Dona Dona

ゆっくり進む

モノクロツートンカラーのソファーに座りながら、足をぱたぱたとさせていると、オレンジ髪の彼がやぁ、と手を振ってやってきた。とっても嬉しかったから、「ラビさん!」と思わず大きな声をあげてしまって、いつだか、「犬みたいだ」と彼にいわれた事を思い出し、ちょっと恥ずかしくなってしまって、半分立ち上がり掛けていた腰を、またぼふん、と大きな音を立てながらイスに座り込み、膝へと手を置いて、真っ直ぐ前を向く。

じい、と視線を固定させていると、ラビさんがしたり顔で顔をのぞかせて、両手を頭の上でピンッと乗せる。なんだろう。首を傾げると、今度は右手をお尻あたりにつけて、ぴろぴろぴろ。

「ワンワン! ワンワン!」
「ラビさん、いぬ、ちがう!」
「クウーン?」
「ちがう!」

向きになって手のひらをグーの形にさせながらぶんぶん振っていると、彼はごめんごめん、と軽く笑い、私の前へ、一冊の薄い本を取り出した。分厚い表紙に大きな文字。
可愛らしいポップな文字で、書かれた題名は、「えーびーしー?」

NO.とラビさんは指先をちっちっち、と軽く振る。「ABC」
彼は、私がどう違うんだろうか、と子供用の絵本をじいっと眺めている隣で、本を動かさないようにと固定しながら、私の隣へと腰掛ける。
固い表紙をゆっくりめくり、大きく書かれたAの文字と赤いリンゴのイラスト。「A」 彼がいった。だから私もいった。「エー」
さっきよりは、ちょっといい感じだと思う。そう思ってラビさんを見てみると、やっぱり彼も満足そうにうんうん頷く。次のページを捲ると、Bという文字と、くるりと丸いオレンジ色のボール。ラビさんの髪の色みたいで、今度は彼が口を開く前に、「ビー」

偉い! とラビさんが私の頭を撫でた。ラビさんの指先が、私の髪の毛にくるまって、ほんの少しくしゃくしゃとなってしまったけれど、とっても気持ちがよくて、少しだけ目を細める。

「AーBーCー」
「エービーシー」

ほんの少し固い廊下に声は響いて、柔らかく反響した。
(それにしても、なんでラビさんは、絵本なんて持っているんだろう)
ここって一体、何なんだろう?





BACK HOME NEXT

2008.09.24

わんわん、というラビも可愛いけれど、BOWOWというラビもいい感じ。



background by Sky Ruins  design by Be Just Simple