「よしいっくぜー!!」
「(こここここのサルやろうがー!!!)……うひー!」


第16話  ミッションインポッシブル! 2




びゅんびゅん通る風が、頬を切った。ピシピシピシッ! とまるで叩かれてみるみたいな勢いに、思わず尻込みしそうになる。……けれども、このまま、このお猿さんと一緒に部室(多分テニス部だ!)行くって事は、顧問の先生への速球ルートの確保とおなじ!
(イヤアアアア!!!!)(私には、しめいが、あるのです!)

テニスボールのかごにつっこまれて、おしりがゴリゴリする。なんだこれは! ボールか、ボールだな!(地味にいたいぞ!)
なんとか抜け出そうともぞもぞしても、M字型になった体が、上手くバランスがとれない。………あれ、ちゃん絶体絶命のぴんちだったりしますか!

(………あきらめちゃ、だめだ)

私は、絶対に、諦めない女なのだ。
諦めない。絶対、諦めない。ドクンドクンドクン!
真っ赤に騒ぐ血が、血管の中でぐるぐる回っている。すう、と息を吸い込んだ。ピタリと止めて、ぐ、とカゴの端っこを力一杯持った。手の端っこが、白くなっているのが見えた。


「と、とまれーーーーー!!!!」


ぐわわーん! と響いた声に、サルが「うわぁ!」とおっきな声をあげる。そのままキキキキキ! 大きな音と、大きな揺れが、私の体を襲った。黄色いボールがそのまま何個が宙を飛んで、気づけば私もくるりと半回転。
ゆっくり流れる景色と放射状に描かれる私の体。「あぶないー!」、後からへぇへぇ肩で息をしながらやってきたオカッパの(情けない)声で、あ、もしかしなくとも、今私宙に浮いてる? とやっと気づいた。

カッタン。カッタン。
コマ送りに流れる映像が、目の中から飛び込んで、脳みその中えゆっくり咀嚼しながら私に情報を教えてくれる。曰く、体が反対向き。曰く、とっても高い。曰く、

(………あ、ヤバめ?)
ああどうしよう。なんて思う暇もなく、よいしょと体をねじらせて、何とかしようかと思ったけど、ゆっくり動く景色といっしょのタイミングでしか動かない体。ピクリ。ピクリ。ほんのちょっと、の体の動きしか見えなくて、ああもうこりゃダメだ。って諦めた瞬間に(あれ私諦めない女じゃなかったのか)、パチン! と誰かが指ぱっちんするような音が聞こえたのだ。

そのままバサバサバサ! と色んなものが、当たり前のスピードで落ちていく。当たり前の如く、私の体も落ちていく。
中途半端な浮遊感と、するする流れる体。最後の際にと私が抵抗出来た事は、目を力一杯つむって、どうかいたくありませんように! と神様にお祈りする事しか出来なかったのだ。
(なんか、この感覚、懐かしい)(あ、そっか。私、昔、高いトコから落ちたんだ)(そうか、二回目か)

耳の奥で聞こえる、「ギャーーー!」、とかいってるサルとおかっぱと、ひょろ長い人の声。……色気ねぇなぁ。







ぼすり。と、音がした。その瞬間にぽかりと暖かくなる体。「……大丈夫か」無駄に渋い声が、ゆったりと流れてきた。どこかで聞いた事があるその声に、うっすらと目を開けてみる。……う、ちくしょう、さっきまで力一杯つむってた所為で、視界がぼやける!

一番最初に分かったのが、私の体の周りが真っ青だった事だった。
いやいや、別に空に包まれてた、とかそんなんじゃなく(あれか、死亡フラグ再びか!)ゴワゴワとした青と白のコントラストの布に包まれていた。

ゆっくり、ゆっくりと周りの景色が、目の中へととけ込んできて、「んむ?」……こりゃどういう事だ。
あまりにもたくさんの、テニス部員さん達の視線に、ピタリと空気が止まったような、そんな顔をしている皆さん。……え? あれか、演劇でいう、ストップモーション? あんたら部活で何やってんの。「大丈夫か」あれ、なんかもう一回、声が聞こえた。


よくよく考えてみれば、今、ただ今私は無駄に地面から遠い。お世辞にも高いとはいえないこの身長(い、いや小学生だし!)(……まぁ多分、あんまり大きくはならないだろうけどね)
私が頑張って、つま先立ちを、うんうん唸りながらしたとしても、こんなに高くはならない。うん、っていうか無理。敢えていうなら背中から羽が生えるぐらいしなきゃダメだろうね。そんなのごめん被るけど。

「ぶ、ぶちょう…」

なんだか頭のツンツンした人が、やっとこさストップモーションから抜け出したらしい。
私を見つめて、部長、と話しかけるその人。……え、なに、私書道部部長(一人しかいないからね!)だけど、あんたらの部長になった覚えはないよ。つーん、とムシしてやったら、もう一回、その人が、「ぶちょう」といった。なんだよもう、と思って見つめてみたら、思いの外目線が合わない。……なんていうか、もっと高いところを見ている感じなのだ。

「桃城」、と私の高いところで声が聞こえた。……高いところを見ている、桃城。高いとこから聞こえる、『桃城』
ごくり。と唾を飲み込んだ。そろり、そろり、と目線を上へと移動させる。



そして、パチリ、と視線が合ってしまったのだ!



「て、…………手塚、せんせい」
(ギロリ)
(に、睨まれた!)



あれ、これもしかして、お姫様だっこってヤツ?(ぷりんせすほーるど?)