キムラスカから、ユージェニー様へ、使者が送られてきたらしい。


嫌な予感がします




ユージェニー様をお呼びしてきなさいと執事に命じられ、珍しくもどこか小走りに廊下を走る。カツカツカツ。自室へは、先ほど行った。けれども、ドコにも見あたらないその姿に、「遅い!」と叫ぶ、執事さんの姿が、ぽっ。(ヒイイ、ご、ごめんなさい!)

うわわっ、と半分顔をうずくめながら、カツカツカツ! 両手を小さく、控えめに動かして、「ユージェニー様、いったいどこに……」

するりと、小さな影が通った。茶色い髪の毛に、背が小さな少年(ううん、背が小さいんじゃなくて、まだ小学生ぐらいだからかもしれない)
「あ…、待って!」 こんな屋敷の中に、ガイラルディア様以外の子どもがいる事に不信感を持つこと以前に、私は彼に声をかけていたらしい。「何か」 少年にしては低めな声で、ゆっくりとこちらを振り返って、ガイラルディア様と同じような、深い青の瞳が見えた。「え、えと、あの、ユージェニー様を見かけませんでしたか?」

庭園におられました。それだけ彼はぽつりと呟くと、またくるりと踵を返して、カッカッカ! と廊下を歩いていく     随分、大人らしい少年もいたものね。妙な言葉の合わせに、ううん、と考えてしまったけれども、はっとした。「そうだ庭園……っ!」



「ユージェニー様…!」

随分と不作法に、色とりどりの花たちの中に飛び込んでしまった。何の種類なのかは、私は知らないけれども、季節ごとに変わる素敵な色合いだとか、くんっ、と漂ってくる、思わずほんわかとしてしまいそうな匂いが、私は大好きだ。実は秘密のお話なのだけれども、ペールさんもこの庭園を気に入っているのだという事も知っている。

「あらあら、どうしたの?」

真っ白な椅子に、すとんと座って、静かに辺りを見回していたユージェニー様が、クスリと笑った。
気を抜いたら、肩でしてしまいそうな息を、ごくりと飲み込んで、「ユージェニー様、キムラスカの使者の方が、ジグムント様ではなくユージェニー様に面会があると」
私に? とぽつりと呟いた言葉と、眉に寄せられた、小さな皺。「ユージェニー様?」

なんでもないのよ、と彼女はいった。第一の応接の間かしら、と私へと尋ねて、はい、と私も返事をする。
キムラスカといえば、ユージェニー様が嫁いできた国だ。ここマルクトとは、実質敵対関係にあったと、誰かから聞いた。
どくん、と心臓が大きな音を立てる(……嫌な予感が、する)例えば、それが杞憂であればいいのだけれどと叫ぶ声に、ああ。

、あなた達は、何の心配もしなくていいの」

主に仕えるのはあなた達の仕事、そしてあなた達の信用に答えるのが、私たちの仕事なのよと、彼女は静かに微笑んだ。
はい、と返事をした声が、なぜだかほんの少し、震えていた。
(恐ろしい事に、ならなければいいのだけれど)




1000のお題 【132 カウントダウン】




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2008.03.09