「すみません、シフトの時間帯、変えてもらえませんか」


第5話   可愛いあの子♪  1




いつも同じくらいの時間帯だったけれど、変えてもらうことにした(夜のあそこらへんの時間帯は人気ないから、必然的に私だったんだけど)
店長は、特にへんなそぶりをすることもなく、「なんか用事でもはいったの?」と一言だけ言って、夕方の時間帯にしてもらう事にした。

夜と夕方とでは、やっぱり少し夕方の方が人が多い。しんどいな、と思う反面、店員さんの人数が増えるので、そう考えると、楽になったのかもしれない。
シフトを変えて3週間、まだ、“シロちゃん” には、会っていない




ふー、とはいた息が、真っ白に染まった。
そろそろ肌寒くなる季節だ、衣替えの準備をしなきゃいけない。はっと、短くもう一回息をついて、こつこつ足音をならして道を歩く。
めんどくさいなあ、と思いながら、出かけにお母さんが「卵買ってきて」といった事を思い出した。スーパーかな、コンビニじゃちょっと高い。

こつこつこつ。
ウイイイーン、と聞き慣れた電子音に、ちょこっとけたたましい声と、音。むわっと飛び出した暖かい風に、上着の前をちょこっとあけた。(………たまご)ついでに、おかしか何か、買っちゃおうかな。
カートへと手を伸ばそうとしたときに、誰か、小さな影が、目の前をすっと横切った。どんがらがっしゃーん、と聞こえた音に、あーあ、と思わず額に手をぴたり。そこら辺へと無惨に散らばったカート達に合掌しながら、「あのう、だいじょうぶですか?」


地面にとおしりをくっつけて、ほんの少し涙目になっている、黒髪の少女。後ろ髪にちょこんとおだんこにして、小さめな身長からは、こう、なんていうのかな、護りたいっぽさを醸し出してて    「あ」

女の子は、首をちょこっと傾げて、「ありがとうございます」とまたまた可愛らしい声をあげた。

「あ、いえ、手伝います」
「へ、いやあの、大丈夫ですよ」
「二人の方が、はやいですし」

ドキドキとなる心臓を誤魔化したように、カートの一つに手をかけて、からからと動かすと、女の子が、目を大きくあけて、よろしくおねがいしますね、と申し訳なさそうに声をあげたのが聞こえたけど、未だに、私の心臓はドキドキして、それどころじゃない!(だって、このひと、)
ふっ、と息を飲み込んで、ごくり。

(“シロちゃん”って、呼んでた、ひと)

からからから、とカートを移動させた。(別に、“シロちゃん”関係なしに、夕方の方が、都合がいいからって変えてもらっただけなのに)
なのに、ドキドキとなる心臓は、どっちかというと、気持ち悪くて仕方がない。この人は、多分、彼女さんなんじゃないかな、と頭の後ろの方で考えて、ポロリと口からもれてしまいそうで、仕方が、ない。


からからから。
カートを移動音だけが、耳に聞こえる。私が静かにしてしまってるせいか、彼女さんも、何もいわない。時々、ちらりと交わる視線に、ドキリとして思わず「私、あなたがドキドキしてるの知ってるのよ!」とイキナリ宣言されそうで、とっても恐い(……いやいや、そんなバカな)


さっさと片づけて、さっさと逃亡しよう。逃走経路やら、捨てぜりふやら、すっかり頭の中でできあがった私は、多分、すごい。カタカタ震える手首を、ぎゅ、と掴んで、最後の一つのカートを、おしこんで、にこっと、いつもの、いらっしゃいませの要領で、にかっと笑顔を作って、「片づいたみたいですね、じゃあ私ようじが」「あ、やっぱり!」

びしびしっ!

突き刺された指は、あんまりお行儀がよろしくない。


「コンビニの店員さんだ!」




………………まいど、ご利用ありがとうございます?




1000のお題 【353 緊張の面持ち】


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2007.12.23