瞳が押されるかのように、じくじくと痛い。


少年と話す




自分が何故ぽろぽろと情けなくないているのか理解出来なくなるくらい泣いて、体調が優れないとそのまま部屋で過ごしていると、頭の中は随分冴えてきた。
ゆっくりと日が沈む窓を見詰め、顔にオレンジ色の光が流れる。そのまま真っ暗になって、顔まで布団をかぶって、つまりはガイラルディア様が生きていたんだ、と頷く。

(でも、私は、ファブレ家の一員なのであって)

彼がこの屋敷へと来た理由は、考えられるかぎりで一つだ。
ガルディオス家、そしてホドでの復讐。クリムゾンの寝首の一つでもかいてやろうと、使用人になりすまし、潜入したに違いない。


おそらく。これは・フォン・ファブレとしては、当主クリムゾンへと不穏な人物が紛れ込んでいると報告するべきなのだろう。

(けれども、私はだ)

ガイラルディア様が、大好きだった、で、なのだ。


「うん、それでいい」

すっかりと夜が明けて、半分徹夜明けのような感覚のまま、布団から体を抜けだし、朝の光を浴びた。
さっさと起きて、ガイラルディア様をこっそり見詰めて、ペールさんの後ろをこそこそと歩き回ってやろう。ぺちぺち顔を叩きながら、備え付けの手洗い場で顔を洗う(…、よし)
いつまでもぐちぐち引っ込んでた所で、何がどうなる訳でもないのだ。


ドアをゆっくりと押し出して、まずは庭へと顔を出しているであろうペールさんへと向かった。心臓がドクドクと音を立てている事が分かる。ぐっ、と息を吸い込んで、足を踏み出す。一瞬、私の足はもっと長かったような感覚に襲われたけれども、違う。今の私は、ただの子どもだからだ。

誰かの足音が聞こえ、ふいに顔をあげると、ゆらりと金色の髪の毛が揺れた。どくんっ、とまたまた大きな音を心臓が立てて、サイズが少し合わない吊り下げ式のズボンを履いた少年が、ペコリとこちらに頭を下げる、「が、が、が、」「が?」 ガイラルディア様だ!

ペールさんの手伝いでもしていたのか、右手に持つバケツの中身が、重たそうにちゃぽんと揺れる。

「お気分の方は、大丈夫ですか」
「はい、も、も、もうすっかり!」

微笑んだ表情が、やっぱり昔と違っていて、がくんと気分が下降してしまいそうなのを踏ん張らせ、「私がお持ちします!」と叫びそうになる声を、思いっきり飲み込んだ。私が持ってどうするんだ。そもそも私の方がひ弱に決まっている。
(妙な事を、いわないよう、に)

唯でさえ好感度は、マイナスを軽く突き抜けて、どこかへ行ってしまそうな状況なのだ。好かれようとは思わないけれど(そりゃ、昔みたいににっこり笑って欲しいとはおもうけれど)それ以上に「妙なヤツだ」と彼に呆れられてしまえば、そのまま首を吊ってしまいたいような気分になるに違いない。


ガイラルディア様は、と口に出そうとして、そういえば昨日、彼はガイ・セシルだと名乗っていた。当たり前だ、堂々と本名で乗り込んでくるような復讐者はいないに違いない。

「あの、ガイ様は!」
「は?」


思いっきり、力一杯叫んだ瞬間、ぽかんとガイラルディア様が口を大きく開けた。 ビックリしたような可愛らしい、昔とまったく変わらないような表情に、私はとっても嬉しくなって、「ど、どうかしましたか?」とにこにこしながら訊いてみた。

ガイラルディア様はきょろきょろと視線を泳がせた後、じっと私を見下ろして、「すみません、様付けというのは」「………あ、そうですよね」


初っぱなから、呆れられた事に、またまた泣きそうな気分になってしまいました。



1000のお題 【192 自爆】




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2008.08.20