■ ガイ様(20歳)がシリアスにむっつりすけべしています注意
■ ガイ→→→夢主率がそろそろ高くなってまいりました
■ ルークとは基本ギスギス



閑話3






さて、今日も疲れた、さっさと寝よう、と俺はあくびをついて、ふらふらと部屋のドアに手をかけた。ガチャン、と音がして、こつこつと足音を立てながら部屋の中に入る。瞬間、俺は後頭部をドアで打ちつけた。「が、ガイさん……」「……!?」 ぎょえっ、と俺は悲鳴を上げた。けれどもすぐさま口元に手を当てて、彼女以外誰もいない部屋をキョロキョロと見回す。使用人の部屋は兼用だ。俺はペールと同じ部屋をあてられていて、その主は、現在新しい花の種の買い出しだか何かで、ちょっとの間屋敷を離れている、ということを思い出し、一瞬ほっとした後、すぐさま真っ青になった。
     部屋には俺との二人きりと言う訳だ


いや、別にそんなことは彼女の部屋に行けばいつものことなのだけれど、これはちょっと状況が違う。自身の部屋だ。ここは自身の部屋なのだ。は申し訳なさそうに緑の瞳をしょぼくれさせて、ぺとんと俺のベッドの上に座っている。ベッドの上だ。おいおいおい、とそのことに気づいた俺は、再びまた後頭部をドアに打ちつけた。ガツンっ。

は心配気に俺を見上げた。こんなに焦っていては、妙な下心があることがまるわかりじゃないか、とゲホゲホごまかしの咳を繰り返すと、「ガイさん、あの、あんまりうるさくしたら、外に、聞こえちゃいます……」 そうだ、それだ。「そうだよ、、さすがにこれはまずいぞ」 

自身が彼女の部屋に行くときだって、結構な綱渡りなのだ。けれども一応彼女の部屋に行っても構わない時間帯というものは把握しているし、もし万一ばれてしまったところで、自身が“お嬢様の部屋に無断に侵入した不届き者”となる程度で、彼女にはまだ飛び火は少ない。けれども今は違う。彼女から、こちらの部屋にやって来ているのだ。
傷物になってしまった、ふしだらなお嬢様、というニュアンスが頭をよぎり、だらだらと汗が流れる。
そんな俺の様子を見て、はいつものように胸の前で小さな手のひらを合わせて、こっちを窺うように、しょぼんとして顔を上げた。

「あ、多分、どなたにも、見られては、いないと、思います……」
「思いますって、わからないだろう」
「大丈夫です、もし何かあっても、私が勝手にやって来たんだって、きちんと事実をお話しすれば」
「全然大丈夫じゃないぞ」

寧ろ自分はそれが嫌なんだ、と言いたいのに、上手く言葉が出ない。夜中に、その上異性の使用人の部屋にやってくるなどありえない。おおごとだ。だというのに、はそこら辺の事情はまったく理解していない。自分一人が正直に謝れば済むと思っている。
そんな彼女の性根が好きな訳だけれども、今はそんなことは言ってられない。これだからお嬢様は、と頭が痛くなり、ああもう、と俺は部屋のドアを開けようとした。けれども目の前を通り過ぎた執事長のラムダスの姿を発見して、勢い良くドアを締めた。「……ッ!」 声を抑えるようにして、に片手を振る。彼女は慌てて俺のベッドの中に入り込んで、その小さな姿を消した。こんこん、とノックの音が聞こえる。「はい」 落ち着くように声を抑え、返事をした。

を目の端で確認しながら返事を返すと、カチャリと開いたドアから、ちょび髭の男がこちらに顔を覗かせた。「ガイ、何やら叫び声のようなものが聞こえたような気がしたのだが」「すみません、すみません、ちょっと壁に頭をぶつけまして」「ふむ。まあ気をつけなさい」

夜は静かに、と言い残し、ぱたんとドアが閉まった。俺は長くため息をついて、こまったようにベッドから顔を覗かせるに、またため息をついた。「こりゃ、下手に外に出るほうが危ないな……」 は小さな頭を申し訳なさげに下げて、ひょいとシーツをひっぱり、自身に寄せた。



   ***



まあとにかく、夜よりも、人目がつかない朝に、そっと部屋を出た方がいいだろう、と俺達は話し合い、俺はペールのベッドに、は俺のベッドの端に座り、俺が始終難しい顔をしているものだから、じわじわと、「自分は大変なことをしてしまったのだ」と認識してきたのか、段々と顔が真っ青になっていく。いい傾向である。この箱入りのお嬢様は、ちょっとくらい痛い目に遭った方がいいと言うものだ。いい加減、こっちの気もしれない。下手な相手の部屋に、同じことをしようものなら、襲われていたかもしれないところだ。下手な相手と言うのは、例えば俺とか。一応仕える主のお嬢様に、勝手な恋慕を持ってしまってる俺とか。

けれどもいい加減、空気も重いし、可哀想になってきて、「」と俺は彼女に声をかけた。ぎくっ、とは体を震わせて、靴を脱いだ素足で俺のベッドの上で正座する。反省のポーズらしい。いや別にそれはいいから。というか、そんなの知ってたのか。お嬢様って、正座するのか?

「いや、、正座はいいから。それより、なんで俺の部屋なんかに来たんだい?」

理由があるんじゃないのか? と探るように問いかけると、は少しだけ考えるようにして、こくりと頷いた。一瞬、寂しくなったから、とか、俺に会いたくなったから、とか、そんな理由だろうか、と期待した。自身が彼女に一定以上の好意を持たれていることは知っている。けれどもはわずかに言いづらそうに口元を動かし、「ルークさんが」「……ルークか」 なんとなく、オチが見えてきた。「ルークさんが、頭が痛いって」

なんだか妙にカタコトである。「あ、頭が、痛くて、変な声が聞こえるって、まただって思って、びっくりして、大丈夫って言っても、触るなって」「、とにかく落ち着こうか」

なんとなく、言いたいことはわかるけれども、彼女の中で混乱し始めてしまったらしい。そもそも、はじめから随分凹んで、考えあぐねて俺の部屋にやって来たんだろう。長くこの家に仕えているが、こんなことは初めてだ。とにかく、彼女はよっぽどひどくルークに拒絶されたらしい。

     ルークは、マルクトに誘拐され、記憶がなくなった

まるで外見と中身が違う、赤ん坊のようになってしまった少年は、ときどき、ひどく奇妙な声が聞こえるのだと言う。そのときは決まってズキズキと頭が痛み、幾人もの医者や看護師の検診を受けてはみたものの、未だに理由ははっきりと分からない。ただ年々痛みが増している、ということは確からしい。
何やら長い反抗期が続くオボッチャマは、妹に素直になれないお年ごろらしい。本気で嫌っている、という訳ではなく、気まずい気持ちが長く続いている、と言った方が正しいような気がするのだけれど、そのことを俺からルークにとやかく言おうとは考えてはいない。他人から口を出されて、もっと貝に閉じこもる、なんてよくある話だ。

けれども妹のは、兄のそんな気持ちを、機敏に察してはいないらしい、よく傷ついた顔をした。女性の彼女には、男のつっぱねる気持ちなんて分からないのだろうし、軟禁され続ける兄と、そうではない自身と比べて、罪悪感がつもって、よく前が見えなくなっているんじゃないだろうか、と一応俺はそう考えている。とりあえず、あと数年の辛抱だ。二十になれば、ルークはこの屋敷から解放される。国王を含めた過保護な守りは鍵を開けて、おそらく、とルークの兄妹関係も、いい流れに変わるのだろう     そのとき、自身が未だにこの場にいるのかは分からないが。


(……ルークが20歳になれば、俺も24か……。は、19……)

とっくの昔に、彼女はどこぞの貴族に嫁いでいる年齢だ。
その頃には、自身の気持ちも多少は収まっているだろう、と苦笑した。彼女に恋をしてしまったときから、どうせこれは一時の熱であると思っていた。そうであって欲しいと思った。身近の綺麗な、可愛らしい少女に一瞬だけ目が向いてしまったと思ったのだ。他の女性を好きになろうと努力したときもあったし、彼女を憎もうとしたときもあったし、距離をおこうともした。けれども全部が無駄な努力で、あれから数年が経ち、二十に足をかける年になろうとも、じわじわと気づいた花が枯れることはなかったし、困ったことにも、この頃どうにも“低俗”な気持ちが強まってきた。

(……なんでまた、うまい具合に俺のベッドに座り込むかな)

現在自分がいるペールのベッドにいられても、それはそれで気になる訳だが、明日から自身のシーツを使えるか、不安になってきた。ついで現在の自分のズボンを確認して、ギクッとした。なんで俺、こんなズボン履いてるんだ。見られちゃ困る、とペールの枕をそそくさと自身の膝の間に置いて、某所を隠し、寝間着姿の彼女を見つめた。すまない、ペール。寝間着を見るのは辛いと思うんだ。いつもより、布が薄いんだ。

そんなこんなで俺が一人で奮闘している間に、で落ち着き始めたらしい。申し訳ない。俺のこの情けない恐怖症がなければ、頭の一つでも撫でてやれたのだが、いつも中途半端な距離感で、適当すぎる慰めの言葉を言うことしかできない。「ガイさん、いつも、ごめんなさい」「ん、いや。こっちこそ、聞くばっかりだし」 で、今日は何が? と苦笑しながら問いかけると、は少しだけ言いづらそうに、けれどもここにやって来たのは自分なのだから、と覚悟したように、ぽつりぽつりと話し始めた。

「今日はお食事のときに、ルークさんがあんまり元気がなかったようなので、寝る前にと様子を見に行ったら、頭を抱えていて、すぐにお医者さんを、と言ったら、怒られてしまって……」
「うん……」

あいつもいじっぱりだからなぁ、と顎をかいた。「それで、暫く待ったらよくなったので、でも私、心配で、ルークさんの部屋でそわそわしていたら、また怒られてしまって」
「お、おう」
「それじゃあ、おやすみなさい、と言ったら、ルークさんがお布団にもぐったんですが、きちんと上布団をかけていなくてお腹が見えていたし、ルークさん、この頃なんだかよくお腹が見える格好をするので、『ちゃんとお腹は隠さないと駄目なんですよ』と言ったら」
「……また、怒られたんだな?」

はしょぼんとベッドに手のひらをついていた。そしたら今度はこそこそと体位を変えて、体育座りをしながら、「私、言い過ぎました」「うーん……」 気にしなくてもいいんじゃないか、とも思うけれども、の側も、もう少し上手く関わればいいと思うのだが、それができないから凹んでいる訳である。拒絶されたということよりも、彼の原因不明の頭痛に不安で仕方がないのかもしれない。本人に確認できればいいものの、それを訊けばルークは鬱陶しがるし、きちんと聞けないから、不安になるし、と言うわけだ。

お互い普通に話せばいいだけだと思うのだけれど、兄妹仲って、案外難しいのかな、と今は亡き姉を思い出して、少しだけ瞳を細めた。


「ま、別に、ルークの機嫌も明日にはなおってるだろ。いつものことだしな。それより、今日は俺のベッドを使ってくれよ。ペールは帰ってこないし、多分誰も来ないと思うが、一応鍵は閉めといてくれ。俺は外で寝るから」

適当に知り合いの部屋にでも止めさせてもらうか、と思ったものの、上手い言い訳が思いつかない。こっそり屋敷を抜けだして、街でぶらぶらして夜明けを待つか、と思いながら立ち上がると、「えっえっえっ!」とが素っ頓狂な声を出した。思わず俺は、「しーっ、外に聞こえるだろう」「ご、ごめんなさい、でも、ガイさん、外に? なんでですか?」「なんでって」 君と俺が、同じ部屋じゃまずいだろう、とちょっとだけ呆れながら苦笑した。

「いつも、ガイさん、私のお部屋に来るじゃないですか」
「アレは昼間だし……今は夜だし、場所も違うし」
「夜で、ガイさんのお部屋だと、まずいんですか?」
「ああ、まずいな。それに、も嫌だろう」
「い、嫌じゃないです」
「……しかしだな」

嫌じゃないです、大丈夫です、と繰り返している彼女は、多分自分の言っている意味を理解していないのだろう。「一応言うけど、俺は二十を越えた大人で、君は若い女の子だ。わかるかい?」 とりあえず、遠まわしに確認してみると、それが何なんだろう、というように首を傾げた。子どもだなぁ、と苦笑してしまう。いつもは特に意識しないけれど、時々ふとしたとき、自分よりも年下なのだな、と思う。彼女は俺がどんな気持ちでいるとか、よくはない気持ちを持っているのかとか、そんなことは考えもしないのだ。それがありがたいが、どこか寂しくもある。
まさかそんな彼女に、ストレートに言葉を告げることもできなくって、俺は苦笑したままドアノブをひねって、顔を出した。そしてなぜだか未だにラムダスがそこにいた。扉を閉めて、思わずドアを両手で固定した後、鍵を掛けた。何故いるちょび髭。

(そういえば、明日からは大勢の客が来るとか言ってたかな……)

自分はルーク付きだからと免除されたが、夜の間にあらかたの準備を済ませておくつもりなのだろうか。「ガイさん……?」 が不思議気にこっちを見つめた。その顔を見て、俺は長い長い溜息をついた。
「…………なんだか、無理みたい、だな……」 そう俺が残念気につぶやくと、反対にはパッと嬉しそうに笑った。こっちも気も知らないで。



   ***



なんでは、小さな頃から、俺になついているんだろう。
昔から不思議で、何度考えてもわからないことだ。服を着替えて、ごそごそペールの布団にもぐりこんで、隣ですやすやと寝息を立てる彼女に背を向けながら考えた。正直、一番初めの自身の俺の態度は、褒められるものではなかったはずなのに、一体彼女は、俺のどこが気に入ったんだろう。
本人に訊くのは、どうにも気がひけるし、訊くべきでもない。

(…………慣れたもんだなぁ)
おそらく、出会ったばかりの彼女ならば、少なくとも俺は彼女を即座に追い出していたし、それから少し時間が経ったとしても、彼女は俺に遠慮でもして、俺の部屋には来なかっただろう。ころん、と彼女が寝返りをうつ音が聞こえて、ぎくりとした。振り返りそうになった自身を律して、背中を向け続けた。

が、俺を好きであることは知っている。けれども、それは友愛でしかないことも理解している。だから辛いのだ。やってられない。ころん、とまたが寝返った。慣れないベッドで、寝づらいのかもしれない。一瞬、また振り返りそうになった。けれどもやめておいた。もし、俺が女性を怖がらなければ、今現在、同じベッドで眠れるくらいには彼女のとの仲を深められたのだろうか。ちょっとだけその様子を考えてみた。即座に後悔した。

「…………俺は、大人だ、大人だ、大人だ、大人だ」 意味の分からない呪文を繰り返して、眉に力を込めた。大人だ。だから、子どもには手を出さない。変なことを考えるな。出さない。出さないぞ。……というか、出せない。

彼女が俺を不必要なまでに信じていることは、それが原因なのかもしれないな、と思った。結局俺は、どれだけ頭の中で人様に聞かれるとよろしくはないことを考えようとも、結局それを実行に移すことなどできないのだ。だったら、考えるくらいなら許されるんじゃないだろうか、と男の自分がつぶやいている。けれどもやっぱり、と良心も叫んでいる。

ころり。
また彼女の寝返りの音だ。

もう少し、近づいてもいいだろうか。
駄目だろうか。
少々また、“よくはない妄想”を働かせた。それはとても、口に出すことははばかられるたぐいのものであったので、なるべく忘れるように目を瞑った。やっと寝入った時、浅い眠りの中で、その“よくない妄想”と同じく、自身が彼女に、“してはいけないこと”をしている夢を見た。だらだらと汗を流して布団から飛び起き、隣ですやすや眠る彼女を見て、ほっとした反面、ため息をついた。そしてもう一度、ベッドの中に身を沈ませた。俺は大人だ、大人だ、大人だ。あっちは子どもだ。何回もそうつぶやいて、何度もベッドの中で寝返りをうった。

自分が女性恐怖症なんてものじゃなかったらよかったのに。そう思う反面、こうであってよかった、とも、ほんの少し、指先ほどに考えた。俺は彼女に触ることができない。だからこそ、俺は彼女に手を出すことはないと自分を信用できたし、彼女も俺を信用して、こうまで近くにいるのだと思った。

(過去ばっかり見てても、仕方がない、か……)
あいつも、結構言うよな、とふと、懐かしいセリフを思い出した。





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2012-04-15
1000のお題 【146 いっそ殺してくれ】

閑話1とかぶるけれども、20歳くらいのガイからの心情。お互い色々思い違い。
ガッツンガッツン時間進んでます。これから大体こんなテンションです。