人殺しのぼく





ハイランド軍が僕らがいるミューズにやってくるまで残り五日。
ミューズへ援軍がやってくるまでに、どう頑張っても七日必要だ。
単純な計算だ。この数日の差を、いかにして埋めるか。
それはビクトールさん達の出番だった。
     僕ら傭兵隊は、二日間の猶予を稼がなければならない。


「これくらい、なんともねえ!」
ビクトールさんはそう高々に宣言した。知らない人はまた増えた。僕らは城門の外に集まり、ビクトールさんの演説を聞いた。「二日だ! たった二日だ! それだけ食いしばりゃあ援軍がやってくる。都市同盟の援軍が集まれば、ハイランドの王国軍はびっくらこいて尻尾を巻いて逃げていくにちがいねぇ! そこらにいるわんころみたいにな!」 
集まった人たちはわずかに笑った。ビクトールさんはそれを満足気に見つめた。「たった二日だ! それっぽっちも踏ん張れねぇ腰抜けは、今この場にいる訳がないだろうさ!」

俺たちにはできる!
できる!
できる!!




     本当は、そんな訳ないのだ。
僕にだってわかる。王国軍にはルカ・ブライトがいる。あの人はちょっとしたお化けみたいなものだと思う。あの人は怖い。変だ。勝てる訳ない。現に僕等は一度負けている。たとえ、条件がただの足止めだったとしても、イッチョウイッセキで勝てる訳がない。わかってることなのだ。けれどもビクトールさんは勝てると叫んだ。そう叫ばれたら、僕もじわじわと胸の中で小さな希望が湧いた。
軍の人たちもざわついた。

傭兵隊の人たちだけじゃない。ミューズに駐在する兵隊さん達も急遽ビクトールさんの軍に組み込まれることになった。お互い知らない者同士の顔も少なくない。けれどもみんな、ほっぺたを真っ赤にして腕を振るった。ぜったい、できるぞ! という顔をしていた。

軍をいくつかのチームに別け、その中にリーダーを作る。リーダーの人たちは合図と陣形を覚え、またその下位の人に伝える。主に五日間は陣形移動の訓練に当てられた。消えた人、新しく入った人の分の編成が多く、決してうまくいっている訳ではなかった。けれども先の戦いを乗り越えた傭兵隊の面々がミューズ兵や、市民からの志願兵をうまくひっぱり、なんとか形になることができた。

陣形の移動についての合図は、主に紋章片を使う。他にも色々と方法があるみたいだけど、今回は準備が間に合わなかった。水や、風や、色んな紋章片を高く高く打ち上げる。組み合わせられた色によって、兵は遠く離れた、伝令が届かない場所でも自分たちがどう進めばいいか分かるのだ。
僕はあまり詳しい組み合わせは知らない。ただ火は撤退の合図であると、それだけが共通して知らされた。


日にちはいくらあっても足りなかった。軍隊では、個々の能力そのものよりも、どれだけ全体の陣をうまく進めることができるか、素早く動くことができるか重要視される、らしい。前にフリックさんに教えてもらったことだ。紋章片を見て、素早く軍師の思い通りの動きをする。そうじゃないと戦況は動かない。
     力と力のぶつかり合うのはただの喧嘩で、数と数のぶつかり合いが戦争だ。
そういうフリックさんの言葉を覚えているけれど、僕自身がその言葉をしっかりと認識してる訳じゃない。正直、ピンとこないことの方が多かったのだけれど、砦や、ミューズでの訓練を見て、少しずつ、その言葉の意味が分かるようになってきた気がする。

さんは、一つの隊を率いるリーダーを任せられた。これはこの間の戦いに続き、二度目のことらしい。前の戦いでは、僕は自分の周りしか見ることができなくて、そんなの全然知らなかったけれど、それは、多分、とてもすごいことなんじゃないだろうか。
さんよりも年が上の人はたくさんいるのに、ビクトールさん達はさんの肩をばしんと叩いていた。お前ならできる、と言ってるみたいだった。


     そして、僕はと言えば。




「トウタくん、薪はこっちに集めたらいいの?」
「ちがうよう、くん、こっち!」

僕とトウタくんは一緒に薪を掴んで、大人たちの間に混じってぱたぱたと道を駆け抜けた。僕の腰には、相変わらず刃がつぶされた剣がささっていたけれど、それを使うことはなかった。しょうがない。ちょっとくらいの練習をしたところで、僕はさん達のように前に進んでいけるなんて思わない。それに僕がこうしていることだって、とても重要なことだと思う。

     後ろは、まかせた

フリックさんはそう言って、僕の頭をぐしぐし撫でた。
うん。と僕は記憶の中のフリックさんに頷いた。僕はここで、自分ができることをする。
前よりも気持ちが楽になっていることに気づいた。不安で、不安で、大丈夫だと自分に言い聞かせて、いつかフリックさん達が、僕を置いていってしまうんじゃないか。呆れられてしまうんじゃないか。そんなことが怖くて怖くて仕方なかった。

でも僕は、自分ができる限りのことをしてる。フリックさんは、絶対に僕を見捨てない。そんなこと、思わない。絶対なんてない。その分、僕はフリックさんの後を追う。くっついて行けるかなんて知らない。でもそうする。

チリチリと左手が痛むのは、少しずつ、ジョウイさん達の紋章が力を増しているからだ。覇王の紋章さんは、ほんの僅かにキョウメイしているらしい。彼は静かに唸って、これから起こる出来事に対してひどく警戒をしているみたいだった。


隣ではトウタくんがあわあわと薪を移動させて、僕も同じく彼と同じ動きをし、何度も道を往復した。トウタくんは、お師匠さんであるホウアン先生にお手伝いをしなさいと言われて傭兵隊に入ることになったのだ。訓練で、少数ではあるものの、僅かに出たけが人をトウタくんは見事に手当をしてのけた。
僕とトウタくんはペアで動くようにと言われた。だからこそ、僕はその隣でトウタくんのお手伝いをしながら、一つでも多くトウタくんの仕事を覚えよう、とじいっと目をこらしていた。いや、そうじゃなくても、今の僕は一つでも多く、新しいことを覚える必要がある。


「……こんなに、薪を集めてどうするのかな……」

燃料は市の方でも、ある程度の備蓄はされていたみたいだけど、それでもやっぱり数が足りない、らしい。僕らは市民から薪を受け取り、回収を繰り返していた。戦争となれば、きっとたくさんの人が街からいなくなる。そう思っていたのに、街は未だに活気にあふれていて、女性たちは自ら進んで兵に食事を作り、衛生を整え、子どもは母親の手伝いや、自分よりも小さな子達の面倒を見ていた。ここは自分たちの街だから。彼らは暗にそう語ってた。


薪を抱きしめながら思わず呟いた僕のセリフに、トウタくんは、ううん、と唸った。「多分、油を流すんだと思う」「油?」「うん。もし、もしだよ、王国軍が城門まで来ちゃったらね、城門を登ってこられたり、門を破られちゃう前に、あっつーい油をかけるんだ。そしたらビックリしちゃうでしょ?」 ビックリどころじゃない気がするけど。

トウタくんの無邪気な顔にツッコミの言葉を入れたくなったけど、そこはグッと我慢した。想像するだけで痛くて熱い。僕はギュッと薪を抱きしめた。服が汚れたことに気づいて、あ、と力を抜く。
(もし、そんなことになっちゃったら)

想像した。敵の不憫をという訳じゃなくって、もし、フリックさん達が負けて、もうすぐそこまで王国軍がやって来てしまったら。あとはもう、残っているのは城壁だけで、たとえ僕達が頑張ったって、それは、破られるのは目に見えていることで。


トウタくんが、僕を見ていた。僕もトウタくんを見ていた。多分、トウタくんと僕は、だいたい似たようなことを考えていると思う。
不安な気持ちはない。
でも、怖い気持ちなら、たくさん残っている。

もし、そんなことになったら。
「僕ら、ちっちゃいね」

うん、とトウタくんは頷いた。それは、仕方のないことだけど。唾を飲み込んだ。二日間。本当に耐え切れるのだろか。気持ちから負けてしまってはいけない。僕は、薪を抱きしめたまま、空を見上げて叫んだ。「二人で、ひとーつ!!」 トウタくんは、何を言っているんだ、という風にぱちぱちと瞬きをした。「半分と半分、ちっちゃいのが合わさったら、大きくなる!!」 たとえ僕らが小さくっても、半人前と半人前、足したらきっと、「いちにんまえ!」 に、ちょっと足りないくらい。

トウタくんは、ぽかんと僕の叫びを見ていた。それから暫くして、クスッと笑った。「いちにんまえ!」 トウタくんも叫んだ。僕らは口元をニカッとさせた。「「一人前!!」」
オーッ! と掛け声を上げながら二人一緒に駆け抜けた。タイムリミットは刻々と近づく。
ハイランドとの戦いは近づいてくる。


ハイランドの進軍から五日後。
傭兵隊は彼らに立ち向かった。太陽は昇り、日は沈む。夜の間は暗黙の了解として、彼らが攻めてくることはなかった。眠るのも僕らの仕事だった。薄い眠りの中から僕らは目を覚まし、けが人は途切れることなくやってくる。
二日。
二日の間だ。
みんな唇を噛んでいた。定期的に知らされる伝令が、頬を紅潮させながら叫んだ。「マチルダの青の騎士団がやって来たぞ……!!!」 もう少しだ。彼らが来てくれたのだから、恐らく他の援軍もすぐさま来てくれる。僕らは知らない人とも手を取り合い、叩き合った。

そしてその日、僕らは西の空に昇る、赤い火柱を見た。


「……撤退の」
城門から体を乗り出し、トウタくんは叫んだ。「撤退の合図だ……!」 違う。トウタくんじゃない。みんなだ。この場にいるすべての兵士が叫んでいた。「……ど、どういう……」 トウタくんはぎゅっと唇を噛み締め、未だに立ち上る炎を見つめる。味方が来たはずなんだ。応援にやってきてくれた。これからのはずで、今から僕らはハイランドを押して、押して、思いっきり、押して 「どういうことなの……」 トウタくんの呟きに、僕は首を振った。「わかんない」 手のひらを握り締める。「全然、わかんないよ……!」

遠く見える、マチルダの騎士団が消えて行く。
やって来たはずの援軍は傭兵隊を孤立無援にし、尻尾を見せて逃げていく。

何もかもが分からなかった。僕は拳を握り、城壁に叩きつけようとした。けれども寸前で止めた。強く瞳を閉じ、すぐさまに開けた。トウタくんと、目が合った。僕らは頷き、叫んだ。「準備を!」 大人たちが、僕らをハッと見つめる。ぐるりと大人を見回し、僕は力の限りに叫んだ。「石と、油の準備を! ぼんやりしてる場合じゃないよ!! 王国軍が、こっちまでやってきたら、お終いなんでしょ!」

とにかく僕らは、一秒でも長く彼らを街の中に入れないようにしなければいけない。援軍に、裏切られた、という言葉が頭の中で思い浮かんだ。けれども僕らには分からない。本当に裏切られたのかも、何かの理由があったのかも分からない。
ミューズの街には、今もたくさんの人がいる。守らなきゃいけない。そうじゃないと、フリックさんやビクトールさんや、さん達が頑張っている意味がない。
後悔なんて、後でしたって遅いことくらい、僕はもう十分に知っていた。

彼らはハッと頭をぶちつけられたような表情をした。そして頷き、すぐさま指示を下した。「戦えないものは今すぐ建物の中へ! 最悪、市庁舎に立てこもるぞ! 怯えるな、恐れるな、奮い立て!! 俺達の街は、俺たちのものだ! 誰にも……渡してたまるものか!!」

ミューズの兵の言葉を聞きながら、僕は腰にさした剣の柄を強く握った。息を吐き出す。
そうだ。

渡してたまるもんか。


***



それは、青の騎士にとって、ただただ不本意なものであった。「……何を言っているんだ、カミュー」 憤怒の炎と共に、言葉を吐き出した。彼はただの伝令役だ。今この場で自身が叫んだところで、それが何の意味もなさぬことは、心の奥底では理解をしていた。しかし叫ばずにはいられなかった。

「何も。言葉の通りだ、マイクロトフ。今すぐ兵をまとめて撤退を。殿は赤の騎士団が務める」「カミュー!」 たまらず、マイクロトフは叫んだ。「敵が、すぐ側にいるんだぞ!! それに背を向けろと言うのか!」

     ミューズへと援軍を。
その言葉に、マイクロトフは真っ先に手をあげ、馬にまたがり出陣した。彼は騎士であった。ロックアックスで生まれ、騎士の背中を見て育ち、また自身も同じ存在となった今、彼はただただ前進した。
     弱きを助け、強きをくじく。
あまりにも馬鹿正直だ、と多くのものは鼻で笑う。自身と同じ騎士でさえも、ときには眉をひそめる。しかし、その生き方を変えようとは思わなかった。それが自身であり、おれであるからだ。それを。騎士が、今まさに敵に喰われんばかりの味方を見捨てろなどと。

主の姿を脳裏に描く。
騎士というにはあまりにもお粗末なその体型     、という言葉を、マイクロトフは無意識に飲み込んだ。彼の胸のうちが囁く何かに、今は蓋をした。
主は、ゴルドーは、恐らく彼にはまったく理解ができない点で、場面を理解し、形作っているに違いない。ただの一介の騎士であるおれが、主の心情を慮ることなどできはしない。しかし、しかしだ。

噛み締めた。奥歯に鉄臭い味が広がった。
「それでも、騎士か……!!」

吐き捨てたマイクロトフの言葉に呼応するように、彼の馬がいなないた。赤の団服に身を包むカミューは、端麗な顔を変えることなく彼を見つめる。「そうだ」 カミューは瞳を細めた。「俺たちは、騎士だ。だからこそ、主の命令に逆らうことは許されない。誓いを忘れたか、マイクロトフ」

     忘れるものか

歯がゆい。
自身の中でせめぎあう気持ちがある。何も言い返すことなどできない。
マイクロトフは強く瞳を瞑った。そして喉から擦り出すような声で、「わかった」と短く返事をする。カミューは頷いた。
     何が、騎士か

このような場に、味方を置き去りにして尻尾を巻いて逃げることが、騎士か。
そうだ。
これが、おれだ。

いくら千の言い訳を述べようとも、その事実は変わらない。彼はゴルドーに忠誠を誓い、主に背くことなど許されない。そうあるべきそうすべきと自身を戒めていた。これは自身の選択である。馬の手綱を引き、深く息を吐き出す。しかし。
(いや、今は何も考えるべきではない)

「カミュー、伝令を。紋章片の火を打ち出す。せめて撤退の合図を本部に伝える」
「それには及ばない」

何をいうか、とマイクロトフは双眼を鋭くさせる。カミューは僅かに口の端を上げ、右の手から白の手袋を脱ぎとる。見るも鮮やかな真紅のあざが甲に覗く。「我が烈火の紋章よ……」 マイクロトフは目をむいた。赤く輝く紋章は空へと伸びる。あかあかと燃え広がり、出来上がる火柱は不思議と熱くはない。ただ見かけばかりの炎を、“ド派手に”演出しているだけだ。火の欠片とは比べ物にならない。
(こんなことをしても、何の意味も     !)

もとより、撤退の合図とは、本部にこちらの状況を知らせるものである。それは敵軍にも同じく、ここに死にかけた兵がいますよと宣伝しているようなものだ。本来ならば、単純に紋章の打ち上げによる伝達ではなく、より精密なものを打ち合わせるべきであったが、そんな暇はなかった。
王国軍に、こちらの合図が見ぬかれている可能性は否定できない。そうでなくとも、これほどまでに堂々と主張する必要などない。“何かがある”とあちらの軍を悪戯に警戒させるだけである。

ただでさえ、こちら側と同じ左翼に位置する将軍は、ハイランドの猛将、シード。噂に聞く伝えが確かであるならば、彼は軍を動かす。恐らく自身の判断により、こちらの後を追う。
(そうか!)

マイクロトフは瞬いた。「さて、先程言った通り、赤の騎士団が殿を務める。ときにマイクロトフ、お前は随分疲れているな。しょうがない。たとえ青の騎士団長であろうとも、僅かばかりの日数で僅かな兵をまとめ上げ、これだけ奮闘したんだ。疲れもするだろう」

もったいぶった伊達男のようなカミューの言葉に、マイクロトフは眉を顰めた。口をはさもうとした瞬間、カミューはたたみかけるように話した。「そう、疲れているんなら、ちょっとくらい撤退の進みが遅れても、仕方がない話だろう」

マイクロトフは数秒ののち、ハッとしたように頷いた。
「あ、ああ! そうだ、仕方がないな」
「だろう? もし万一、猛将がこちらにやって来たところで、赤の騎士団が返り討ちにしてくれるさ」
「頼んだぞ、カミュー」
「万一、と言っただろう」

目尻を細めるカミューに、マイクロトフは笑う。「     撤退だ! 急ぐ必要はない。殿は赤の騎士団が務める! ただし!! 敵の追撃による応戦は、已む無しとするッ!!!!」

騎士たちは無言で頷いた。馬が足踏みを繰り返し、あぶくを飛ばした。
自身が消えることで、ミューズは孤立する。
勝てる見込みは     恐ろしく、低い。
ならば。少しでも遠く。少しでも多くの戦力をこちらに引き寄せ撤退する。

マイクロトフは己の矮小さを噛みしめた。
これっぽっちの力しか振るえぬ、自身の未熟さを、恥じた。



そのとき、城門の上で、二人の半人前が叫んだ。しかし、彼らは行動した。体を泥だらけにしながら油壺を抱えた。
そして同じく、また別の場所で、額に緊箍児をはめた少年は指先を震わせた。「騎士団が、撤退……!」 馬にまたがる彼女の姉が顔を青くする。「、ど、どうしよう……! 私達も、」 それ以上の言葉を、彼女は飲み込んだ。

「あいつら……!」 
耐え切れない。
それ以上の言葉を言うこともできず、もう一人の少年は手綱を力強く握り締める。その場に、異世界の子どもがいれば、息を飲み込んだに違いない。少年のうちから、黒々しい光が噴出する。深い怒りが彼の右手を刺激する。


は、静かに目を細めた。兵は疲弊し、動揺している。馬に乗ることさえ困難なものも多い。これ以上の足止めは困難だった。ただあちらの損害も少なくはないはず。あとほんの一押し、一押しさえあれば。
彼は柔らかく息を吐き出した。右の手に意識を集中させる。瞬間、ジョウイは瞳をしばたたかせた。「! 何を!」「力を……」「!」「輝く、盾の紋章よ!」

体中がひきつる。何か、大切なものが、少しずつ自身から抜けていく。


恐らく、そのとき自身の体の変化を理解した兵は、一人としていない。柔らかな光に包まれた端から、みるみるうちに傷がふさがり、重症を負っていたものでさえ、重い瞳をゆるゆると開けた。だれもかれもが、頬に赤みがさしている。体中に力がみなぎる。
ただ彼らは一人の少年へと目を向けた。
理由があった訳ではない。
そうすべきと、理解していた。


「怯える必要なんてない!!」

少年は叫んだ。


「ただ、僕らは突き進むだけだ     !」





  

2011/12/22

敬語じゃないときのカミューの一人称がわからないので「俺」で

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