ビシっと、この可愛らしい少女に突き刺されたままの指を、思わずじっと見詰めてしまった。


第5話   可愛いあの子♪ 2




さっきまで乱雑に散らばっていたカートは、私と彼女の頑張りで、ほんの数分前とまったく変わらない状態となっていた。「さようなら!」といおうとして、ぎゅ、とカートを握りしめた体勢のまま、ごくん、と唾を飲み込む。こ、この子、今、コンビニの店員とわ、わたしの、ことを、む、寧ろ“シロちゃん”がコンビニへと来ることを、ひっそりと楽しみにしていた事を、し、知って、(いやいや、そんな訳!)


「あ! ごめんなさい、いきなりこんな事いわれちゃったら、ビックリしますよね」

ぺしんっ、と軽く頭を叩いて、うふふ、と笑う彼女は、うん、可愛らしかった。(“シロちゃん”って、いってた、人)(きっと、“シロちゃん”の彼女、さん)
ぐるぐると頭の中で言葉が回っていた私を、彼女さんは、「ああやっぱり、いきなり変な事をいって驚かせてしまったらしい」と解釈したらしい(いやいや実際その通りなんですが!) ええっとですね、という前置き一つで、「私この間コンビニで、あなたを見かけたんですよ」

覚えてないと思いますけど、と小さく出された舌を見て、「あ、覚えてます」といおうとした口をぱくっと閉じた。そんな事いって、何になる。せっかく、せっかくこのままじゃダメだと思って、シフトまで変えたっていうのに! ここはにっこりと笑って、さっさと逃亡しよう、とまた口元をにっこり笑わせる準備一つに、

「あ、私、雛森桃っていいます。さっきはありがとうございました」
「いえいえご丁寧に。私はです」



っておいおい私!(さっき逃亡しようって決めたばっかりなのに!)


思わずふらり、と揺れてしまいそうな体を支えて、へらり、と笑ってみる。“シロちゃん”の彼女さんの、雛森さんも、にこり、と笑って、「この頃、コンビニ、いませんよね」
     それは、彼と、また一緒に来ているのだろうか。二人で、一緒に、来て、「あああのコンビニの店員さん、いないねぇ」なんて、二人の会話に、貢献、しちゃったりしてるんだろうか。

ぞわり、と、一瞬、背筋が寒くなった(なにそれ) 頭の中が、ガンガンと音がする。「シフト、変えましたから」
けれどもいってしまうと、意外な程に静かな私の何かに、ぎゅ、と拳を、握る(私は、“シロちゃん”と、ただの、他人でしょう) 「へぇ、いつに変えたんですか」

じゃあ、なんで私は、他人をこんなに意識しているの

無邪気なままの、彼女の顔が、ぐにゃぐにゃと頭の中で変形した。ほんの少し開けた私の唇から、空気とも、なんともいえない何かが、飛び出そうになる。
無理矢理。無理矢理、顔を作って、握った、拳を、さらに、ぎゅっと、握りしめて、







(…………そこから、記憶がない)

別に、意識を失ったとか、そんなオチじゃなくて、ただたんに、私は昔から、何か嫌な事があると、そこの部分だけ記憶がぶっとんでしまうのだ。乱菊姉さんに、「便利な脳みそよね」と笑われた事がある。だから、

「あ、こんにちはさん」
「こんにち、は(………こんな事になる)」

いつも通り、変わったシフトで延々とレジを打っていると、がー、と開いた扉から、二人の男女が顔を出した。暫く見ていない、いいやもう一生見る事がないと考えていた顔一つに、目を開けて、もう何が何だか分からなくなってしまった。

人好きする笑みで、雛森さんが微笑んで、ちょん、とおにぎりを二つ、レジに置く。カタカタ、別に私の手が震えている訳じゃなくて、レジへと数字を打ち込んで、ぎゅ、と唇を、噛みしめてしまった。(何も、彼女連れで、来ること、ないのに)

とん、と“シロちゃん”が、ルーズリーフを一つ。半分慣れてしまったはずのソレが、また無駄にドキドキと私の心臓を刺激した。店内にかかっている、ほんの少し激しめな音楽が、それを助長している気がする!(なにも、彼女連れで、来ることないじゃん!)


何故だか、とても泣きそうな気分になって、お会計のお値段を口にする言葉が、ふっと震えてしまったのかもしれない。いつもは少し伏せ気味になっている“シロちゃん”の瞳が、急に、じっと、こっちを見たのだ。ごくん、と唾を飲み込んで、ほんの数秒間にも満たないような時間だったかもしれないけれど、長いくらいに、「か、彼女さん、かわいいですね」

はっとして、ぱちんっ、と口元を叩いたのは遅かった。“シロちゃん”の、眉間に、ものすごい数の皺がよって、とっても、とっても、とっても低い声で、「別に」


「袋は入りますか」といった答えに、「いらない」 レシートを、渡して、彼はぽいっ、とレシート入れに投げ捨てるようにして、ぐしゃり。

「雛森、帰るぞ」といった声と、「さん、さようなら」とちいさく手を振ってくれた雛森さんを見詰めて、レジの台の上に手を置いて、ああ、やっちゃった、と頭を一人で抱えてしまった。

(こんなの、うざいだけの、女じゃないか)

こんな風に、こんな風に、うっとうしくなるのが、嫌だったから、時間まで変えたっていうのに。
バイト中だと、動かした足取りは、とても重かった。
(どんどん、駄目になる)



1000のお題 【638 どこで道を間違ったんだ・・・】

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ネガティブだなぁ!(ええ)

2008.02.18