ちょんとつけた唇が、ほのかに熱いような気がした。


嬉しいのに、恥ずかしい。
今すぐ逃げ出してしまいたい。聞こえる心臓の音に、自分がいかに緊張しているのかわかって、それをガイさんにバレてしまうことが、どこか気恥ずかしかった。私よりもずっと背の高い彼をぼんやりと見上げると、ガイさんは白い息を吐いて、ゆっくりと私の頬をくすぐった。彼の耳の端が赤いのは、きっと寒さだけのせいじゃない。

「あの、ガイさ、……んっ」

もう一回、キスされた。避けることができるくせに、やだ、と声ばかり抵抗させてついばむような彼のキスが終わったときには、すっかりへろへろになって、力が抜けてしまった。そんな私をガイさんはいとも簡単に受け止めて、とにかく嬉しげに笑っているから怒ることもできない。と、思ったけど、「もう一回、してもいいかい?」とガイさんに問いかけられたから、「もう十分にしたじゃないですか!」 と叫んでしまった。

「そう言われてもな。ずっとこうしたかったんだ。夢かもしれない」
「げ、現実です……。でも、その、ここは、外で」

人がいないとは言え、あまりにも、その、どうかと思います、という言葉をゆっくりと告げて、肩に置かれたままのガイさんの手のひらに赤面した。「“外”じゃなければ、いいのか?」「え?」 屋内なら、いいんだな? と念押しのような言葉に、いやそういうわけでは、と首を振るつもりが、傾げてしまった。ガイさんは、「そういう、ことなんだよな?」と、こちらにゆっくりと問いかけた。そうなのかも、しれない……? と戸惑いつつ頷いた。つまりは了承してしまった。


それからあんまりにも嬉しげな彼の顔を見て、瞬きを繰り返しているうち、あれよあれとよ宿屋に連れ込まれて、次の日の朝、ガイさんは心持ちか笑顔がぴかぴかしていた。「え……なんか、ガイ、めちゃくちゃ、元気じゃない……?」 困惑気味なアニスさんの声をきき、元凶としては、顔を両手で覆って逃げるしかない。


「そうか? まあ、気合は入れたからな。もう、色々と、なんでも! 俺にまかせてくれ!」
「な、なんなのこのテンション……拳握ってるし、コッワ……。そこのお嬢様は逆に様子がおかしいし。ハッ! まさか!?」

いやだッ! やらしい! やらしいーーー!! と叫ぶアニスさんに、本当にもう何も言えなかった。ルークさんとナタリアさんとティアさんがきょとんとしているところがこれまた辛い。「ち、違います……そ、そういうのじゃないです……」 どういうのかと言葉にすることも躊躇われたけれど、とにかく否定した。

アニスさんはトクナガを抱きしめつつ、ハアン? としゃくれた。「ええー? ほんとー? でも、だし、ほんとに違うのかなあ。……でもでも、チューくらいはしたんでしょ?」 彼女は私とガイさんだけに聞こえる声で、ぽそっとささやき声で問いかけた。「…………」「…………」 二人で視線をそらした。「したんかーーーーーい!!!!」 今日も彼女のツッコミは冴えている。



まあでも、こっちはずっとやきもきしてたから、逆にすっきりするんだけどさ、とまさかの心配に小さくなりながらも、ノエルさんの手腕ですっかり回復したアルビオールに乗り込み、アブソーブゲートに向かった。外殻は、いつ崩落してもおかしくはない状態だ。インゴベルト陛下、ピオニー陛下の両名はすでに状況を把握し、備えてもらうように、ジェイドさんが手配している。

大地が揺れる度に、不安が大きくなった。今、私達が立つこの場所は、細いセフィロト一つに支えられているのだ。「私はここで、みなさんの無事を祈っています。……あの、さん!」 ノエルさんが、少しだけ考えるようにして、両手を合わせた。だから、その手のひらをゆっくりと掴んだ。

「ノエルさん。全部が終わったら、一緒にゆっくりお茶でもしましょうね。そのときには、きっとタマラさんにも、たくさん報告しなければいけないこともあると思うんです」
「……そうですね!」


行こう、と前に進むルークさんの後を追った。たくさんのことがあった。たくさんの人に出会って、別れて、色んなことを知った。ノエルさんという友人もできた。


最大と言われるセフィロト、アブソーブゲートの内部はとても広大で、ちらほらと雪のような結晶が光り輝いているようだった。記憶粒子と呼ばれるセフィロト内部を循環する星屑がとても綺麗で、まるで夜空の中にでもいるみたいだ。けれどもこの先にはヴァンが待ち受けている。瞳を囚われている場合ではない、と息を吐き出した時、唐突に、大地が揺れた。

すぐさまそれは収まったけれど、セフィロトが不安定である証拠だ。誰もが気を引き締めた時、さらに激しく視界が揺れた。「今度はでかいぞ!?」「気をつけろ、地面が……!!」 ルークさんとガイさんの警告も虚しく、僅かに入った亀裂がまたたく間に広がり、すぐさま世界が暗転した。「ガイさ……っ!!」 悲鳴が聞こえた。「みゅうーーー!!!」 唇を、噛み締めた。



転がり落ちるのはこれで二度目だ。ロニール雪山のときと同じく、私達はよっぽど運がいいらしい。「ミュウ、大丈夫? 怪我はない?」「さんに助けていただきましたから! とっても元気ですの」「それはよかった」 さんは、大丈夫ですの? と不安げな彼に頷いて、抱きしめた暖かい彼の体温に安心して、周囲を見渡した。崩れた瓦礫の中に、ルークさんとティアさんが額を押さえてうめき声を上げている。

「ルークさん、ティアさん!」
……? それに、ミュウか。他のやつらは……」
「どうやら離れ離れになってしまったみたいね」

あまり幸先がよくないスタートだ。大丈夫だろうか、と眉をひそめているのは私だけではない。ティアさんは、私とルークさんを見比べて、吹き出すように笑った。「そんなに心配そうな顔をしないで。一番心配な人たちがこうして無事なんですもの。平気よ」 一番。心配。ティアさんの言葉をルークさんと二人で繰り返して、顔を見合わせた。そしたらまたティアさんに笑われた。

「ま、まあそうだよな。それより奥に進んでみよう。みんなと合流できるかもしれないし」

ルークさんの提案に、ですの! とミュウが元気に片手をあげてぴこぴこしている。そう、きっと、大丈夫だ。こんなことは、今まで何度だってあった。「行くぞ、」 ぽすりとルークさんに頭を撫でるように叩かれて、「……はい!」 力の限り返事をした。どうかみんな、無事で。




***



「他のやつらとバラバラになっちまったみたいだな……」

落ちた空を見上げて、状況を把握した。なんとか声だけでも届けば、と幾度か問いかけてみたものの、反応はない。「こりゃ先に進むしかねぇな」「そうですわね……みんなと合流することができたらいいのですけれど」 不安げなナタリアの顔を見て、「心配かい?」と問いかけた。

けれども彼女はすぐに首を振った。

「いいえ。私の隣には、ガイ、あなたがいますし、みんなの力は一緒に旅をしてきた私自身がよくわかっていますもの」
「なるほどね」

本当に、様々なことがあったものだ。なんてしんみり声を出したときに、アニスにはおじさんくさい、なんて言われてしまったが、考えずにはいられない。そうして、ナタリアとは少し、アッシュの話をした。彼がこの場にいない理由は、恐らく彼も自分たちを信用している証拠なのだと。そうじゃなければ、きっとあいつは一番にヴァンのもとに飛び出している。

     そういうやつなんだということは、よくも悪くも、幼い頃にじっと見つめていたものだから、ある程度はわかっているつもりだ。

そうですわね、とナタリアも苦笑した。ただ少し、と俺自身が眉をひそめた。そうして、見えもしない空を見上げた。「が、な。どうなっているかと」 ため息のようにこぼれた俺の声に、ナタリアは首を傾げた。「が? それこそ何も心配する必要はないでしょう。なんて言ったって、ですわ」 旅に出る前は、どうにも頼りない印象だった彼女だが、ナタリアの中ではすっかり変わってしまったらしい。

その言葉には、正直同意する。ただ、俺の場合は少し事情が違う。それを毎度のように適当に誤魔化して、そりゃそうだな、と肩をすくめる。それだけの話だった。けれども、そうか、と気づいた。(もう、誤魔化す必要なんて、ないんだったな)

隠すべきことなどどこにもないのに、使用人の頃の癖が染み付いていた。

「俺は彼女のことが好きだから。どうしても、不要な分まで心配したくなるんだよ」

そういうことさ、と軽く告げて、道を歩いた。「不要な分まで……?」 ナタリアもそれに倣って先に進む。そして恐らくまったく通じていない。「そこじゃなくてな。その、まあ、なんだ。俺はのことが好きなんだ」「それは、つまり?」「一人の女性として好きってことさ」 ここまで告げたところで、さすがに気恥ずかしくなってきた。正直、耳の後ろが熱くなる。

そのあたりで、俺の表情を見てか、それとも言葉の意味を飲み込んだのか、「……まあ!」とナタリアは素っ頓狂な声をあげて、口元に手のひらを置いた。「……やっとわかってくれたみたいで嬉しいよ」 なんだか力が抜けてくる。


「あなたが、を? 女性として? それはいつのことからなのですか??」
「いつって……そうだな、意識をしたのは、ルークが誘拐されて、しばらくのことだけど……」
「7年近くも前から!」
「いや、実際に意識をしたのは、それくらいという話で、もしかすると、それより前ということも……俺もガキだったからなあ」
「それ以上も前から! に恋慕していたと言うのですか!? 使用人として!??」
「……あんまり具体的に言われると、さすがに恥ずかしくなってくるんだが」


まあまあ、と驚きの声を繰り返す彼女が、正直意外だった。なんて言ったって、実際はガルディオスの名を持っているとしても、あちらでの姿はただのセシルで、使用人で、は立派なお嬢様だ。身分の差というものがある。きっとナタリアは怒り狂う、とまでは言わずとも、眉の一つでもひそめるものだと思っていた。

そんな感想をある程度、言葉を選びながら告げると、ナタリアは瞳を丸くして、くすりと笑った。「これでもわたくしはランバルディア家の公女でしてよ。市井の民が話題にするようなことにも広く目を向ける必要がありますから、身分差の恋の盛り上がりも、ロマンス小説にも一定の理解がありましてよ?」 それは正直初耳だが。

「とは言うのは冗談として、ファブレ家に仕えていたときには、きちんと距離を置いていたのでしょう? 心の中に秘めていることまでとやかくいう必要はどこにもありませんわ」
「まあ、そうかな」

お嬢様を相手にするには、フランクすぎる対応だった気がするが、それを今つついても仕方がない。

「……には、もう告げましたの?」

もちろん、言ったあとなのですわよね? という重圧を感じる。「まあね」と少し言いづらくも感じながら、短く返事をした。「まあ!」 今までで一番の、瞳のきらめきだった。まさか本当に、こんな反応をされることになるとは思わなかった。「マルクトの貴族であるガイと、キムラスカでも有数の貴族であるファブレの血を引く……! なんということでしょう!」

それでがどういう返事をしたのか、ということまでは答えてはいないが、ナタリアの中で、イエスの返事は決定事項らしい。なにやら夢が膨らんでいる様子の彼女に、深くまで追求することはやめておいた。

「わたくし、協力しますわ!」
「ん?」
「休戦協定は結ばれたのです。両国の隔たりなど些細なことですわ! ランバルディア家公女として、全力であなた方を応援してみせます!」
「そりゃ、心強いな」

拳を握りながら宣言するナタリアに、心底そう感じた。「でも気持ちだけもらっておくよ」 首を振った。

「惚れた女の一人くらい、自分で手に入れられないほどの甲斐性なしになるつもりはないからな」

きみの気持ちは、本当に嬉しいんだぜ、と念を置いて。

ナタリアは俺の言葉をきいて、ぱちくり、と瞬いた。それから握りしめていた拳を解きほぐし、「……そうですわね、その通りですわね」 けれども、と言葉を続ける。「あなた方の力になりたい、と思う気持ちは本当ですのよ。ガイと。あなた方は、私にとって、大切な幼馴染たちの一人でもあるんですもの。幸せくらい、願いたくはなるでしょう」

とても、よくわかる。「……そうだな」 だからこそ、彼女に、ナタリアに告げた。


「なんにせよ、全ては外殻大地を降下させてから、ですわ! 早くルークたちと合流しないといけませんわね」
「その通りだな」


頼もしい幼馴染だ。ナタリアの弓の力を借りながら、俺達はゲートを降下し続けた。そうして、アニスとジェイドと合流した。そのあとすぐにやってきたのは、ルークとティア、そしてだ。大丈夫だと、わかっていた。なのにどうしても、彼女の姿を見るとほっと息を吐き出してしまって、それはも同じなんだろう。ガイさん、と小さく、彼女の口元が震えた。それがひどく愛しくて、たまらなかった。



***




よかった、と息をついた。誰も欠けることもなく、この場にたどり着くことができた。私とルークさん達は、一番遅くに到着したものだから、「あんまり遅いから心配しておりましたのよ」とナタリアさんが歌うように微笑んで、肩をすくめた。そうしてなぜだか私を見て、パチリとウインクを一つして、どこか意味ありげにガイさんを見ている。ガイさんはガイさんで、口元を引き結んで視線をそらしているし、一体彼らに何があったんだろう。


私達がたどり着く前に、ジェイドさんを中心として、ある程度の話し合いを行っていたらしい。崩落の時は近い。本来なら、残る一つのゲート、ラジエイトゲートの封印をとき、制御装置に命令を書き込む必要があったのだけれども、時間的にも難しい。だから無理矢理にすべてのゲートを同時に操作する。乱暴な方法だが、ルークさんの第七音素を使用して、なんとか無事に終わらすしか、私達に道はない。

準備はできているか、と問いかけるジェイドさんに、一人ひとり頷いた。扉の向こうには、すべての元凶がある。息を飲んで、吐き出して、それからふと、隣にいるガイさんの手のひらを、少しだけ握った。互いに、一瞬だ。前を向いた。



「ここに来るのは、私と共に秩序を生み出すべきアッシュ……ルーク・オリジナルだ。私の邪魔をするな、レプリカ風情が」

硬い声とともに、男は振り返った。

     戦いが、始まった。



ルークさんは、ユリアの預言を覆す、ただの捨て駒だと、ヴァンは語った。ルークさんの存在で、預言は狂い始めている、という私達の推測を、彼はただ鼻で笑った。そんなわけがないと。どうあがいたところで、多少の差異はあれど、歪みなどものともせず、歴史は第七譜石の預言通りに進む。そうして、我々を定められた滅亡へと導くとも。

彼は、一体どこで、その未来を見たというのか。

「……そうか! わかった! あれが第七譜石だったのか……!」

ガイさんが、ティアさんを振り向いた。タルタロスで地核へと沈む中、僅かに輝いた光だ。ヴァンはユリアの子孫として、譜石を守り続けていた。ティアさんが神託の盾として探し求めていた譜石は、すでにクリフォトの泥に飲み込まれていたのだ。

ヴァンが見た預言は、果たしてどんな悲劇だったのだろう。彼はそれを語ることなく、ティアさんを嘆いた。彼女を助けることができなかったことだけが、ただ悔やまれると。

「兄さんは! レプリカの世界を作ろうとしているんでしょう!? なら私を殺して、私のレプリカを作ればいいわ!」

その言葉は、恐らく彼にとって、決別の言葉だった。




ヴァンは、恐ろしいほどの剣技の使い手だった。ユリアの子孫である彼は、ティアさんと同じく譜歌を口ずさむことができ、その上優秀な第七音譜術士でもある。複数の譜術を爆裂させ、煙幕の中、一人ひとり切り刻むように大剣を振り回す。

私にできることと言えば、誤魔化しのような譜術を使用して、彼の前方の視界を潰すように、小さな雨粒を飛ばすくらいだ。ヴァンは私が剣技を使えないことも、まともな譜術を使うことができないことも知っている。だから、少々煩わしくはあるけれど、戦力とも言えない足手まといが一人くっついてきた。その程度にしか考えてもいないだろう。     その不意を突く。

ティアさんが譜術で補強したナタリアさんの弓矢を、風の音素で僅かに軌道を変化させる。それでも、ヴァンにとっては眉を寄せる程度で、彼の体に小さな傷をつけることがせいぜいだ。ただ苛立たしく感じてくれる程度の価値はあったらしい。譜術の使用は、数秒の間が必要となる。口早に告げられた呪文と、ヴァンの視線。そちらで次の攻撃を把握した。

潰せる人間から、潰す。合理的な男だ。

可能性として、私は死ぬ。ヴァンの譜術にこの身を飲み込まれ、いっぺんの塵程度は残るかもしれないけれど、目を瞑る間の出来事で簡単に私は死ぬことができる。ヴァンが譜術を使用する、その数秒の間に、ガイさんはヴァンに距離を詰めた。けれども足りない。彼の青い瞳が、絶望的なまでに見開かれる。あと少しの時間がある。けれどもいけない。伝えたじゃないですか。あなたも言った。お願いだから。

信じて。



「……なっ……!?」

ヴァンが、驚愕の声を上げた。

私は、複数の音素を操ることができる。FOF変化すらも必要がない。だからこそ、まともな譜術を使用することができなくて、風を起こすことができても、ただの旋風がせいぜいだ。水と風。その2つしか使用することができなかった。でもジェイドさんが言っていた。この2つでも、人を殺せるのだと。すでに持っていた武器だ。だから、今更躊躇することもない。

火を。土を。水を。風を。光と闇を。均等に小さく、けれども濃く、音素の壁を作ることができる。
この世のあらざるものは、全てこれらでできている。

無効化することは困難だ。衝撃で弾かれバランスを崩した。ちりちりと、体の端が燃えて、喉が熱い。けれども、致命傷ではない。ヴァンは私がこの旅で得たものを知らない。彼の譜術は、あまりにも無駄がなかった。すぐさま音素を練り上がることができるように、少しの隙間もなく、音素が凝縮している。だからこそ、小さなきっかけで崩れやすくもある。


ガイさんは私を信じた。残り数秒。彼は駆けた。僅かな隙をつき、彼の剣を弾き飛ばした。そうして、ルークさんが。「……ヴァン、これで、終わりだ……!!!」







こうして、ヴァン・グランツ     いや、ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデは、志半ばで、命を落とした。

彼は崩れ落ちた体を自ら地核に投げ出し、姿を消した。

世界は、平和となったのだろうか?

外殻大地は見事無事、降下を終えた。人々の混乱は未だ続くものの、それでも戦時下であったときよりは、少しは落ち着いているのだろう。元よりも、空は遠くなってしまったはずなのに、流れる雲も、月の明かりも大して変わらないように思えて、世界は案外強いんだろう。


そんな中で、私にも変化があった。



「す、すみません! えっと、今日は……アッ! た、タコがこんなにお安く!? いいんでしょうか!?」

こちら買わせていただきます……! と魚屋さんで、ぺちんとガルドを叩きつけた。店員のおじさんが、なんならおまけもしてやろう、と言ってくれるものだから、「ありがとうございます! 嬉しいです!」とぺこぺこ頭を下げて、手提げ袋を片手にスキップする。



     なんというか。

メイド業を、再開していた。








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これにて崩落編終了です。次回、レプリカ編。なのですが、アニスにいやらしい、とつっこまれたとき何をしていたのかおまけで書きました。本番行為はしていないので、個人的にはR15程度なのですが、苦手な方は読み飛ばしてくだい。



いやだッ! やらしい! やらしいーーー!!」