらふらと舞い落ちる。「あっ」

小さく聞こえたの声に合わせるように、夏目はほんの少し足を踏み出した。そしてまっすぐに手のひらを上部へと伸ばし、ひょいと帽子のふちをつかむ。麦の柔らかなさわり心地は、握りしめると、きゅっと音を奏でた。



ゆっくりと足を進ませる。隠れた体は今や半分丸見えだ。頭隠して、そんな言葉がふと夏目の脳裏をよぎり、くっと笑ってしまう。


「はい、どうぞ」


差し出した帽子へと、は視線を寄せ、また夏目の顔を見つめ、再び帽子を見つめる。「ほら」と急かすような夏目の声に、ゆっくりと両手を伸ばし、つかんだ。きゅっ。麦がこすれる音がする。

くっと夏目の口が孤を描いたこともつ間。
は風のようなスピードで、そのまま夏目の手のひらから帽子をひったくり、駆け抜けた。びゅんっと小さく消える影に、「どこの野生動物だ」とニャンコ先生は静かにつぶやき、本当に、と夏目も静かに笑った。



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2009/01/21
1000のお題 【3 尻尾を巻いて逃げる】