おまけ小話




● うさぎさん


「ルークさんルークさん」

私がにっこりと笑って差し出すと、ルークさんは不思議そうな表情をしてぐいっと手を伸ばした。手加減を知らない圧力に、あいたたたたー、とぼやきながら慌てても逃げませんよ、とちょいちょいと手を動かす。

黄色い柔らかい布地に、大きな耳がちょこんと二つ。「かわいいでしょう、ルークさん」と笑うと、彼は不思議そうに首を傾げた。「うあ?」「うさぎさんです、あげましょうか」

彼は碧眼の瞳をくるりと回し、にーっと嬉しそうにほほ笑む。(あ) 嬉しかったのかな。私も思わずにこっと笑って、どうぞ、と彼の胸元に、ちょこんと置いた。


「うー、あう!」
「うあああああ、ルークさんそれ食べちゃだめですからー!!」



● 踏み足の名前


ルークさんがにっこりと笑った。こちらへと手を伸ばし、ガイ様へとうう、ととても嬉しそうに喉を震わせる。
うーん、なついてるなぁ、と一応は自分の兄へと形容するセリフとして間違っていそうなものを頭の中で思い浮かべてしまった。
気のせいか、最初よりも柔らかくガイ様も微笑み、「なんだ、ルーク」と彼の手を遊ぶ。


「ま」
「ま?」
「ママ!」


ぴたり、と止まったままの彼の表情に、私は静かに咳をついた。こほん。

ルークさんから私、私からルークさんへとひどく緩慢に動かされた彼の瞳に曖昧に笑い、また、ぱっくりと開かれたルークさんの声へとかぶせるように「違う」「ま」「違うから」


「………あのですね、その、マが二つという言葉は、その、発音しやすいものらしいと、えーと、どこかで聞いたことが。ですからあんまり深い意味があるわけでは、ないと、思い、………たぶん」


あまりにも微妙すぎるような、しりすぼみのフォローに、彼は、なんともいえない表情のまま、ルークさんを見つめる。
せめても、と私は右手を口にぴたりとつけ、「えーと、パパ?」


彼は静かに肩を落とした。
「アー……やめてください」




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1000のお題 【862 塩を塗りこむ】

ガイがオカンですねといわれた言葉が頭からはなれなかった
2009.01.14