あなたが見たという、預言について、少々確認したいことがありまして


そう告げられた言葉に、瞬きを繰り返した。
「え、あの……」 口元がもごついた。誤魔化すべきなのか、と考えたとき、一体ジェイドさんは誰からこのことを知ったのだろう、と瞳をきょろつかせた。ガイさんではない、と思う。それじゃあ、と口元を押さえた。ピオニー陛下だ。ジェイドさんは彼の右腕のような存在で、幼馴染だと陛下は語っていた。そんな彼に、逆に伝わらない理由の方がわからない。

息を長く吐き出した。「……預言、とピオニー陛下にはお伝えしましたが、正直、よくわかっていません……」とかすかな声が漏れた。「ええ、存じていますよ。ですが私自身の疑問も解消させていただければ、お互いにすっきりするかと思いますが?」

お互いに、という言葉と彼の疑問という言葉二つに首を傾げた。誰かに相談した方がいい、そう思ってはいたけれど、本当にいいのだろうか。でもいくら葛藤したところで、ピオニー陛下にすべて話してしまっているのだから、今更な思考だった。

椅子を勧められて座ったはいいものの、彼からは見下されたままだった。立ち上がった。そうして、ジェイドさんと互いの瞳を合わせた。とは言っても、彼の方がずっと背が高いので、やっぱり見下されたままだった。

「……座っていただいて結構ですよ?」
「大丈夫です。若いですから」
「はっはっは」

軽口を叩いてみても、正直、ジェイドさんのことはよくわかっていない。でも彼は若くしてマルクト軍の大佐であり、学者でもある。ジェイド・バルフォアという名前は、ファブレ家の私の部屋の本棚にも眠っている名前だ。ふう、とジェイドさんはため息をついた。そして口を開いた。私からは、何を言えばいいかもわからないから、ありがたい話だった。じっと彼の言葉を待った。

「あなたの行動には多くの疑問がありました。まずは親善大使としてのルークに同行を申し出たことについて。このことに対する疑問はすでに伝えていましたね。その際はガイと恋仲であることを予想したのですが……」

ああ、これは否定されたんでした、と笑いながら軽く両手を叩くジェイドさんに、もう何も言えなかった。恋仲とは両思いであることなので、それは否定するにしても一部あたっている。本当に何もいえない、と耳を熱くさせて下を向いてしまった。そんな私の反応を知ってか知らずか、彼は続けた。

「その際、、あなたはアクゼリュスが一夜にして崩壊する可能性を示唆していました。ただの偶然にては壮大すぎる話ですし、そもそもあなたがする会話としてはひどく物騒すぎる。そういった話を好んでするようには、到底見えないのですがねぇ」


     アクゼリュスが、一夜にして滅ぶ、なんてことはありえますか?


デオ山脈に向かう道中、そう、私は彼に問いかけた。
あんななんてことのない会話も記憶してるのか、と舌を巻く思いだ。確かに、普段の私であったなら、そんなことを話そうとも思わないし、きっと考えもしない。あのときは、どうするべきかわけもわからなくて、少しでも糸口が欲しかった。私は諦めたようにため息を落とした。

「……ガイさんを見送る際、預言のようなものが見えました。いえ、どう言葉にすればいいかわからなくて、そう言っているだけです。印象とすると、夢のような記憶でした。私はガイさんと、ルークさんを見送って、メイドたちから彼らの死を告げられました。その際、屋敷の中では“アクゼリュスが崩壊した”という噂話が流れていて、それが一体どういうことなのか夢の中の私はわかりもしませんでした。不安にかられて、無理やり旅についてきたものの、正直、自分自身でも、本当にあれはただの夢であればいいと……」

言い訳だ。今更すぎた。口元を噛み締めて、何もできなかった歯がゆさを悔いた。「まあ、あなたの心情などどうでもいい話ではありますが」 苦笑した。怖い人のように感じていたときもある。けれども逆に、話しやすくもある。「本当に、それだけですか?」 赤い瞳が、こちらを見下ろした。

「え……あの、そうですね、預言のようなものを見ると、その髪と瞳の色素が」
「それは陛下から確認しています。そのことも不可思議な現象ですが、それ以外の話です」

一体なんのことを言っているんだろう、と困惑した。ジェイドさんは私をうかがうような瞳で、じっくりと見下ろした。本当にわからない、と困って首ばかりを振っていると、彼はため息をついて、ゆっくりと言葉にした。

「あなたは、タルタロスを操縦しましたね。そしてガイは、あなたは部屋にこもってばかりだったと言っていました。ナタリアのように、何か特殊な訓練を行っていたわけではないでしょう」
「それは、ガイさんの手元を見ていましたから。それに、こもってばかりというところは心外です。たまにですが、ガイさんと音機関の店に行くくらいならありました」

どくり、と心臓が嫌な音がする。彼の思考を覗くことが怖かった。 “あのこと”を言われているわけがないのに。
ジェイドさんは口の端を上げた。吐き出すように笑った。「まさか、街中に売られている音機関と同じもので、タルタロスを動かしているわけがないでしょう」 あれはマルクト軍粋を集めて作られた戦艦ですよ、と。びくりと肩が震えた。

「そういえば、夕食を作ってくださったこともありましたね。ルークやナタリアに比べて、随分まともな食事でした」
「それも、そのときお話しました。みなさんの手順を見て、覚えて」
「私達が作ったこともないレシピでしたが」
「……本で読みましたから」
「魔法のような呪文ですねぇ」

告げられた嫌味のような言葉に気づかないほど、鈍くはない。「……何がおっしゃりたいんですか?」「そう警戒しないでください。私が聞きたいことは一つだけですよ」 青い軍服の男が、本当に、なんてこともないような顔をしている。なのに紡ぐ言葉は恐ろしい。一つだけ。一体、何がいいたいのか。ジェイドさんは、ゆっくりと言葉を落とした。


「あなたは、本当に、・フォン・ファブレですか?」



「あ……」 私は、彼のこの言葉を聞いて、怒るべきだった。私自身はあまり気にはしていないけれども、彼は敵国の軍人で、地位を持っている人で、私はファブレ家の長女だ。あまりにも彼は無礼だった。叫んで、頬を叩いてもいいはずだった。
なのに私は指先を震わせるばかりで、ぐるぐると視線をさまよわせた。そうした自身の姿に気づいたときには遅かった。冷たい瞳で、彼は私を見ていた。レプリカ。ふと、過去によぎった言葉を思い出した。もしかすると、私はレプリカかのかもしれない、と。
でも、一体誰の。まさかの? でも姿も違うし、記憶がある。そんなのはおかしいと思う。でも、すでにおかしいのは、私自身だ。

誤魔化すことはできかなった。私だって、私が何であるのかを知りたかった。ガイさんにも、誰にも告げたことはない。言えるわけがない。そんなことを、私は大してよく知りもしないこの人に告げようとしている。もう限界だった。「頭が、おかしい女だと、思わないでいただけますか……」 それは話の内容によるでしょうが、とすっぱりと答える彼に苦笑した。きっと、思われてしまうんだろう。


「私は、一度死んだ記憶があります」

自分の服をかきだいて、震えるような声を出した。落としてしまった言葉はもう戻らない。なんてことを告げてしまったんだ、と後悔をして、けれども遅い、と気づけば下に落ちていた視線をすい、と持ち上げた。意外なことにもジェイドさんは赤い目を見開いて、こちらを見ていた。「……ビック・バン……?」「……え?」「いえ、続けてください」 彼は慌てたようにメガネを押し上げた。

として生まれ落ちたとき、過去に死んだはずの記憶と混じり合いました。同じなことは性別くらいで、見かけも全然ちがっていて……」

ひとつひとつ、ゆっくりと告げた言葉をきいて、ジェイドさんは首を振った。何か自身の考えを否定したような仕草だ。「つまりあなたは、“転生”したと? 過去のあなたは音機関を扱う技術者だったと言うのですか?」 おそらく彼は信じているわけではない。けれども、事実を確認するために問いかけた。「いえ、その、そういうわけでは……あの、ただの学生で……」「学生?」「オールドランド以外の別の場所で生きていたのですが、ある日、こちらの世界に……」

問われるままに言葉を返して、ハッとして口元を押さえた。こんなことまで言う必要はない。ジェイドさんを見てみれば、案の定の顔つきだ。頭がおかしい、そう思われているに違いない。けれども仕方ない。もうここまで来ると開き直るしかない。

「ジェイドさんが違和感を得たものは、総じて私の過去の記憶、と思われるもののせいです。私自身は、つい最近まで、ジェイドさんがおっしゃる通り、“転生”して、この世界に新たな生を得たものだと思っていました。ただ、おかしいんです。過去の私と、である私が、重なって存在している時期があるんです」
「と、いうと?」

自身がレプリカである可能性を説明した。“母”の腹の中に、胎児として生きていた時間を計算すると、僅かに狂いが生じる。ふむ、とジェイドさんは顎に親指を置いて頷いた。彼はレプリカの生みの親だ。何か納得のいく説明ができるかもしれない。「すくなくとも、レプリカではありえませんねぇ」 あんまりにもあっさりこぼされたから、一瞬何を言っているのかわからなかった。「え?」

「ですから、レプリカではありえません。ルークとアッシュを見てください。環境の差で多少の変化はありますが、文字通り、彼らは元は同じ人間です。見かけも違う、記憶も連動している。そんなものがレプリカであるはずはない」

私自身も何度も考えて行き着いた答えだ。
でも自分ひとりで考えたことと、他人に言われることとは重みが違う。ほっとして、力が抜けてしまった。けれども謎は解けていないままだ。「そのことは、ガイも知っているのですか?」 このこと。つまりは過去の記憶があることだ。ガイさんの名前を出された瞬間、かっと頭の奥が熱くなった。「ガイさんには、言わないでください!!!!」 そして驚くほどの大声が絞り出た。

ジェイドさんもパチリと瞬きをしてこちらを見ている。ハッとした。「す、すみません。ガイさんは、知りません。あの」 声をかけると、彼はふと振り返った。じっと扉を見つめている。

「……ジェイドさん?」
「ああ、失礼しました」

なんでもありません、とジェイドさんはなんてことのないような顔をしてふむ、と顎を触った。「それにしても、随分な反応ですね。あなたが言う、まあ、つまりは前世の人格は、ガイに関わりのある人間なのですか?」 返答はしなかった。顔をそむけたまま口をつぐむ。まあいいでしょう、と声が聞こえた。彼の声の軽さから、やはり信じられてはいないな、と推測した。

ちょっとだけ失礼しますね、と声をかけて、「証拠にもならない程度のものですが」と言いながら、少しずつ衣服を落として行く。さすがのジェイドさんも困惑したように眉を寄せる。薄い布を僅かにずらして、腹を見せた。「なんらかの古傷ですね。しかしこれは……」 生きていることが不思議なくらいだ、と彼は呟いた。私にはよくわからないが、軍人である彼には見慣れたものなのだろう。


「過去のわたしは、剣で貫かれて死にました。丁度、これと同じ位置です。昔は、とても小さなあざでした。なるべくメイドの方にも見せないようにとしているので、知る人は少ないはずです」
もちろん、ガイさんにも。


「結構。服を着てください」
「やっぱりこれでは証拠にはなりませんか」
「そうですねぇ。夢の話はさておき、そちらのことはあなたの妄言である可能性の方が深まりましたよ」

服を着込んで、一体なぜ? と首を傾げた。「その傷のようなあざを見て、あなたがありもしない想像を膨らませているだけの可能性もありますから」「ああ、そういうことですか……」 そこまでは考えていなかった。それならそれで別にいい。結局、彼にもわからないのだ。

「なんにせよ、私がピオニー陛下から伝えるように言われていることはあなたの“預言”についてのみですからね。あとはただの私の好奇心です」
「こうきしん……」

今までさんざん悩んできたものを暴いておいて、好奇心。乾いた笑いが出てしまった。「あなたが“夢”を見ると色素が抜ける現象についてです。端的に言いますと、元素の色素をつなぐフォニムが放出している可能性があります」
まあ、私は実際に目にしていませんので、おそらくの話ですが、とジェイドさんは言葉を置いた。


「色素をつなぐフォニムが、放出している……?」

彼の論文にはある程度目は通しているものの、本当に本を読んでかじった程度だ。言葉を噛み砕いて、飲み込んで、理解した。つまりそれは、「その、まったくもってよくない状況なのでは……」「ええ、おっしゃる通り。今は色素程度ですんでいますが、これ以上繰り返すとなると、血中のフォニムまで拡散する可能性すらもある」 私が行っているコンタミネーション現象と同じです、と彼は右腕を差し出す。

ええっと、ええっと、と少ない彼の言葉を頭の中で組み立てた。ジェイドさんの武器は、譜術で、それ以外にも槍を扱う。普段は音素と元素を融合させ、自身の腕に付着し、収納している。それと同じとはどういうことだ。

「あなたは、私とは逆に、自身のフォニムを放出させている。フォニムはプラネットストームまで通り抜けます。そうして第七音素を読み取る預言師のように自身では見ることのできない記憶を盗み見ているという不可思議な現象が起きている。まあ、あくまでも推測ですが」


なるほどと頷けばいいのか、どうすればいいのか。彼の言葉を一つ一つ飲み込んで、自身の中で考えを膨らませた。ただ、あくまでも推測であり、仮説だ。それでも、自分以外の視点というものはありがたかった。赤の髪の色素がなくなっていたから、髪が黒くなっていた。そんなこと、思いもよらなかった。もしかすると、自身がに戻ってしまったのでは。そればかりを考えていた。

「あの、でも、そうだとすると、なんで私はそんなことが……?」
「知るわけがありません」

ですよね、と本日何度目かのため息がこぼれた。そうしたあとで、彼は私のために時間を割いていてくれていることを思い出した。そんな人に向かって、失礼な態度だった、と改めて顔を上げた。「……私が、あなたのその力を存分に使えと、そう思っていると考えていますか?」「か、考えてませんよ!」 なんで目を見ただけでそういう話になるのか。


「いえいえ、以前に人でなしと罵られたことがありますから。すっかり心が傷ついてしまいまして……」
「嘘です! そんなことは言ってません! それに、そのあのときは、私の考えが不足していたと謝罪したはずですよ!」
「年ですからねえ。恨み言ばかり覚えてしまうのです」
「嫌な年の取り方をしないでください! というか、十分お若いかと思いますが!?」

遊ばれているとわかっているものの、反論せずにはいられない。もしかすると、彼とは相性が悪いのだろうか。というかジェイドさんと相性がいい人間とは一体だれなのだろう。ピオニー陛下か。「まあ、それはさておき。もともと預言に頼る性分でもありませんし、それよりも曖昧なものにすがる必要も感じません。忠告はしましたよ」

あまりにさらりと流されてしまったから、瞬きばかりを繰り返した。(そうか……) 血中のフォニムまで拡散する恐れがある、ということは、そういうことだ。血のめぐりが消えてしまえば、人は生きることができない。

「あの、ジェイドさん」

足元を見つめた。板張りの床の上に、ちょこんと自分の小さな足がのっている。「このことは、みなさんに、言わないでいただけると……」 どこまで、という話ではない。すべてだ。誰にも、知られたくなんてなかった。

ジェイドさんは、まるで失笑するように顔をそむけた。「そんなことをわざわざ伝聞するほど、暇はしていませんよ」 下手な言葉の言い方よりも安心した。

「なんにせよ、あなたは世間知らずのお嬢様でしょうから、さっさとこちらの旅を終わらせまして、キムラスカに引きこもった方がよろしいかと」
「おっしゃる通りですね」

本当に、と静かにうなずくと、ジェイドさんは拍子抜けしたように私を見た。それから顔をそむけて、ため息をつかれてしまった。




***



そしてその少し前のことだ。ガイは一人しょぼしょぼと宿屋の廊下を歩いていた。何やらボコボコと言葉の槍でつつかれたあとに横殴りされたような気がする。あの男、ジェイドが少しでも本気を出せば、こちらが敵うわけがない。とりあえず記憶から削除しよう、とトントンと自身のデコを指先で叩いて唸る。「あれ、ガイ、なにしてんの〜?」 ぴょこぴょこと跳ねるような声が聞こえて視線を下ろすとアニスだ。その隣にはイオンがいる。

「いや、まあ、特には。夕食の時間ときいたからな。確かに少し腹が減ったな」
「今日はあったかーいスープだったよ。ねえ、イオン様」
「ええ、とっても美味しかったです」

少年は朗らかに笑っている。「それで、は?」 アニスがきょろきょろと辺りを探した。彼女の中では、すっかりと彼とはセットの扱いになっているらしい。正直悪い気はしなかったが、なにやらくすぐったいような気もする。

そしてアニスはいつの間にやらすっかり彼女を呼び捨てにしていた。細かくは知らないが、もしかするとがそう望んだのかもしれない。アニスはときおり、を悪し様に言うが、特にそれほど悪意を持っているわけでもなく、ただぼんやりとするを見ていると、思うところがでてきてしまうのだろう。彼女の周囲で友人と言える人間はナタリア程度で、ティアたちにせよ、関わりが増えるということはいい傾向なような気もした。

「まだ、部屋にいるんだが……そうだな、料理が冷めてしまうかもしれないなあ。呼んでくるか」
「そうした方がいいよ」

それじゃあ、とアニスとイオンは手を振りながら、自身の部屋に入っていく。宿によっては、何度も火を入れることが難しいことも多い。そのときは冷めた食事を口に入れることになる。せっかく屋根と布団があるのだから、冷めたスープを口にすることも寂しいだろう、とガイはきびすを返した。できればには暖かなものを食べさせてやりたかった。普段ならまっさきにそう思うだろうに、さっさと追い出されてしまったのはジェイドの手腕であるとも言える。

なんにせよ、ジェイドとの話は夕食が終わってからでもいいはずだ。
先程までの道のりとは逆に歩く。
の部屋だ。

こんこん、とノックをしようとした。そうしながら、おおい、と声をかけて夕食に誘う。それだけのはずだった。

『ガイさんには、言わないでください!!!!』

の叫び声が聞こえた。
急激に、手足が冷え込んでいくような、そんな感覚だった。



強く瞳を閉じた。そうして、そっとその場から離れた。の言葉が、頭の中にひどく響いている。(当たり前だ) 自身にとって、都合のいいように考えていた。俺は、彼女や、彼女の家族をぐちゃぐちゃにしようとした。そう伝えたじゃないか。そんな人間を笑って許して好きだと、誰が思うんだ。誰が信用して、想いを寄せてくれると思うんだ。

(何が、期待してしまいそうになる、だ……)

ただただ勘違いをしていた自身が、ひどく恥ずかしかった。逃げるように足を動かした。遠くに消えてしまいたかった。でもそんなわけにもいかない。(は、きっと、本心を隠していたんだな) 俺が傷つかないように、そう考えたに違いない。馬鹿だな、と思った。少し考えればわかることだ。本当に、馬鹿だった。

飛び込むように食卓についた。そうして、熱くてたまらないスープを飲み込んだ。はどうしたんだ? と問いかけるルークに、さあなあ、と返事をした。平静を装った。俺はキムラスカの人間にはなれない。そう彼女に伝えた。そうだ、俺はマルクト側で、彼女はキムラスカだ。ひどく深い隔たりができていた。なのにどうしても愛しくて恋しかった。

嫌われてもいい。好かれなくても。それでも、どうか。




君を、守らせて欲しい。





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2019-12-07