自身をアクゼリュスに連れて行って欲しい。
そう私はナタリアさんに告げた。おそらくこれは、自分にとって、一世一代の選択だったと思う。100%、自身の夢を信じている訳じゃない。何をすればいいのかもわからない。そんな足元がぐらついていて、自身の行動に責任が取れないような、そんな状況なのだ。

私が想像した通りに、ナタリアさんはひどく不機嫌な顔をした。と、いうよりも、私に対して、呆れたようにため息をついた。

「なぜ? あなたが? まさかただの旅行気分ではありませんわよね? アクゼリュスの民を助けたい。そう思っているのかしら。その気持ちは、誇るべきことです。でも、確かにあなたはファブレの娘ではありますけれども、満足に外に出たこともないでしょうし、自身の身を守る術もない。私は確かに、あなたに弱い女となっても構わないのかと問いましたが、気持ちばかりが先走ってはいけませんわ」

ナタリアさんの言いたいことは、なんとなく解る。それどころか、自分が一番理解しているかもしれない。例えいくらかの譜術が使えたところで、なんの役に立つだろう。ナタリアさんと違って、私は第七音素も使えないし、弓矢だって満足に扱えない。なのに私は理由も言わずに、彼女に無理を頼み込んでいる。ナタリアさんは私のあの奇妙な夢を知っている訳じゃない。理解してくれなんて言える訳がないのだ。

「それに」 ナタリアさんは言葉を告げた。「シュザンヌ様は、どうされますの? ルークが消え、体を病んでしまわれたというのに、彼が親善大使としてこの街を離れる間、誰が彼女を力づけると言うのです」 ぐさり、と心に突き刺さった。

自分でも、そのことに気づいてはいた。私自身の技力という問題と、もうひとつ、残された側の問題もある。例え、母として慕うことはできない、そして自身の仇でもある父であっても、放っておくことなんてできない。これでも17年の間、彼らと歳月を共にしたのだ。そんなことが出来るのなら、とっくの昔に私はこの街を去っていたと思う。もっとも、ガイさんのことを除いてしまえばの話になるけれども。

「まあ、私にそう言われましても、何もすることはできませんけれどもね。私でさえも、お父様にルークとの同行の許可を得ることができませんのに」

ふう、と長くため息をつくナタリアさんは、深くソファーに沈みかけた。私はぎゅっと唇をかみしめ、両手を握った。そして顔を上げた。「嘘です」 どきどき、と心臓が早鐘のようになっている。ナタリアさんは片眉を下げて、訝しげに私を見た。私はもう一度、先程よりも大きな声を出した。「ナタリアさんに言っても、何もできないなんて、嘘です」 彼女はぴくりとまつげを震わせる。

「ナタリアさんは、もし、陛下に許可をいただけなかったとしても、絶対にどうにかして、ルークさん達について行きます。……その方法は何かまではわかりませんが、私、ナタリアさんの邪魔をします。連れて行ってくれなければ、兵士の方を呼ぶなり、無理やりついて行くなり、私を連れて行ってくれないと、私、すごく、たくさん、邪魔しますから!」

そうなのだ。私の“夢”の中で、ナタリアさんは、結局インゴベルト陛下に同行の許可を得ることはできなかった。けれども彼女は、おそらく彼女なりの裏技でルークさん達について行った。正直、それは長く付き合ったナタリアさんの性格から察するに、ひどく納得のいく展開なのだ。現に彼女は「うぐっ」というように、反論に困った顔をして、そそくさと視線を逸らしながら紅茶を飲み込んだ……と、わかるのは、長く付き合いのある私だからだ。傍からみれば、なんのことかしら? というような涼しい顔をしているように見えるに違いない。

私はババッと立ち上がった。「そしたら! 今すぐに言います! 今すぐに言ってきます! 兵士さん、兵士さん、兵士さーん!!」 扉の前の兵士に向かって、私は大声を上げた。ナタリアさんはさすがに紅茶を吹き出したはしなかったものの、慌ててお皿にカップを置いて、「こ、こらッ、ッ、やめなさい!」「私、本気ですから! 兵士さん、すぐに来てくださいー!!」


ガチャッと慌てたように扉が開いて、重い金属の音を響かせながら、お城の兵士さんがやって来た。どうされましたか! とひどく動揺する彼らに対して、私の口を無理やりに塞いだナタリアさんは、「なんでもありませんわ! なんでも! ただちょっと紅茶だけでは寂しいので、お茶うけが欲しいと思っていただけですの!」「あ、でしたら厨房へ声をかけて……」「いいえ! 私から直接メイドに伝えます。お下がりなさい!」

むぐむぐ、と口元をもごつかせながら、不思議気に扉の外へと消えて行く兵士さんを見送った。パタン、とドアが閉まった瞬間、ナタリアさんは私から手を離して、鬼のように瞳を釣り上げた。「、あなた……」「……わ、私、本気って言いましたよ」

こわい。
ぶっちゃけこわい。

けれども、私だって遊びじゃない。ぎゅっとスカートを握りしめてナタリアさんを睨み上げると、彼女は少しだけ面をくらったような顔をして、顎に細い指先を置いた。そしてわずか首を傾かせて、ちらりと私をもう一度見た。長くついたため息と共に、彼女はちょっとだけ口の端を上げた。あれっ、とびっくりした。「本当のことを言うと、私、少しだけ嬉しいんです」 よくわからない。怒ってるんじゃないの? と恐る恐る彼女と見つめ合うと、ナタリアさんははちみつ色の髪の毛をくしゃりと耳にかけて、「、あなたの声が、初めて聞こえたような気がしましたから」

「こ、声、ですか?」
「ええ。それに、ファブレの娘としての責務を、ようやく理解していただけたんですわね」

そう言って、にこりと笑う彼女に、僅かな罪悪感を抱いた。彼女は、私がガイさんや、ルークさん、ナタリアさんが死んでしまうことが嫌だからと、そんなひどく個人的な理由で、彼女に同行の許可を頼み込んでいるなんて、そんなこと、知りはしないのだ。もしかすると、アクゼリュスの民の安否を気遣う、健気な娘として映っているのかもしれない。もちろん、彼らのことだって心配だ。けれども、私の心の中心部はそこじゃない。

ずきずき、と胸が痛い。けれども否定をしてしまったら、私の中の気持ちがただ楽になるだけで、彼女に話をすることが、もっと難しくなる。私はきゅっと口を閉じて、視線を下に向けた。その様子を、ナタリアさんは肯定だと受け取ったらしい。「許可をしましょう」 パッと私は顔を上げた。「ただし、それは私個人として、です。あなたはシュザンヌ様、そしてクリムゾン様に、きちんと同行の許しを得なさい」

理由は、あなた自身が分かっていますわね? そう問いかけるナタリアさんの声に、暫くの間の後、私はこくりと頷いた。「許可を得ることができたのなら、再び私の部屋を訪ねなさい。そのときは、きちんと荷造りをしてやって来るのよ」 それくらい、一人でできますわね?

彼女の言葉に、私は今度こそ、すぐさまに頷いた。そして、「ありがとうございます」と頭を下げた。ナタリアさんは少しだけ困った顔をして、「あなたが許可をいただけたら、の話です」とツン、と照れたように言葉を尖らせたのだ。



   ***



「うーん、許可、かあ……」

実際のところ、これが一番の難関かもしれない。だいたい、彼らに初めから許可を得られるのだったら、ナタリアさんに頼み込む必要だってなかったのだ。けれども、結局は彼女の言う通りだ。これは絶対に無視をすることができないラインでもあった。

私はくるくるとシュザンヌの寝室の前で回り続けて、一体どう言い訳をすればいいのかと、そればかりを考えた。けれども考えれば考えるほどわからなくなって、ええい、とコンコン、と彼女の部屋をノックした。「はい」とか細い声が聞こえる。「失礼します」と扉を開けると、相変わらず彼女はベッドの中で横になっていて、また言葉を言いよどんだ。

「あら、、どうかしましたか?」
「あ、いえ、その……」

むぐむぐ、と口元をもごつかせる。どう言えばいいだろう。やっぱりわからない。座りなさい、とシュザンヌはベッドの横にある椅子に目を向けた。私は一瞬首を振ろうとしたものの、そのまま彼女の言葉に従った。

「ルークが戻ってきて、本当に安心しました。怪我もないようだったし、あの娘さん、ティアさんだったかしら。あの子も、悪い子のようには見えませんでしたし……」
「そう、ですか……」

結局どう話を切り出せばいいのか、ともたついている間に、シュザンヌはぽつりと言葉を漏らした。ティア。ルークさんを連れて行った、ヴァン師匠の妹さんの名前だ。結局、すれ違いばかりで、私は彼女とまともにお話をしていない。だからどんな人なのかも分からない。申し訳ないが、どちらかというとあまりいい印象はなかった。なんてったって、故意ではないとは言え、ルークさんを連れ去った張本人だ。
けれどもシュザンヌが言うには、そうではないらしい。そこのところは、実際に自分が話をしてみるしかないだろう。「あなたには、いつも苦労を掛けさせますね」 呟いた彼女の言葉に、私は少しだけ考えた。確かに、私は妙な記憶を引きずってこの世に生まれて来てしまったが、ファブレ家の娘として、彼女に迷惑をかけられた覚えなんて、指先ほどにもない。何を言うんだろうか、とこくりと首を傾げると、シュザンヌは口元に微笑をたたえて、ふとゆっくりと体を起こした。

「あ、体が辛く、なってしまいますよ」
「大丈夫です」

体を乗り出して、彼女を支えようと手のひらを伸ばそうとすると、シュザンヌはやんわりと首を振った。私はわずかに顔をひそめて、また椅子に座り直した。「あなたはもう16の年になるけれど、私はあまり、母らしいことをあまりできませんでした」「そ、そんなこと」「どうしてかしらね。あなたは自身の子であるはずなのに、どこか……」 ふと、彼女は言いよどんだ。

ぎくり、と胸を握りしめた。シュザンヌは笑った。それだけだ。「あなたがルークのように剣を習うことをせず、あまり外に興味を向けることがないのは、きっと性格というものもあるのだろうけれど、私があまりよい顔をしなかった所為もあるんでしょう」

どうだろう。私は手のひらをいじるように遊んだ。「ルークが連れ去られてしまってから、ずっと考えていたの。あの子は、もう戻って来ないかもしれない。そう何度も思ったわ。けれども、ルークは帰って来ました」

二度、目の前から子どもが消えてしまった彼女の心情を想像した。そして彼女は、もしかすれば、また同じことを経験するのかもしれない。「情けない母ね。あの子のことを、私はまったく信用していなかったんだわ」とシュザンヌは唇を苦笑させた。

けれどもね、と彼女は言葉を続けた。「私はやはり、あなたたちの母親です。ずっと私は、あなたと、ルークを見て来ました。顔を見れば、すぐに分かるのよ。話してごらんなさい。何か、心配事があるんでしょう」 

彼女が母親ぶったセリフを言うのは、もしかすると、これが初めてなのかもしれなかった。なぜだか私は、さっきよりもまた胸が苦しくなった。きちんとした娘になることのできない申し訳なさと、ほんの少しの嬉しさが交じり合って、息苦しくなった。私はぎゅうっと胸のリボンを握りしめて、彼女と見つめ合った。そして重っ苦しく口元を緩ませた。「ルークさんが、親善大使として、アクゼリュスに向かうことになったそうです」 シュザンヌは、きゅっと目を見開いた。

「陛下が、そう決められました。預言に詠まれていることだそうです」 そう、とシュザンヌは瞳を落とした。陛下がそう決めたのなら、仕方がないことだと、そう思っているのかもしれなかった。私はごくり、と唾を飲み込んだ。きゅっと自身の目の前に両手を合わせ、椅子から立ち上がり、ぺたりと床に膝をついた。「お願いです、私を、その旅に連れていくことを許してください。私も、彼らと一緒にアクゼリュスに向かいたいんです……!」

長い間がやって来た。
もしかすると、彼女は構わないと頷くのではないか。そう期待した。けれどもシュザンヌは、「いけません」 首を振った。

「そんなことは、いけません。あなたまでいなくなってしまったら、私は……」
「お願いします……っ! とても、とても、大切なことなんです。今は、詳しくお話することはできません。けれども私、不安なんです。またルークさんや、ナタリアさんや……」 ガイさんや、と言う言葉は飲み込んだ。「私一人が行って、何が変わるかどうかもわかりません。何も変わらないかもしれません。けれども、後悔はしたくないんです……!」

ふと、シュザンヌは瞳を緩めた。ゆっくりと伸ばされた手のひらを、私は慌てて手を伸ばした。細い腕だと思った。そうすると、とても悲しくなった。
彼女は、ゆっくりと私の頬を撫でた。「大きくなったのね」 ただそれだけ、ぽつりと小さな声を漏らした。「ルークは、すぐに旅立ってしまうの?」 私はゆっくりと首を縦に振った。「明日です」 時間はもう、あまりない。シュザンヌは、頬を垂らすように笑って、少しだけ悲しげに声を潜めた。「少しだけ、考えさせてください。今夜一晩だけ、考えさせて」



   ***



クリムゾンは残念なことに、その日は館に帰ってくることはなかった。
私はメイドに見つからないように、手早く自室のものをかき集めた。旅になんて出たことがないから、用意するものは、気が抜けた観光にでも行く準備になってしまったかもしれない。とにかく、もてる分のお金を、下着を、かさばらない着替えを、と探しているうちに、本棚の本へ目が向いた。まさかあんなものを持っていく訳にはいかないけれども、少しだけ寂しい気分にはなる。前の世界では、旅行とは言っても、小さな本一冊くらいを鞄の中に忍ばせていたものだ。

(一冊くらい……) ちょっとだけ、心が揺れた。本棚の一番端にあった、バルフォアと書かれた作者の本に手を伸ばして、いけないいけない、と首を振る。これは随分貴重なものだし、旅行に行く訳ではないのだ。
私は用意をした荷物をベッドの下に隠して、眠った。それから次の日、「今日は預言によれば、快晴ですよ」と告げるメイドが、奥様からの伝言であると、いつもよりもほんの少し長く、言葉を付け足した。

「あなたが望む道に。お父様には、私から伝えておきます、とおっしゃられました」

一体なんのことだろう? と言う風に首を傾げる彼女に、私はくすりと笑った。「ありがとうございます、とそうお伝えください」 私はメイドにそう告げ、ファブレの家を出た。ふと、ペールさんの麦わらが目の端に移った。彼はいつもと同じく、花に水をやって、やんわりと優しく頬のしわを深めた。






「まさか、本当にあなたが来るとは思いませんでしたわね……」
「な、ナタリアさんが、許可をもらえたなら、いいって言ったんじゃないですか」

まあ、そうなのですけれどもね、と彼女はほっぺたに手のひらを置いて、ふう、とため息をいつものかわいらしいドレスではなく、動きやすい格好で、背には弓筒を背負っている。荷物を軽く背に掛けて、しゃきっと背を伸ばす姿は、なかなかに堂に入っていた。対する私はといえば、小さな物音ひとつで、ぎくっ、ぎくっ、と辺りをきょろきょろ見回している。「、落ち着きがなくってよ」「だ、だってナタリアさん……」 正直、涙目になった。


一歩歩くごとに、かこーん、かこーん、と奇妙に反響して音が響く。辺りは真っ暗で、何も見えていないというのに、なぜだかナタリアさんはスタスタと歩を進めるのだ。ま、待ってくださいー、とぱたぱた手のひらを向けても、まったくもって聞いてくれない。「あなたがついてくると決めたのですから、しっかりなさい」ということらしい。ごもっとも。

「やっぱり、あまりよく見えませんわねぇ」 そう言って、ナタリアさんはライターのような音機関に、パチンッとスイッチを入れた。小さな灯りがほわんっと立ち上がり、周りの様子を映し出す。鉄パイプのようなものがそこかしこにはしっていて、妙な油臭さは、ごろごろと転がるドラム缶から漂っているらしい。

個人的には、辺りの風景よりも、ナタリアさんの手に持つ、音機関の方が気になった。ガイさんが見たら、喜ぶだろうなぁ。……なんて、ほのぼの意識を飛ばしている場合ではない。「あのう、ナタリアさん」「なんですの?」「…………本当に、ここにルークさん達が来るんですか……?」


この街から外に出るには、いくつかのルートがある。海や、陸路、二つのルートがある訳だが、どうやら海の側には、ルークさんたちは向かわない、とかなんとか、そんな情報を耳にしたらしい。大したお姫様だ。「ここは一番目立つことなく、アクゼリュスを経由するケセドニアへ向かうことのできるルートです。彼らは必ずここを通るはずですわ」 さっ、。しゃきしゃき歩きなさい! さっさとルーク達を見つけなければなりませんわ! と根性系なお姫様にお尻を叩かれ、私はしょぼしょぼと辺りを歩いた。
そんな中、ふと、ナタリアさんはパチン、とライターの火を消した。どうしたんだろう、と彼女の服の裾を握ると、「人の気配がしますわ」 ふと、私も耳をすませた。かつーん、かつーん。足音と、いくつかの話し声だ。

おそらく、ナタリアさんはパッと頬を緩ませたのだと思う。ほんの少しずつ彼らはこちらに近づいてくる。からから、と彼の笑い声が聞こえた。どきり、と奇妙なほどに、胸が高鳴る音がした。(あ、あれ……) なんだか変だ。ときゅっと胸を握った。シュザンヌに向かっているときに感じた胸の痛みとは、またどこかが違う。

     ここの排水設備はもう死んでるが、通ることはできるはずだ」

おそらく、ルークさん達への説明をしているんだろう。「まあガイ、あなた詳しいのね」 ぱっと驚いた風に、ナタリアさんが声を上げた。「えっ」と名前を呼ばれたガイさんは、ぎょっとしたように私達に目を向けた。「見つけましたわ」とご機嫌に胸をはるナタリアさんに向かって、ぽかんと口を開けたのか、ガイさんだけじゃない。

暗くてよくは見えないものの、この間、ファブレの屋敷で見かけた人たちが、きょとりとこっちを見つめている。その上、ルークさんがぶるぶるとこちらに指をさした。「おっ、お前、なんでこんなところに……!」「あら、分かりません?」 わからない、わからない、とルークさんは必死に首を振った。どちらかと言うと、分かりたくない、と言った顔だ。

「私はキムラスカの王女ですのよ? 敵国同士が和平を結ぶという大事な時に、王女のわたくしが出て行かなくてどうしますの」

(な、ナタリア節だ……)
ナタリアさんは、案外根性気合と真っ直ぐな性根の持ち主なのだ。堂々とそんなことを言われたら、私からすれば、「あ、そうなのかなぁ……?」と思わず流されてしまいそうになるのだけれど、さすがに他の人たちはそうではないらしい。口々に彼女止める言葉を口にする中で、ナタリアさんに負けられては困ってしまうのだけれど、なんとなく彼らの気持ちもわかるような、と私はちょこんとナタリアさんの背の暗がりから顔を出した。

ルークさんが、きょとん、と瞬きを繰り返している。思わず私は、そそくさとナタリアさんの背に隠れようとした。けれどもルークさんが何かを言おうとする前に、ぎょっとするくらい大きな声で、叫ばれた。「…………!?」「が、ガイさん……」

彼は心底驚いた顔をするだろう。
それは薄々気づいてはいた。「、だよな。ちょっと待ってくれ、きみは、なんで」 言葉が上手く作れていない。私はまた逃げ出そうとしたけれど、そんなのダメだ、とちょこんと一歩を飛び出した。「あの、私も、みなさんに、ついていけたらと……」 小さな声だ。これじゃあダメだ、と思った。「思いまして!」 だから最後のセリフだけ、めいいっぱい、大きな声を出してみた。

とにかく、全員が迷惑そうな顔をした。申し訳なくってしょうがない。けれども、絶対に譲れない。
ガイさんは、きっととても困った顔をするだろう。そう思っていた。おそるおそる、私はガイさんに目を向けた。そしてびくりと肩を飛び跳ねさせた。

ガイさんは、ぎっと眉を釣り上げて、口元を引き結んだ。
、今すぐに、屋敷に戻るんだ」

     そうして、ひどく低い声で、彼は冷たく言葉を尖らせた。






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そもそも旅立つまでの障害が多すぎですって言う。

*いまさらな注意事項になりますが、キャラが原作のセリフ通りに喋らない、ちょいちょいアレンジした箇所が、これから多々出てきます。
*それと、原作との時間軸の差異や、捏造描写が相変わらず多めです。
書く上で都合よく調整していたり、純粋にミスってます、生暖かい目で見守ってやってください……!!

2012/05/02