ガイ様のお役目がルークさんのお世話係へとなった。


お世話した




普通なら、きっとお世話係は、女の人がするべき仕事なんだろう。けれどもルークさんは赤んぼうになってしまったのだといっても、見かけは立派な男の子なのだから、きっと女の人はまずかったのだと思う。
そして彼が記憶を失う前に、ガイ様になついていたという事も、要因の一つじゃないだろうか。
そんな訳で、ガイ様ことガイ・セシルは正式にルークさんのお世話係へと任命された。



「そんな風に、じっと見詰めていても、何も出ませんよ」

ガイ様が、ほんの少し眉根を寄せて、ルークさんの口元へとスプーンでどろどろにとけたご飯を流し込んだ。本当の赤ちゃんではないのだからきちんとしたご飯でもいいのだろうけれど、喉に詰まらせる可能性を考慮しているらしい。

「あ、い、いえ、すみません」
「いえ」
「あー! うー!」

止まったガイ様のスプーンに、じれたようにルークさんはバタバタと手を動かした。弾かれたように、彼は「すみません」とルークさんに謝って、スプーンをひょいと彼の口へと入れる。
それに満足したのか、もふもふと頬をほころばせ、美味しそうにスプーンへと吸い付いた。


なんとなく、不思議な光景だった。
ついこの間まで、ツンとしていたルークさんと、ガイさんが仲むつまじく(の、ように見える)ご飯を食べている。お口にあーん。機械的な作業なのだろうけれど、片方のルークさんが始終にこにことしていることから、なんだかそんな風には見えない。

(なんだか、変な感じだなぁ……)

もしかしたら、彼は明日にでも、いつものように「、ガイ、出かけるぞ!」とぎゅうと私の手を握って、何事もなかったかのように、飄々と不敵に笑うかもしれない。
未だにそんな気持ちが抜け切らなくて、どう接すればいいのか、分からなくなるときがある。

そんな理由からか、ナタリアさんには、ルークさんが記憶喪失なのだという事実は伏せられていた。本当は、私だってルークさんの部屋へと無理矢理に乱入なんてしなければ、そうなっていたのかもしれない。
そう考えると、とても複雑な気分だった。



ガイ様のスプーンに食いついていたルークさんが、ひょいと私を見詰めた。「だー」といいながらパタパタと手を伸ばしてよだれのべとついた手のまま、私の服をひっぱる。

「どうしたんですか? ルークさん」
「まだお食事途中ですよ、ルーク様」
「やあー」
「いやじゃありません」

何の迷いもなく、「ほら」とスプーンを差し出すガイ様を、なんだか凄いなぁ、と感じた。
それはただ、しぶしぶ使用人としての立場を全うしているだけなのかもしれないけれど、この屋敷で、一番戸惑いが少ないのは、彼に違いないのだ。


そんな彼を見詰めて、「………凄いですねぇ、ガイさん」 と呟けば、彼は「何がですか?」 と不思議そうに首を傾げ、スプーンとは反対の手に持っていた布巾で、ルークさんの口元をちょいちょいとぬぐうと、ルークさんがくすぐったそうに身じろぎをする音がした。



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1000のお題 【571 おみそれいたしました】


2008.12.15