「よーし探すかー」



 少年はぶらつく



は首をゴキゴキとならして、家を飛び出した。その隣にはほんの少しサイズは違うが、の服で身を包んだソルが、待ってくれと、てけてんてけてん妙な格好で飛び出してくる。

「ちょっと待て、この靴は気持ち悪い」
「気持ち悪いってスニーカーじゃん。お前の靴ぼろいから貸してやるって」
「いや、こう底が妙に柔らかくて」
「慣れりゃ問題ない」

久しぶりの長期の休みなのだ。肌に冷たい風が入り込んでひんやりとした感覚が、背筋からのぼりやって来るが、駆け回ればこれくらいなんとでもなる。はどちらかというと、体育会系の思考だった。

「ソル、ほらトウヤを探すんだろ」
「ああ」
「顔、見りゃ分かるか」
「分かる」
「じゃあいい」

17歳、黒髪で学ランの少年。時間の流れがどうたらといっていたが、そんなものはこの際置いておこう。手始めに学ランの高校を探そうとは自分の脳内にインプットされている近くの高校の地理を思い出していた。
最悪の場合、周りの人間に聞き込めばいい。トウヤなんてありきたりといえばありきたりだが、珍しいといえば珍しい。少しは絞り込めるだろう。


「ソル、ちゃんとついて来てるのか」
「ん、ああ、ちょっと周りが面白くてな」
「おもしろい?」
「ああ、俺、こんなに人がいる時間、ここを通った事がないから」

腕時計を確認してみれば、まだ昼に早い時間帯だ。道路を通る車を、ソルは面白そうに見詰め、「おお」と口の中から感嘆の声を上げている。そういえばコイツは少し前まで随分悪目立ちする杖を持っていた。おまけといってもいいのか、少し個性的すぎる服も、少々問題があったろう。は一人頷くと、きょろきょろと視線を回すソルの頭をバシンと強く叩いた。

「いたいって」
「痛くしてんだ。真面目にしてさっさと帰れ」
「おう、そうだな」

ふと、頭の中にわき上がった疑問に、「ん?」とは首を傾げる。

「お前、ここに来たことないのか」
「ないな」
「じゃあなんでトウヤがここに居るって知ってんだ」


もちろん、現地に直接足を運ばなくても、そこに人がいると知る方法はあるだろう。しかしは、妙な胸騒ぎに、ソルの顔を真正面からじっと見詰めた。

「ん、いや、知らない」

もう駄目だ、ともう一度ソルの頭を力一杯ぶんなぐると、「お前バカじゃないか」と半分お決りな台詞を叫んだ。
響いた声と衝撃に、ソルはふらりと体を揺らせて、ほんの少し歪んだ唇から、「いたい」「痛くしてんだ!」

「いや、多分、ここら辺にいる気がするんだよ。トウヤがいる場所を指定して、陣を作ったんだし」
まぁちょっとずれちまったんだけどな、と力なく笑うソルに、はもうどうすればいいのかすらも分からなくなってしまった。


「このバカソル!」




1000のお題 【599 指定なし】




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2008.08.12