「………なんでいる」

じっと赤い髪の毛を揺らしながら静かに訊かれた。


割り込み中





「え、や、あの」

手の中に持った音素学の本をぱらぱらと誤魔化すように捲りながら、額に汗を流し、木刀を持つルークさんをちらりと見詰めた。その後にさんさんと照る太陽へ視線を投げて、また手元へと逃げ帰った。私が座るレンガのベンチの、ずーっと奥に、突っ立ったままの格好で腕を組んでいる金髪の少年へと視線を逃がす。「えと、うん」

室内にこもりっきりになる事の多い私が、鍛錬中のルークさんの隣にいる事がとてもとても珍しいのだろうけれど、まさかあなたの世話係の少年が気になるのでこそこそ様子をうかがっています、だなんていえやしない。

「……このあいだ、ルーク兄様に、部屋にばかりこもっていては、腐ると、」


嘘が苦手な訳ではないけれど、この赤髪の少年の前だと、どうしてもたどたどしくしか言葉が出てこない。眉間に皺を寄せた表情でじろりと見られてしまうと、なんとなく、「ホントかお前?」といわれているような気分になってしまうのだ。背中にじわりと嫌が汗が伝った。

何度も小さくこくこくと頷いて、ルークさんの様子を、ちらりと見る。
やっぱり眉間に寄っている皺に、ヒイイ、と思いながら手のひらに持つ本を握りしめていると、唐突に、彼に二の腕を掴まれ、ひっぱられてしまった。
座ったままの格好に、腕だけ力が加えられてちょっと痛い。

「あ、あの」
「それじゃあ、鍛錬だな」
「た、た、た!?」
「腐らせないように、体を動かすんだろ」
「………っ!(ぼ、墓穴を掘ったー!)」

運動不足のお前には丁度いい、と心なしかちょこっと機嫌のいいルークさんの声に、心底身震いしてしまった。このお貴族様なのに、無駄に体力がありあまっている彼に付き合っていては、体がもたない!
助けてくださいガイラルディア様! と死ぬ気の視線を投げかけても、ふいっと顔をそらされた。(アアアガイラルディアさまー!)


半分引きずられるような格好で、白いタイルを詰められた広場へとずるずるずる。手のひらからぽとりと落ちた本に、傷が付いていないかとても気になる。「ガイ、練習用の剣をもう一本もってこい」
投げかけた彼の言葉に、こくりとガイラルディア様は頷いて、二人取り残されてしまった。
体を打つ風が、心なしか冷たいような、気がする。


「………お前は、この頃ガイばかり気にしているな」

ふと、ルークさんに呟かれた言葉に、ぱっくりと口を開けて、勢いよく振り向いてしまった。私の表情を見詰めながら、「やっぱりな」 少しぐらいしらをきればよかったのに、あんまりにもビックリしてしまった自分がなさけない。
違います、といえばいいのか、やっぱり彼の前に出てみると、どういえばいいのか分からなくて、手をパタパタと動かしながら、なんともいえないような声を、喉の奥で、ひねり出しては、潰してしまった。

ルークさんは、練習用の木刀を握った手を、ぎゅっと握りしめて、握りしめすぎて、ぶるぶると震えているのが分かった。「えと、ルーク兄様?」


「お前にはまだ男は早い!」


明らかに何か違う勘違いをされているような気がして、「あ、違いますから」と即座に否定させて頂いた。







1000のお題 【147 一万年早い】




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                         アトガキ

公式さん見ると、ガイ様がファブレ家に来たのは、7、8歳くらいだ……そうで……ヒイ!
うちのサイトじゃ明らかに10歳くらいです。ノオオオウ、ミスった!

2008.08.24