「ちゃーん? ちゃあーん?」「な、なんですかあ、ウチくんのお母さん、お父さんー」「なんですかっていうかね、どうしたのさっきからー」「どうしたのと言われましてもーお母さん達こそお!」「ちゃんこそー!」「「ふぐおーん!!!」」 ふぎふ、ふぎふ、と奇妙な音が止まらない。決勝戦の団体シングルス2。ウチくんが勝った。ダブルスを合わせて2勝1敗。つまりは ほろほろ涙する保護者にまぎれて、私も涙が止まらなかった。これがウチくんと民夫くんの最後の試合だ。こんなことになるだなんて、数年前、一体だれが予想したんだろう。 「……ちゃん、本当にいいの?」 帰りの新幹線までの時間、ウチくんのお母さんは私に問いかけた。「せっかく来たんだから、光明に声くらい掛けていったらいいじゃない」「いいんです」 そんな事できません、と首を降る。ウチくんたちの学校はこれからも試合が続く。ダブルスとシングルスの試合を含め、計三日間を争う。ウチくんはその2つには出場はしていないけれど、邪魔をするわけにはいかないし、そもそもここまでやって来てしまったことを言うつもりもなかった。 (……最後まで、やりきった……) 何か、不思議な達成感を感じていた。相変わらず、自分は何もしていないくせに、と思うのに気分は爽やかだ。「」 そう、。ウチくんがそう呼ぶのが好きだ。民夫くんはしょうがないからそう呼ぶことを許してあげている。「おい、ったら……」「はい、です……。ン!?」 駅のホームで素っ頓狂な声をあげてしまった。あら光明、なんて軽いノリでお父さんとお母さん達はウチくんに手を振っている。「え、あ、あの、え、あの」「光明、部活の方はいいのか?」「ん? ああ、代表で見送りに。俺はもう試合がないし、今日はもうみんなホテルに行ってるよ。校長先生はまだ残ってくれるみたいだけど」 保護者の面々に、ありがとうございました、と頭を下げる。さすが主将だ。 本当にお疲れ様、おめでとう、と宮本さんという人のご両親がにこにこと笑っている。 「あらそ、じゃあ光明、せっかく岐阜まで来たんだし、ちょっとお土産見てくるから」 「父さんも職場の人に買わないとなー」 「うん、それじゃ。明日の結果はまた連絡するから」 ちゃんをよろしくー、とわくわくと消えていく彼らや、他の保護者を見送りながら、カチンコチンに固まってしまった。理由はさっききいたけど、なぜウチくん? 今ウチくん来ちゃう? いろんな言い訳を頭の中で作っては捨てていく。新幹線の時間まではまだまだある。逃げも隠れもできない。今まで、隠れまわっていたつけが回ってきたのだ。「……あの、ウチくん」「ん?」 あの、あの、と何度も言葉を繰り返して、「……ごめんなさいっ!」 思いっきり頭を下げた。ウチくんは怪訝な顔をしている。「なにがだよ」 違う、困った顔をしていた。 そのまま、顔を上げることができなくなってしまった。困らせた、迷惑をかけた。そう思うと、喉が苦しい。でも違う、困らせたかったんじゃない。それだけは知ってほしかった。馬鹿だなあ、、といつもみたいに呆れ顔で笑ってほしかった。小さく、つばを飲み込む。これだけは。「あ、あのね」 言わないと。「応援したかっただけなの」 「ウチくん達を、応援したかっただけなの。だから、ずっと、こっそり見に行ってたの。迷惑になるって思ってたから、言えなかった。ごめんね」 ほんとに、それだけなの、と呟いた言葉が、妙に情けない。 人の声が聞こえる。ざわざわと、関係のない人達が駅の中を通り過ぎていく。言ってしまった、と思う反面、やっと言えた、とも思った。ぐるぐると気持ちは溢れるのに、それ以上言葉にならなかった。ウチくんの顔を見ることができない。 「知ってるよ、ありがとう」 よしよし、と彼に撫でられるたびに、涙腺がおかしくなってしまったのではないかと思った。ぼたぼた溢れる涙を見て、ウチくんは、わあ、と慌てた。それから私の腕をひっぱって、端へと移動する。漏れそうになった嗚咽を必死に飲み込んだ。 「馬鹿だなあ、は」 いつもと同じ言葉だった。でも、確かに何かが違った。 その年のバレンタインは、ウチくんにチョコを2つ用意した。渡さなかった去年の分という意味も込めて2つ。恒例のお出かけは、ウチくんと私も二人共受験生であったため、持ち越しとなった。来年の分の前借りだよ、というと去年を思い出したのか、ウチくんはわずかに口の端を緩めた。 それから、手のひらをつないだ。ウチくんのほっぺは少しだけ赤くなっていたように感じたのだけれど、おそらく私は ← TOP → 2018/09/07 |