*下ねたやらしい行為注意。心持ち本気でR15くらい。
グリーンさんと、二人でドアの前に立った。
何度も一緒に来たけれど、いつもはここでバイバイと別れて、彼の背中を見るだけなのに、今日は私の隣にいて、鞄の中から鍵を取り出す私の手元をじっと見つめている。指先がちょっとだけ震えた。なのでグリーンさんの顎をぐいっと押して、「あの、あっち向いてて」「向いててって」 ……なんでまた? と不思議気な顔をする彼の体をぐるりと回して、背中合わせになりながらガキを差し込む。かちゃんっ
扉を開けて、もういいよ、という意味で彼の服の端っこをひっぱった。腕を組んでいたらしいグリーンさんは、「お」と目をちょっとだけ大きくして、ぱっと私の後ろに移動した。玄関に二人で入ると、なんだか狭くなった気がする。グリーンさんのマンションとは違って、うちのアパートは小さいのだ。
とりあえず私が最初に靴を脱いで、グリーンさんがそれに倣う。
ふと、部屋が寒いな、と思った。暖房をつけた方がいいかもしれない、と思ったとき、あっと思いだした。「あ、あの、グリーンさん、ここで待ってて」「ここ?」「えっと、洗濯物、畳んでなくて」 グリーンさんはきょとんと瞬いて、「別にいいじゃん、それくらい」
別に気にしないけど。と言う彼に、私が気にするから、と首を振って、「待っててね」ともう一回念押しした。けれどもグリーンさんは、「だから、気にしないって」「だめ」 だめだからね、強く言葉を出して、ぱたぱたとリビングに向かう。やっぱりだ。私は慌てて洗濯物の隣に座り込んで、おりおりとたたんでいく。そのときバタッとドアが開いた。「さん、手伝おうか」 私はぴたりと固まって、グリーンさんを見た。グリーンさんも、私の洗濯物を見て、固まった。そしてちょっとだけ気まずそうな顔をして、そそくさと視線を逸らした。
私は手に持ったブラジャーとパンツをくしゃくしゃさせて、口をパクパクしていると、「…………わるい」 パタン。
閉まったドアの向こう側に背中を預けているらしいグリーンさんに、「ばか、だから駄目って言ったのに、ばか!」と叫んで、ばしばしと手近にあるタオルを、ドアに向かって投げつけた。
「……まあ、すみません」
「…………」
「ごめんって」
「…………」
「俺、気にしてないし」
そりゃ下着くらいあるだろ、と私の隣に座って、飄々と答える彼の肩をぱしりと叩いた。グリーンさんは叩いた私の手を取って、「気にすんなって。いいじゃん、可愛いじゃん、ピンクのブラジャー」 冗談抜きで怒った。殴った。連発した。「うわ、ちょ、わ、ジョークだろ、おま、さん、ちょっとしたジョークだってば!」
事前に来ると分かっていたら、私だって、お洗濯ものの一つや二つ、きちんとたたんでいたのだ。今日一緒に帰っていて、それじゃあうちに来ようか、ということになっていて、流れが一気すぎて、今でもちょっとついていけない。
カーペットの上に座って、じっと自分の膝の上を見ていたものだから、グリーンさんは私が不機嫌だとでも思ったのかもしれない。「……さんー?」と言いながら、私の頭をぐりぐり撫でてゆさゆさ揺らした。視界が回る。
「いっ、いい加減に、しなさい!」
「え? 機嫌直った?」
怒んない怒んない、と顎の下をかりかりとひっかかれて、怒ればいいのか、呆れればいいのか、ちょっとよくわからなくなってきた。「グリーンさん、こそばしい」「そう? うちのピジョットさ、こことかひっかくと喜ぶんだぜ」「私、飛行タイプじゃないし……」 いやそういう問題でもないか。
「グリーンさん、いつまで大丈夫なの?」
もう日も暮れている。晩ご飯だって、まだ食べていない。うーん、とグリーンさんはちょっとだけ考えるようにして、「ポケモンたちの飯は、ジムで済ませたし……」と腰元につけているモンスターボールをちょいと撫でた。「さん、冷蔵庫の中見ていいか?」「う、うん……」
初めてやって来た男の人に、最初に下着を見られて、その次に冷蔵庫とはいかがなものか。
冷蔵庫の蓋をパカッと開けて、「ふんふん、うんうん」と頷いていたグリーンさんは、パタンと蓋を閉めて、「さんが台所と食材貸してくれるってんなら、こいつらの飯もつくれるし、まあ昼頃までなら」
お昼まで。今は思いっきりに夜である。つまりそれって、と赤くなりそうな顔を誤魔化すように下に向けて、私はうん、と頷いた。「じゃあ、ご飯にしようか!」 何が食べたい? とグリーンさんに訊いたら、グリーンさんはちょっと考えるようにして、ちらりとキッチンに目を向けた。「なあさん」「ん?」「俺が作っていい?」 こないだの汚名返上で。
こないだ、というのはなんのことだろう、と首を傾げていると、「ほら、カップラーメンな。いっつもあんなの食ってる訳じゃねーし」「あ、あ、あー」 そういえば、結構前にスーパーでグリーンさんと会った気がする。別に、汚名も何もないんじゃないかなぁ、と私は思うのだけれど、彼からしたら違うらしい。腕まくりをしながら、よしよし、フライパンはどこだ、調味料はどこだと顔をきょろきょろさせ始めた。
「あの、じゃあ、グリーンさん」「おう、なんだ」 リクエストなら、なんでも受け取るぞ、とむんと自慢気な顔をした彼に、「……一緒に、作る?」 初めてのお台所じゃ、勝手もわからないだろうし。
そう言って、ちょんちょんと自分の手のひらを合わせると、グリーンさんは少しだけ目を大きくした後に、にかっと笑った。「そりゃいい考え」 ぐいっと腰を引き寄せられて、頭のつむじにちゅっとキスをされた。ひいいい、と思わず彼の服をつかむと、グリーンさんはけらけら笑って、私の背中をとんとん、と優しく叩いた。
***
「グリーンさんって、器用なんだねぇ」 というか、手際がいい。
初めてだからと私が一緒につく必要もなく、すぱすぱと道具の場所を探し当てて、じゃっじゃとフライパンを炒める。「まーなー」とグリーンさんはまんざらでもなさそうに口元を上げて、「俺ってば、何でもできる男だから」 うん、そうだねぇ、と彼が作ったスープを飲み込んでニコニコすると、グリーンさんは少しだけ拍子抜けしたように瞬いて、「卑屈もなしに受け止められたら、なんかこっちが照れるな」とちっちゃな声で呟いた。
私がえ? と首を傾げると、「うまい?」とグリーンさんはテーブルに肘をついて、手のひらに頬をのせながら私を見た。「うん」と言って笑うと、グリーンさんも嬉しそうに笑って、「そりゃよかった」
一緒にお皿を洗って、お片づけをして、座布団を出して、えへへと向い合って座った。なんだか変な感じだ。自分の部屋の中に、グリーンさんがいる。グリーンさんはお座布団の上に座りながら、きょろりと辺りを見回した。あんまりにもきょろきょろと目を向けているものだから、「あの、グリーンさん」「ん?」「あんまり、見ないでくれると」 恥ずかしいし、とカーペットに手のひらをのせると、「いや、さんの部屋かーって、思うじゃん」
思うじゃん、って言われても。
「だから、その、恥ずかしいし」「さんだって、俺の家に来たろ」 な? と首を傾げられる。そんで、こういうこともしたよな、と言って、彼はふと屈んで、口元にキスをした。思わず口元を手のひらで押さえると、その手もどかされて、もう一回キスをした。ふと、口元に妙な違和感があった。「……グリーンさん、舌が?」 うん? と彼は笑って、「さん、お口を開けましょうか」
なんとなく言われた通りにすると、グリーンさんがもう一度私にキスをした。けれども今度は口の中ににゅるりと暖かい何がが入る。ひえ、と逃げようとしても、グリーンさんがどんどんのしかかるものだから、勢い余って、頭からカーペットにぶつかった。いや、ぶつかりそうになった。「おっと」と私から口を離したグリーンさんが、私の頭の後ろを持って、私を支えてくれている。
ほっとして彼の腕の服をつかむと、半分押し倒されているような体勢なことに気づいた。頭の上の電気が、彼の顔に影を作る。
今度こそ、グリーンさんは私の顔の横に手を置いて、膝と膝で私の体を上から挟んだ後、またぺろりと唇をなめられた後、舌を入れられた。今度はちょっとは覚悟ができていたから、口の中の彼の舌に、私も必死に合わせるようにして、舌を動かした。お互いの唾が口の中で混ざり合って、なんだか変な感じだ。でも嫌じゃなかった。寧ろその反対だった。
ん、ん、とお互い変な声を出しながら何度もキスをしていたら、ふと、下半身にグリーンさんの手のひらが伸びていることに気づいた。スカートの中に、彼の腕が入っている。内側のふとももをこするようになでられたものだから、思わずびっくりしてももを閉じた。けれども彼は気にすることなく、閉じた太ももの間に指を動かして、長い中指で、ちょん、とパンツの上から私の下を押さえる。「ひっ……」
さわられて、びっくりした、ということもあったのだけれど、いつの間にかちょっとだけ濡れていた。そのことが、なんだか恥ずかしくなった。
グリーンさん、と小さな声で彼を呼んで、ぐい、と彼の肩をひっぱると、「ん?」と彼は返事をした。けれど、返事をするだけだった。彼の中指が、ゆっくりと動く。「あ、ぐ、ぐりーんさん……」「うん」 やっぱり半分生返事だ。
何度も指が下をこすっている。「や、ちょっと、あの、ぐ、ぐりーんさん……」 そのうち、彼の指が人差し指と中指に増えて、ぐいっと力強く押された。つぷ、と下着越しに、ちょっとだけ指が入る。うわあ、とびっくりして、また膝に力が入った。別に気持ちがいい訳じゃないと思う。あ、触られてる、と思うだけだ。なのに勝手にどんどん濡れてしまって、多分そのことはグリーンさんもわかっている。その事実が耐えられなかった。
グリーンさん、やめて、と声をかけようとしたとき、ふと彼が私の耳元で小さな声で、呟いた。「さん、する?」「な、なにを……?」 嘘だ、わかってる。けれども思わず訊いてしまった。グリーンさんは、ちょっとだけ笑った。それからちゅ、とキスをして、その間もぐりぐりと彼の指が動いていた。
ぷは、と口を離すと、今度はグリーンさんは、ぺろりと私の耳たぶを舐めた。本気で体が震えた。ひいっ、と喉から高い声が出る。「俺は、さんとしたいんだけど」 さんは? とグリーンさんが訊いている。どうだろう、わからない。いきなりそんなことを言われても困ってしまう。ぐりぐりと押される彼の指に、びくりと太ももを震わせてまた彼の手のひらを挟んでしまった。そうしたら、グリーンさんは何故か嬉しそうに笑っていた。
その顔を見ていたら、じゃあ、いいかなぁ、と思ってしまう。一番最初にグリーンさんにキスをされてしまったときと同じで、グリーンさんなら、まあいいかなぁ、と思うのだ。なんだかずるい。「……うん……」と私は頷いた。グリーンさんは、「ん?」と首を傾げた。わかってるのに、わかってない顔をしている。そんな気がした。
グリーンさんの手の動きは止まっていて、じいっと私を見下ろしていた。私はなんとなくぼうっとしてしまって、「うん」ともう一回頷いた。
「あのね、グリーンさん」
「うん」
「しても、いいかも」
「うん」
「あ、いや」
「うん」
「したい、かも」
でも、よくわかんない。
そう最後に呟いたのに、グリーンさんは嬉しそうに笑って、もう一回私の耳たぶをぱくりと噛んだ。ひえっとなってしまう。それは駄目だ、びっくりする。ばたばたと結構本気で暴れた。
グリーンさんはそんな私をぎゅっと抱きしめて、カーペットと私の頭の間から手をすくって、よしよしと撫でてくれた。彼の肩口から、ひょっと顔を覗かせて、じわじわとほっぺが熱くなっていくのを感じた。よしよし、と彼が私の頭を撫でてくれている。なんだかぱっ、と胸が幸せになった。
そうか、しちゃうんだ。今からしちゃうんだ。
そう思って、今度はごそごそグリーンさんの下に顔を移動させて、彼の胸あたりにぐりぐりと頭をこすりつけると、グリーンさんは私をひっぱり起こしてけらけらと笑った。それから顎をつかまれて、ちゅ、ちゅ、と何度もキスをしていた後、彼は唐突に、「あ!」と叫んだ。そして自分のズボンの後ろのポケットに手をつっこんで、さーっと顔を青くさせた。
「あの、グリーンさん?」
またポケギアか何かだろうか、と彼が手のひらを入れているポケットに目を向けると、彼は苦い顔をしたまま、「今、ちょっと、持ってない」「…………なにが?」 ポケギア? 「ゴム」と彼は短く呟いた。
ゴム? と首を傾げた後、二三秒でその言葉の意味に気づいた。「あ、そ、そっかぁ。ないと、だめだよね、うん、だめだ」 うんうん、と私は顔を真っ赤にしたまま、何度も頷いた。グリーンさんは、「あー」とか、「うー」とかつぶやいて、私の頭の後ろをよしよしと撫でる。私はくしゃくしゃと髪越しに彼の手のひらの感覚を感じながら、ふと、目線を上げた。「あの、別に、今日じゃなくても……」 いいよ? と彼に言ったら、またグリーンさんは難しそうな顔をした。20秒ほど目をきつくつむりながら固まっているかと思うと、彼はパッと私から体を離して、「30分」 びしりと指を立てた。
「……うん?」
「いや、20分」
「えーっと……」
「20分待っててくれ。20分、さん、20分だから」
オッケー? と訊かれたものだから、なんとなく流れで頷くと、彼は「よしっ」と私の両肩を叩いた。そして勢い良く立ち上がって、椅子にかけていた上着をばばっと取り、中に入っていたらしいオサイフの中身を確認して、「20分だから!」 そう言って、玄関から飛び出して消えてしまった。
誰もいなくなった玄関で、私はぽかんとして今の状況を考えた。「えーっと、つまり……」 グリーンさん、買いに行っちゃった?
彼からしたら、本気以外の何者でもないのだろうけれど、なんだろう、思わず吹き出してしまった。私がけらけらと笑ってからきっちり20分後、薬局の袋を片手にして帰って来たグリーンさんは、なんだか少しだけしょんぼりしていた。
私はまた笑ってしまって、冷たくなった彼の手のひらをぎゅっと握って、ちゅ、と彼のほっぺたにキスをした。グリーンさんは、ちょっと複雑な顔をした後、同じくちゅ、と私の頬にキスをして、二人一緒に笑った。
それから私達は、一緒に夜を過ごした。
やっぱりちょっと、恥ずかしかった。
でもすごく、嬉しかった。
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