ガイラルディア様が、いなくなったらしい。


泣きそうになりました




彼の失踪は、初めてじゃない。私がいる間も、何度かあった事だし、一番初め、彼と出会ったときも、失踪途中だったらしい。あの少年の年齢にしては頭の回転が速く、好奇心も旺盛なんだと思う。屋敷の中も、ガイラルディア様がいなくなったというのに、どこか「ああまたか」といった空気が漂っていた。
がしゃり。鉄と鉄がすれる、音が聞こえる。「」甲冑に身を包んだペールさんが、ぽん、と私の肩を叩いた。





「ガイラルディア様!」

ぶわりと大きく風が吹いて、スカートが舞った。長い長いスカートは、たくさんの空気をはらんで、ふっくりとした形になる「!」
さー、と流れた緑の軌跡と、どこか青臭い葉っぱの匂いを、彼は体いっぱいにつけて、たたっと私めがけて、がすっ!「わわっ、ガイラルディア様!」
思わずほわっとした気分に、ぎゅ、眉間に力を入れて、「ガイラルディア様、黙ってお屋敷を抜けちゃいけないって、毎回いっているでしょう」

なるべく。自分に出来る限りの低い声で伝えようとしても、にっ、と小さく少年は笑って、「でもそのおかげでに会った!」といわれると、たちまち私は何もいえなくなってしまう。
それを知っているからなのか、この少年は、決して他の人間と、屋敷へ帰ろうとしない。『ガイラルディア様をよろしく頼む』 肩を叩かれながら、ふうと小さくため息をついていたペールさんを、ふと思い出してしまった。


ざわり、と風の音がした。正確にいうと、空気が動いて、パタパタと緑を倒すことで生まれた、ただの音なのだけれど。上を見上げれば、やっぱりあの日と変わらず、真っ青な色に、少年の瞳と同じで。
優しく反射した、金色の光に、一瞬、目を細めた。

あのとき、この場所で、彼が私を見つけてくれなければ、私は物言わぬ、ただの屍となってしまっていたんだと思う。それから、色々と経て、今の状態になっているけれども、不満なんてちっともない。元の世界に帰れたらと嘆く日々がなかったといえば、それは嘘だと思う(けれども、それを割り切れない程、私は子どもじゃなかったってだけなんだよね)
出来ることなら、このままずっと、彼の成長を見届けたい。けれども、公転周期も違うこの世界では、きっと私はすぐに老いて死んでしまうに違いない。

?」

随分、考え事をしていたらしい。不思議そうに、こくん、と首を傾げた彼に、「なんでもありませんよ」と微笑んだ。「そうか」とどこか納得のいかないような声を上げる彼は、やっぱり、聡い子どもなのだと思う。「護衛の方が、もう少し先で、待っています」


くいっと、引っ張った手の感覚に、ほんの少し、泣きそうに、なった。
(この、手のひらの小さな少年が、せめて、私よりも大きくなるまで、見守っていきたい)
(私の命を救ってくれた、彼の)


「ガイラルディア様、大きく、なってくださいね」
「ん? ああ、すぐになんて追い越してみせるさ!」





1000のお題 【681 誰への誓い】




BACK TOP NEXT


2008.03.08