こんにち、は! 天才小学生の名を背負う事になっちゃった、ちゃんです!
第15話 ミッションインポッシブル!
「兄さんに聞いたんだけど、中等部掲示板に、すきやき、って書かれた書道が貼ってあるんだって。作者名って書いてたらしいんだけど」
え、何ソレどういうこと、ちょっと海堂くん冷めた目で見つめないで!
「どういうことだい真知田ちゃんっ」
うおりゃあ! と死ぬ気で職員室に乗り込んで、真知田ちゃん(書道部顧問独身女性)の首をぶんぶんと振る。隣でたんにん先生が、「おちつけ!」っていってる気がするけど、申し訳ないが、ちょっとムシさせてもらうぜ悪いなせんせい!
「げほげほげほ。だってしょうがないのよさん。芸術はみんなで愛でるためにあるの。私さんの素敵なところを皆に知ってもらいたくて、校長先生に頼んだのよ。素敵でしょう、掲示板よ掲示板だいじょうぶ、みんなアナタの芸術を理解してくれるわだから落ち着いてさん!」
「自分ですら理解できんげーじゅつが、他人に理解できるかオラー!」 だいたいあのすきやきは、こないだの部活の時間に、今たべたいものを書いてね。今度はてんぷら以外! とかあんたがいったやつだろーが!
ぶんぶんぶんぶん!
「落ち着け落ち着くんだはやまってはいけない!」
「これがおちつけますかたんにん先生!」
「さんこれは芸術のためなのぐふっ」
「ああもうチクショウぐれてやるー!」
はぁ、はぁ、はぁ、と荒い息が口から漏れる。上下する肩を落ち着けようと、ずるりと壁にもたれかかってべったりとくっついた。…ううう、つめたい壁がきもちいいよう。
あれから死ぬ気で職員室から走って逃げて、死ぬ気で中等部までレッツゴー。ああ、私ってなんて行動力に溢れる女の子なんだろう。(たんにん先生が「まてえ! お前の人生長いんだから、そんな事で非行に走るんじゃなぁーい!」と叫んでいた気がする)
すりすりとほっぺを押しつけて、息もだいたいおさまった(ああ、なんでこんな事に…)溢れるため息を飲み込んで、後悔なんて今更だ、私は今に生きる!
とにかく今は、紙の回収を急がなければいけない!
「おいこんなトコに小学生がいるぜ」
「あ、ホントだ」
「ちっちゃいねー」
壁にくっつけていた頬をはなして、じろりと三人組をにらむ。……なんか個性的のような地味のようなわからんメンバーだった。なんか派手な服を着たサルっぽいのとおかっぱと、ひょろ長いの。三人で仲良く転がしているのは黄色くて小さなボールがたくさん入った、カート。体育館倉庫からでもひっぱり出して来たんだろうか。
「………おにーさん達」
「え?」
「僕らのこと?」
きょとん、とのっぽとオカッパが首を傾げる。その間からサルがずずいと顔をのぞかせて、「おにーさんってったら俺の事だろ!」と妙に嬉しそうに顔を近づける。うわちょっとうっとうしいな。
まぁ取りあえず、今の第一目的ははっきりしている。
「(もうサルでも誰でもいいから)おにーさん、掲示板のばしょ、おしえて?」
なるべくかわいこぶるように、こくん、と首を傾げながらがポイントです! するとオカッパが「うーんと、なんていったらいいのかな」と私に視線を合わすように、腰をかがめてきた。「分かりづらいと思うけど、いい?」うん、コイツはいいやつだ。別に分りづらくてもいい、と首をコクン、と縦に振ると、にっこりとオカッパが笑う。なのにのっぽが、「……でもいいのかな、こんな小さい子を」なんだと余計なことを!
うーん、と考え出した二人に、「お、おにーさんおしえて!」だめ押し! するとサルが私の首根っこをぐいっと掴んでいったのだ。
「もういいじゃん、竜崎先生にでも渡そうぜ」
あれ、やばいなんか引き渡されそうだ!
「え、や、やめ…!」
「よっしゃテニスコートにレッツゴー!」
ぺいっ、とボールのかごにつっこまれて、その瞬間びゅいいん! と背景が変わる。ひいいいちょ、コイツスピード出し過ぎ! 「やめろこのサルがー!」といった私の言葉は、風の中に消えてしまった。
ああもう、いったいどうなるの私……っ!
(私はただ、自分の恥をぬぐいに来ただけなのに…!)
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2007.08.15
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