踏みしめた道





     都市同盟にて、黄金の竜あらわる。


(馬鹿馬鹿しい)
と、笑い捨てることは簡単だ。「フィッチャー、報告を」 コツリと指の先で音を出す。胡散臭い無精髭を生やした男がポリポリと頭をひっかきながら口元をニヤつかせる。「シュウどの、グリンヒルについてのご報告は、すでに済ませたと思うんですがね」 それともマチルダ、待てども返事のないティントですかね? とわかりきった言葉を使う。

「竜だ」

散らばる書類を片手でどけた。「この都市同盟中に広がる、あの不可思議な噂についてだ。グリンヒルからお前が帰還したその日、こちらへ旅したものはその両足ではなく竜の背だった。間違いはないな?」 すでに調べはついてある、と額に手を置くと、「間違いはないですねぇ」と飄々と男は笑った。

「だったら、かたっぱしからお前が必要だと感じた情報全てを俺に話せ。それがお前の責務だ」
「なるほどなるほど」

確かに違いありませんね、と言葉を軽くさせて、フィッチャーはひょいと肩をすくめた。それじゃあご報告さしあげます、と額の布をひょいといじって笑った。馬鹿馬鹿しい、と俺はひとつ、笑い飛ばした。



   ***



「こんにちは、シュウさん」

僕はそう言ってシュウさんに挨拶をした後、あんまりにもシュウさんが僕を凝視するものだから、何か変なことをしてしまったのだろうか、と心配になった。そうした後に、唐突に話しかけてきたが、一体こいつは誰だ、と考えられているのかもしれないと気づいた。「あの、えっと、僕は」「か」「あ、え」「なんだ、間違っていたか?」 

怒っているのか、そうじゃないのか分かりづらい。表情が動かないのに、声はヘイタンだし、言葉数も少ない。ぶんぶん、と僕は首を振った。それでも案外、彼を怖がっていない自分に気づいた。ちょっとだけそのことに気づいてびっくりした。

「僕の名前、知ってたんですね」
「前に俺が聞いただろう。一度知った顔と名は忘れん」

ついでに言うと、グリンヒルに向かった人員を把握していない馬鹿な軍師が、一体どこの世界にいる。と言われて、はあ、と僕は生返事を繰り返した。とりあえずお前のことは知っている。そういうことだ。(うん) 名前を覚えてくれているということは、案外嬉しいことだと思う。僕はにこにこして彼を見上げた。シュウさんは相変わらずの無表情で僕を見下ろした。それからポケットに突っ込んでいた手を抜き出して、僕の腕をつかんだ。「……え?」

「あ、あ、あの、シュウさん?」

何するの? と尋ねる間に、シュウさんはずんずんと僕を捕まえて進んでいく。っていうか、「どこに行くの?」「執務室だ。少し話がある」「え、こ、困るよ、僕、今ユズちゃんと一緒にいて、豚さんとかのお世話をしてるのに」「それはお前が抜けることで、不都合がある内容か?」

そう問いかけられると、思わず口をつぐんでしまう。僕は確かにお手伝いをしているけれども、それは本当にお手伝いという程度で、僕がいなくて、とっても困るというようなことでもない。
そんなユウジュウフダンな僕の反応を見てか、シュウさんは手のひらを放してカツカツと歩を進めた。「……あの?」「なんだ。ついてくるんだろう」

さっさとしろ、というなんともオウヘイな言葉に、僕は一瞬ぽかんとして、耳元あたりを引っ掻いた。


一体全体、どういう用事があるんだろう、と不思議な疑問を抱えたまま、僕はシュウさんの執務室を訪れた。前に一度顔を出したことがあるそこは、相変わらず書類ばかりが重なっていて、目の前がくらくらする。だというのに、綺麗に整頓されていて、塵一つないものだから、どこか妙な違和感があった。なんでだろう、と考えてみると、傭兵の砦では、いつもぐちゃぐちゃと書類がとっちらかっていて、フリックさんが頭を抱えて慣れない動きでペンを動かしていた。

ちょっとだけ懐かしい気持ちのまま、僕はシュウさんの背中を見つめた。シュウさんはぼすりとソファーに座り込んで、「座れ」と呟く。はいっと僕は彼の言葉に従った。なんだか先生を相手にしているみたいな気持ちだ。

それでシュウさん、御用はなんでしょうか。そう問いかけたいのに出来ない。シュウさんはため息をついた。「お前、年はいくつだ」「え、10歳……かな?」 たぶん。「多分?」とシュウさんは不可解な顔をした。こっちとあっちの日付が違うものだから、もしかすると、もうとっくに誕生日を超えているのかもしれない。うまくそれを説明する言葉が出ないでいると、「なるほど、戦災孤児か」「あ、いや」「違うのか」「えっと、両親は、いない……かな?」 ここには。

ふうん、とシュウさんは頷いた。「軽い質問をしたいだけだ。そう硬くなるな」「はあ……」 軽い質問と言われてもなあ、と考えてみる。シュウさんが僕に訊きたいこと。そう考えて、ひとつだけ思い当たることがあった。僕はギュッと胸を握った。

「黄金の竜についてだが     
「知らない」

首を振った。シュウさんは眉をひねった。早くに否定をしすぎたことに僕は気づいた。色んな人に訊かれるものだから、僕は全部の台詞に知らないと首を振った。だからついその癖で、まるでむきになるように否定してしまったのだ。「知らないとはどういう意味だ」「ど、どういう」 彼の硬い声に唇を噛んだ。

「竜の噂を知らない。竜を見ていないから知らない。見たはいいものの、深い事実までは分からない。いくつかのパターンがあるだろう。お前のそれは、このどれに当てはまる?」
「え」

そんなこと、全然考えてなかった。僕は唇を噛んだ。とにかく知らないと言えばなんとかなる。そう思っていた。けれどもきっとそれじゃ駄目だ。この人にはダメなんだ。
(嘘はつかない方がいい)
つけばつくほど、きっと僕はボロを出す。だから、つく嘘は最低限だ。

「竜は見ました。でもそれが何なのか、僕にはわかりません」
「ほう。竜は見たか」

では城に流れる噂は事実ということか。とまるでこっちに聞かせるようなそのひとりごとに、僕はシンチョウに言葉を考えた。「噂って、なんですか?」「グリンヒルから帰還した者たちは、王国兵に包囲されたあの森からの脱出に竜を使ったという」 危ない。心臓がドキリと動いた。(シュウさんは初めから知ってたんだ) そんなことを調べればすぐわかる。人の噂に戸を立てることができない、なんて言葉があるじゃないか。あのときグリンヒルから脱出したのは、僕一人きりではない。たくさんの人がいた。動いた彼らの口は、どう考えたて重要な証拠だ。

ここで僕が知らないと言い張れば、きっとシュウさんは怪しんだ。(やっぱり、本当のことを言うべきだ) 何も覇王の紋章さんのことを言う必要はない。僕は他の人と同じだ。たまたま運良く竜がやってきて、彼に助けてもらった。それだけだ。「まあいい。俺はこの話にいささかの興味がある。竜に関わるものの中で、お前はグリンヒルより前にこの城に席を置いていた、唯一の人間だ。話を聞くにはうってつけだろう」

たまにはそんな気を抜いた話もしたくなる。そう付け加えられた言葉に、僕はぼんやりとシュウさんを見上げた。シュウさんと言えば、バリバリと仕事をして疲れた顔なんて一切しない。そんなイメージというか噂だったのだけれど、やっぱり彼も人間だったのだ。(当たり前だよね)「俺はいらん。お前が食え」 唐突に投げ渡された焼き菓子を受け取って、僕はパッと嬉しくなった。ありがとうございます、と頭を下げて、僕が知る限りの(あくまでも紋章さんの事実を除いた)話をしようとしたときだ。
こんこん、とノックの音が響いた。「フィッチャーですが」「入れ」

「失礼しますよっと」と言いながら顔をのぞかせたフィッチャーさんは、僕を見てビックリした顔をした。それからシュウさんを見比べて、どこか不審げな顔で顎をひっかいて、「シュウどの、ティントからの使者の話なのですがね」「ああ、未だに確認はとれていない。、続きを」「え、はい」

むぐむぐ、と僕はほっぺたに焼き菓子を詰め込む。美味しかった。
フィッチャーさんは、どこかそわついた顔をしていた。そんな彼を見て、何か変だなと感じたのに、僕は特に何も考えず、紋章さんを思い出した。「森の中に、竜がいたんです。大きな大きな、金色の竜です。どこから来たのかはわからなかったんだけど、彼はいつの間にか僕の前にいたんです。それから、僕を心配しに来たニナさんが来て     」「待て」「え?」

きょとんと僕は瞬きを繰り返した。
「お前のその言い方だと、竜を見つけたのはお前、ということになるが」
「……そうですけど?」
「フィッチャー」

どうやらお前の報告とは、仔細が違うようだな、と口元をにやつかせるシュウさんを見て、僕は慌ててフィッチャーさんを見た。フィッチャーさんは困ったように笑って頭を引っ掻く。(そうだ。おかしい) 
     お前はグリンヒルより前にこの城に席を置いていた、唯一の人間だ

シュウさんはそう言った。けれども違う。
(フィッチャーさんがいるのに)
話を聞くのならば、彼からすべきだ。シュウさんは、とっくの昔にフィッチャーさんから話を聞いていた。それなのに、お菓子なんて出して餌でつって、僕から話を引き出そうとした。
     フィッチャーさんが、何かを言ったんだろうか。

違う。報告とは仔細が間違っている、とシュウさんが言ったじゃないか。フィッチャーさんは約束を守ってくれた。言わないで欲しいという僕の約束を守ってくれたんだ。
「いやいや、間違っていませんよ。くんが竜を発見したというのは事実ですがね、シュウ殿、あなたは私が必要だと感じた情報を話せとおっしゃった。私はその部分を必要に感じなかったと、ただそれだけの話です」
「その言葉は少し間違っているな。必要と感じた、全ての情報を話せ。俺はそう言ったはずだが?」


なるほど、とフィッチャーさんは悪びれもない顔つきで肩をすくめる。「あの、待ってください!」 思わず僕は叫んでいた。「僕がフィッチャーさんに頼んだんです。あの、僕、変な紋章を持ってて。竜とか、紋章の言葉がわかる……気がするんです。でもそれ、あんまり人に言いたくなくって。だからフィッチャーさんには黙ってて欲しいって、お願いしたんです!」

無理なお願いをして、本当にごめんなさい! と僕は思いっきり頭を下げた。フィッチャーさんは「ひょえっ」と変な声を出して、「いやいやあのですねくん。本当にですね、私は必要と思わなかったんですよ。くんがあの竜を操れる訳じゃない、というのは本当ですよね」 うん、と僕は何度も頷いた。もしそうだったなら、僕は今頃トランの国に行っている……かもしれない。さすがに色々なことをほっぽり出してというのはずるいから、少しだけ行って、ぴゅっと戻ってくる。それくらいのことはしていると思う。

「もしそうじゃないてんなら、いくらでもシュウ殿に報告をしていますよ。でもシュウ殿は竜について話せと言いましたからね。くんのことについて詳しくと言われた訳じゃありませんし」 と、言うわけで私への目玉はなしってことでいかがです? と両手をへらへらさせるフィッチャーさんを見て、シュウさんは頭を抱えた。

「フィッチャー。俺はお前を中々に使える人間であると判断しているが」
「おお! それは光栄です」
「お前は少々独断の行動がすぎるな」
「たはは」

よく言われますよ、とへらへら笑うフィッチャーさんを相手にして、シュウさんは「まあいい」と額をかきあげた。「この程度のことも分からぬ軍師であるのならば意味が無い。つまりはそういうことだろう」



フィッチャーさんからは軽いお説教があったあと、僕とシュウさんは相変わらず2人で向き合った。へらへらと消えていったフィッチャーさんを思い出して、僕はちょっとだけ嬉しくなった。彼は僕の約束を守ってくれた。

「何故と不思議には思わないか」
「え?」
「竜とともに城に帰還した人間は、お前以外にも大勢いるだろう」

なのになんで、いちいち僕を呼び出したかということだろう。僕はううんと考えたけれどもやっぱり分からなかった。「あの……シュウさんが、さっき言ってたみたいに、グリンヒルの前から城にいた人間だから……?」 僕とフィッチャーさん以外はと言うと、あとは全部ミューズの兵か、グリンヒルの市民達だ。「あれはただお前の警戒心を逸らさせるための詭弁だ」「きべん……」 すっかりそらされて申し訳がありませんでした。

「俺がこの城に来た、初の戦を覚えているか」

お城での防衛戦を行った、僕が初めて戦場に参加したときのことだ。僕は即座に頷いた。「そこで、奇妙な報告があがっていた。ある一部の地域でのみ、紋章の使用が行われなかった形跡があると」 より詳しく言うのであれば、王国兵の紋章が、うまく作用しなかった。

どきん、と心臓が嫌な音を立てる。

「とるにならない報告であると俺は考えていた。けれども、頭の片隅には残しておいたつもりだ。その中に参戦していたリストの中に、お前の名があった。殿とともにグリンヒルへ向かわせる際に、お前がどれほどの腕前か、こちらでの調査の必要もあったからな。その確認はすんでいた。そして今回の竜の騒ぎだ」

ぼすりと椅子に座り込んだシュウさんは、足と腕を組み合わせたまま僕を見た。僕はガチガチに固まって彼を見つめた。「お前は一体なんだ?」

     僕はなんなのだろう


小学4年生の、多分十歳。
数学と理科が得意で、特技は暗算。勉強は出来るほう。運動も得意。学校にはいじめっこがいて、給食袋をよくとられる。
それは、随分前のことだ。
僕は覇王の紋章さんに選ばれた。無理やり世界に引っ張りこまれて、フリックさんに拾われた。

真の紋章を宿す人間。

きっと、シュウさんが欲しい答えはそれだ。
長く長く、僕は手のひらに目を向けたまま息を吐き出した。
そのあと、シュウさんを見つめた。

「知りません」
「知らない?」
「なにものか、なんていきなり問いかけられて、どう言えばいいのかわかんないです。あえていうなら、今はユズちゃんのお手伝い見習いってとこですけども」

それ以上どう言えって言うんです?
そんな風な台詞が、勝手に口からあふれていた。心臓のどきどきも別にない。するすると口から台詞が出るものだから、そうしゃべっているうちに、本当にそんな気分になってきた。僕はただの拾われっ子で、紋章を全然使えなくって、フリックさんに付いて行きたいけれども行けない。寂しいなあと考えてる。ただそれだけの子どもだ。

シュウさんは僕を見た。それから、目尻に手のひらを当てて何かを考えるような仕草をした。それから本当にどうでも良さげに立ち上がって、「まあいい」

「初めからそれほどの興味はない。勘が外れることもある」
「勘?」
「ああ、商人としてのな。利用できるものに関しては、ひどく鼻がきく性分でな」

いや、シュウさんは商人さんじゃなく軍師さんだよね? なんて問いかけも今更だ。お話はそれだけですよね、と立ち上がろうとしたとき、シュウさんはふん、と僕を見て鼻で笑った。「そもそも、ただの子どもに何ができる訳でもない。いい暇のつぶしにはなったがな」

僕はそんな彼の言葉をきいて、ふうん、と思った。彼は僕を怒らせようとしている。怒らせて、僕の本当を知ろうとしている。だって、彼はその子どもに仕えている立場なのだ。さんという軍主様の下にいて、彼の力になろうと奔走している。
シュウさんは、そんな自分の言葉が僕に対してさして意味のないものであると悟ったらしい。ため息をついた。「お前は挑発というものに反応を示さないタイプか」「うーん、さあ……?」 場合によりけり? だなんて首をかしげると、またため息をつかれた。

「もういい馬鹿馬鹿しい。時間の無駄だ」
「あの、えっと、ごめんなさい」
「さっさと戻れ」

はいっ! と僕はまた敬礼した。シュウさんは、机の椅子に沈んですでに書類をめくっている。忙しい人だ。ふと、僕は気になった。「ねえ、シュウさん」 ドアノブに手を置いて、振り返る。「もし、僕がその……時間の無駄じゃなくって、何かこう、色々と関係してたら」 もしもだよ、と言葉をおいて。「シュウさんは、どうしてた?」


「利用していた」

あんまりにも間髪が入れないその言葉に、僕はきょとんと瞬いた。「利用」 彼はぴらりと白い紙を取り上げて、ハンコを押す。「俺がお前を、うまく使ってやっていた。ただそれだけだ」 また別の紙を、彼は持ち上げた。

僕はただ、シュウさんを見つめた。いつまで経っても、僕が部屋から出て行かないものだから、シュウさんはちらりと僕に視線を向けた。お腹の底が唸っている。そんな気がした。

「僕は役に立てる」

台詞の最後の疑問符を、取り除いた。左手を握る。「妙なところにひっかかるやつだ」 シュウさんがそう皮肉げに笑った。「ああ。もし本当に、お前にその価値があるのなら。いいやなくとも。俺がうまく、お前を使いこなしてやる」 そうしてこの戦いに勝利を治める。

長く、僕は彼を見つめた。
色々なことを考えた。左手を握って、紋章さんを見つめた。紋章さんは、びりびりと震えていた。彼は自身の存在を誰かに伝えることを、ひどく嫌がった。そのたびに僕の左手を震えさせた。
けれども、もう別にそんなことどうでもいいのだ。僕は少しばかり痛みに強くなったから、僕は好きに行動することができた。
自分で考えて、足を踏み出せるようになった。
けれどもやっぱりためらった。
何度も何度も考えた。
そして、僕は







戦いが始まる。
デュナンの軍は、マチルダ騎士団との同盟の締結を望んだ。
しかし、暴君ゴルドーはこれを拒絶した。
積もらせた不満ははじけ飛び、多くの騎士が、これを機として同盟軍に離反した。
ただの小さな、小さな火種であった僕らは、いつの間にか大きく燃え盛った。

しかしそれは同時に、王国軍との新たな衝突を予感させた。
燃えすぎた炎に水をかぶせるが如く、王国軍の進軍が始まる。デュナン軍はこれを迎え撃つ。
力の力のぶつかり合いだ。
全軍での出撃に、僕らは蛮声を響かせた。









     我ら、コボルトはデュナン軍から離反し、撤退した!!!!!」

響く咆哮に、動揺が走る。けれどもそれは一瞬だ。「しかしこれは、シュウ殿の策である! 離反したと見せかけ姿を消し、王国軍を背から叩く! そう私は命じられたのだ!!!」 どよめきの声が馬上にて響く。リドリーはぴくりと耳を立てて、犬歯をむき出しに叫ぶ。「しかしだ!」 ピタリと兵は動きを止めた。

「これはコボルトの孤立も意味する危険な任であることは間違いない! が、しかし! それに一体、いかほどの意味があるか!? シュウ殿は、我らを信頼し、全てを一任した! 我らは勇気を、勇敢さを持って、それに答えねばなるまい! 我らの軍に、腑抜けはおらぬ! 違うか!?」

オオオオオオオオーッ!!!!!!!!!!

重なる雄叫びに、馬が震え、あぶくを飛ばす。馬に乗らぬコボルトでさえも、喉を震わせオオンッ! と吠えた。
ふと、小さな影があった。
あふれる熱気の中、その影はきょろりと辺りを見回した。「お前、変な格好をしてるワン?」 なんでだワン? と問いかけられる声に、影は頭まですっぽりとかぶったローブに手をかけて、ぶるぶると首を振った。

「いや、そんなことないよ……だ、わん」 
「そうかワン?」
「そうだわん。変じゃないわん」

声を押し付けるように、重ねた。そうかワン? と、もう一度コボルトは首を傾げた。
鬨の声は続いている。



王国軍と、同盟軍との激突が始まる。







  

2012/11/25

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