ちらり


王様はロバの耳




じっと扉の隙間からのぞいた彼は、やはりどこか複雑そうに、無邪気にきゃっきゃと頬を緩ませるルークさんを険しい表情で見詰めていた。
ぎゅっと唇を噛みしめて、重い表情のまま、じっと正座するようなポーズのまま微動だにしない。

まるで今ならば、と固く握りしめた手のひらを、まったくもってルークさんは知らず、嬉しそうにガイ様の腹部へと、その頭部を思いっきりつっこませる。しかし彼のその表情は変わらず、固く身体を動かしただけだった。


そんな恐い顔でルークさんを見続けていたものだから、彼はガイ様の背中へとバタバタ伸ばしていた手を、彼はぐっとまるめて、僅かの間の後に顔をぐしゅぐしゅ崩れさせる。
「う」唇が、ぐいっと引き延ばされた。

「うひゃああああああん!!!」

いきなりの大声と、碧眼の瞳からぽろぽろと零れる涙に、「わあ!」とガイ様は慌てたように立ち上がり、わたわたと両手を振りながら、またかがみ込んで、ルークさんへとぐいっと近づく。
よしよしと頭を撫でられても、ルークさんは泣きやむ事はなくてひくひくと喉を痙攣させながら、癇癪を起こしたように、バシバシと思いっきり地面を叩き、ついでにとガイ様の横っ面を思いっきりひっぱたいた「い、いた!」

「うぎゃああああああん!!!」
「お、落ち着いてくれ、すまない、すまないからルーク!」
「うああああああああん!!!」
「は、腹か、腹が減ったのか、ちょっと待てええっとああおしめか!?」


「げほっ」

そりゃあ生まれたばかりの子どものような行動をする人間に、敬語は使いづらい事だろう。思いっきりの呼び捨てと、普段見る事のない盛大な慌てっぷりに、ひっそりと見ていた事も忘れて、私は思いっきりドアに頭を打ち付けて、呼吸困難に陥った。

お腹を抱え込みながらひーひーと笑っていると、僅かに開けられていた扉が、ギギギとゆっくりとその空間を広げ、ルークさんの泣き声というBGMに続き、口をぐいっと一文字に結び、顔へと青筋を立てたガイ様の顔が、ゆらりとのぞいて、私を見下ろしていた。


普段ならばごめんなさいごめんなさいと本気で謝るシーンだったに違いないのに、予定外の腹筋崩壊に、私はごほごほと咳き込みながら、目尻にたまった涙を、ぐいと手の甲でぬぐって、なんとか誤魔化そうとぱくぱくと口を動かす。


「そ、その、ガイさん、ぐ、げほっ」
「………、様」
「あ、いえ、見てないです、全然見てないですからどうぞ続きを、ぐ、くっ」
「………様どうか」
「げふっ、げふっ、だ、誰にもいいません、大丈夫です、ほらルークさんが、いえルークですか。どうぞどうぞ」
「わ、忘れて、ください……!」




BACK TOP NEXT

1000のお題 【937 大げさなリアクション】

2008.12.23