怪少女と如何也
「ふられたな」
「ああふられた」
にやりと猫は笑う。同じく夏目も薄く微笑んだ。
夏目の後ろへと、ちょこちょことひっついていた少女は、もういない。ほんの少しそれを寂しく思うこともあるが、同じ年の頃の友人と、ゆっくりと笑いながらも声をあげる彼女を見ることの方が、夏目は嬉しかった。
よかったな、と夏目は呟く。もう寂しくないだろうか。
彼女へと背を向けるように、夏目は足を進めた。「ガキはガキ同士が一番だ」とニンマリ笑う猫は、わざとらしく夏目を覗きこむように、「お前もじゅーぶんガキだがな」「はいはい」「かわいげのない」
タカタカ。ぽてぽて。そんな足音が聞こえる。それのほんの少し後ろ。ぱたぱた。
「夏目!」 と彼の腰へと飛びつくような小さな影に、夏目は反応することもできず、大きく前のめりへとなった。危ないじゃないか、と声を出そうとした瞬間、にっと嬉しそうに笑う少女に、半分毒気を抜かれ、はーあ、とほんの少し溜息をつく。
「ちゃん、お友達は?」
「もう遅いから、帰ろうって。夏目、一緒に帰ろう」
ね、と差しのばされた手を見つめ、ほんの少し、自分の視界が低くなったように夏目は感じた。まるで小さな子どもの頃に戻ったようだな、と笑いながら、ゆっくりとその小さな手のひらを握りしめた。
やはり温かい手のひらは、じとりと汗ばむことはない。彼女の白いワンピースは、そろそろ終わりの時期だ。
「楽しかった?」
ぶらり、と手を揺らしながら、夏目はへと問いかけた。
「うん! あのね夏目、この間いった、ポニーテールの女の子とお話したんだよ、いい子だった。また明日も遊ぼうってね、あとね、あとね」
「ちゃん、落ち着いて」
それでも、ぱくぱくと口を動かしながら、困ったかのようにふるふると首を動かして、くるりと瞳を回す少女に、夏目は苦笑した。 「ゆっくりでいいから」
そうだ、ゆっくりでいい。時間はまだまだあるのだ。焦る必要は、きっとどこにもない。
長いオレンジ色の夕日は、一つのアイスキャンデーのようだった。沈み込む太陽につられるように長くなる影法師は、ひょろ長いものひとつ、小さなものひとつ、それまた小さな点一つ。
怪少女は、終わりを告げた。
蝉の声も、終了だ。
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2009/01/23
1000のお題 【963 優しい手】