めがね、めがねめがね


月曜日、柳くんと一緒に授業
火曜日、柳くんと一緒にお昼ごはん



のうみそが、ぽーっとしてしまっているような気がする。一つ一つ指で数えて、今月に入ってから、と柳くんとお話した回数を数えてみた。一回、二回、三回。おお、これはずごいぞ、と思い返すだけで嬉しくなる。新記録だ。というか、もう一番初めから怒涛の記録更新だ。

だだのぼりの自分のテンションを抑えよう、抑えよう、と私は大きく深呼吸を繰り返した。友人と一緒に帰りながら、ふとしたときに思いだしてしまう柳くんの会話に、一人にやっと笑ってしまう。「ちょっと変じゃないの」と三回目くらい台詞を聞いて、まあちょっと私、まずいなぁ、と改めて認識した。落ちつこう。

そんな訳で駅の改札口を抜けて、ぼんやりと友人と電車を待っているとき、「柳くんってさあー」と友人が続けた台詞に、思わずドキーン! と大きく心臓がなってしまい、「へいなんでしょう!?」と、とても不自然な返答をしてしまった。

訝しげな目で見られたことに気付きつつ、「柳くんが?」ともう一回聞き返す。「うん、柳くんさあ、文学部の子に告白されたんだってー」「うん?」

その台詞に、まぁ柳くんだものなぁ、とまるで他人ごとのように感じてしまった自分に驚いた。だって柳くん、イケメンですから。前々からよくよく聞いたお話だ。「ほほー、で、結果は」と、自分で聞いておきながら、それくらい予想がついている。柳くんは大学の女の子のお付き合いは全部断っているのだ。

「惨敗だってさー。どうやったらヒットが打てるのかねー」
「ホームラン級のあたりじゃないと柳くんは厳しいんだよ」

なるほど、私はとても安心しているのだ。なんてったって柳くんだ。誰がアタックしたって駄目なのだ
から、私だってもちろん駄目だけど、その分柳くんに彼女ができてしまって気がねする必要もない。
バレンタインのどっちゃり紙袋を抱えた彼はある種凄味があった。うーん、もてもてだ。

「柳くん、なんで彼女を作らんのかねぇ」「別に彼女作ることが幸せにつながる訳じゃないと思うなぁ。人それぞれですよ」そうかなぁ、と友人は頷きながら電車に乗り込む。おっ、丁度二つ分あいてるぞ、ラッキーだ! と急いで二人で座り込み、電車の発車を待った。

もうちょっとで発車するぞ、というとき、男の人が急いで電車の中にとび乗った。そして彼は、はー、と肩を下ろして、ぴー発車します、というアナウンスを聞いた後に吊革へと向かう。そしてよっこらしょっと、と吊革をつかもうとして何度か空振りしてた。


「うわ、、あれ、あれ!」
「わ、わかってるよ……!」
「柳くんだー! 空振りしてる! 目が悪いのかなぁ!」
「うん、結構悪いみたいだね」

はははは、とめがねめがね、と探していた彼を思い出した。なんだか可愛いなぁ、とほのぼの見ていると、ふいに柳くんが私たちへと顔を向けた。そしてにこーっと、とっても可愛く微笑んだ後にぱたぱたと手を振ってくる。思わず私と友人もぱたぱたー、と手を振ったものの、「え、ちょ、、私たち? 私たちかなぁアレ!?」と興奮した声を出した。

「え、さ、さー、どうだろー」
「やっだ柳くん、私の顔覚えてくれてたんだー!」

きゃー! と彼に聞こえないようにと抑え気味の声で黄色い悲鳴を上げた友人を見て、いやいや、私じゃないですかね、私に手を振ってくれたんじゃないですかねー!? とこっそりドキドキしてみる。けれどもその後すぐに友人が、はっと正常に戻ったらしく呟いた言葉で、私の興奮も一緒に冷めてしまった。「あ、違うわ」「なにが?」「だって柳くん、吊革からぶりしてたじゃん。今日コンタクトないんだよ、吊革も見えないのに、私たちが分かる訳ないって」「あー」

まぁ、だよねぇ、という感じだ。「見間違いでもしたんだろうねー」と至極冷静な言葉に「だよねぇー」と私も頷く。なんだ見間違いか。
まぁそれでも、と私と友人はちらちらと柳くんを盗み見ながら、「いやあ目の保養ですなぁ」「ですなぁ」と口元を緩ませながら帰宅した。


月曜日、柳くんと一緒に授業
火曜日、柳くんと一緒にお昼ごはん
水曜日、柳くんと一緒の電車