雑巾を片手に、きゅっきゅっ ぐっ、と掴まれた、腰の感覚に、「………ガイラルディア様」 お掃除します 掃除はキライじゃない。綺麗にするのは好きだし、もともと綺麗なこの屋敷が、もっとぴかぴかになっていくのが、なんだかちょっと快感だと思う。人が反射してしまうぐらい、キラキラと輝く大きな鏡に、自分の手をすっと載せて、きゅっきゅ、きゅっきゅ。「あの、ガイラルディア様?」「ん」「腰を掴まれていては、はお掃除ができないのですが」 そういうと、掴まれた手に、ぎゅ! と力がまた。ぐえっ、といいそうになった口を、思わずぎゅ、と閉じて、「ガイラルディア様?」 問いかけた言葉に、ぐいぐいと彼がスカートに顔を押しつける。その度に小さく動く自分の体が、情けないと思いつつも、きゅっきゅ、と手を動かす。 「」 呟いた彼の声は、随分寂しそうなものだった。「どうかなさったのですか、ガイラルディア様」 半分分かっている答えを、頭の中で予想させて、なんだか少し、複雑な気持ちになってしまう。「」「はい、なんでしょう」 「なんでもう、一緒に勉強しないんだ?」 ぽつん、と落とされた言葉に、きゅっきゅっ、と酷く無言な音が聞こえる。きっと、きっとこれは、とても喜ばしいことなんだと思う。すりつける顔の部分が、ぽっと、ほんの少し熱くなって、失礼ながらも、ほんの少し、笑ってしまった(彼は、何故こんなにも、可愛らしいのかしら)そうですね、と口先の言い訳考えて、「ガイラルディア様は、ご卒業なさったのです」 布を、窓の枠へと置いた。しっとりとしたソレから、うつむいて、顔をすりつけたままの彼の肩へと、すっと手を伸ばす。「卒業って、なんのことだ」 聞こえた不満げな声と、向けられた瞳に、また小さく、くすっ 「ガイラルディア様は、立派に文字を覚えられました。だから、もう卒業なのです」 「は、」 「は、まだまだ勉強が足りません。ですからこれからは、ガイラルディア様に追いつけるように、一人でお勉強します」 「俺、と一緒がいい」 「いけません。本当は、こんなことも駄目なのですよ。ユージェニー様の計らいがあってこそです」 それでも。スカートをひっぱったまま、ぐ、と口元に力をいれて、泣きそうな目元に、もっともっと、力を入れて。「それでも…………やだ」 かすかな、鳥の鳴く声よりも、微かなそれに、「ガイラルディア様」 ふわりとしたほっぺたに、指を伸ばして、つんっ。 「卒業といっても、まだまだお勉強しなくてはならない事は、たくさんあるんですよ。ですから、ガイラルディア様は、まだまだ勉強不足な私に、教えてくださいね」 うん、俺たくさん勉強するよ。彼は、また私のスカートに顔を埋めて、呟いた。 1000のお題 【842 手ほどきを受ける】 BACK TOP NEXT 2008.02.28 |