めがね、めがねめがね



月曜日、柳くんと一緒に授業
火曜日、柳くんと一緒にお昼ごはん
水曜日、柳くんと一緒の電車


(ね、寝坊したー……)


こなくそう、と私は頭をひっかいた。お腹の中が、ぐーぐー、となってる。朝ごはんを食べることができないレベルの、大遅刻の大寝坊だ。おかーさーん! 起こしてよー! と半分泣きながら髪の毛を整えると、「もう大学生なんだから、自分の面倒は自分で見なさい!」と怒られた。正論である。しかしマザー、私はまだ未成年でありまだまだ親の保護下に置かれるべきうんぬん

なんて言い訳をするくらいなら、即座に自転車を動かして駅に向かうべきである。うわあああ、と頑張って自転車をこいで、汗でだらだらになりながら、駐輪所に滑りこんだ。ついでに言うと、電車にも滑り込んだ。

なんとか授業に間に合ったはいいものの、お昼ごはんもなく、私はふらふらしょんぼりしながら学内のコンビニへと向かった。学校の中にコンビニとは、便利な世の中になったものだなぁ、と高校時代を思い出しながら頷いたのだけれど、それは比べるポイントがおかしいかもしれない。

適当にパンとジュースを持ってレジに向かおうとしたとき、丁度目の前に、見覚えのある男の人もパンを握っていた。「「あっ」」 一緒に声を出して、パチパチ目を瞬かせると、柳くんはにこーっと可愛らしく笑った。私も思わず、にこーっと笑った。

二人一緒にレジに並ぶと、柳くんがちらりと私の手元を見た後に、「さんも、コンビニですか」そういえば、この間一緒にご飯を食べたとき、柳くんはサンドイッチだった。ここで買ったのかもしれない。「うん、恥ずかしいんだけど、寝坊しちゃって」 へへへ、と頬をひっかくと、柳くんはものすごい真顔になった後で、「僕なんてしょっちゅうですよ」と言った。そんなに本気な顔になるほどしょっちゅうなのだろうか。いつもニコニコ顔の柳くんからは多少のインパクトのあってビクッ、となってしまった。

お会計をした後、柳くんはぺこっと私に頭を下げた後に、すーっとドアへ向かって消えていった。あ、い、行っちゃうんだ、とちょっとだけ残念になったのだけれど、しょうがない。柳くんだって用事があるんだし。私もお金を払って外に行くと、「さん」 柳くんが、入り口のゴミ箱前でぼんやり立ちながら、ちょいちょい、と手のひらを動かした。(待っててくれたんだ)

うおお、律儀な人だー、ときゅんとしてしまったのだけれど、取り敢えず私は落ち着くべきである。「さん、ご飯買えました?」「うん、買えました」「じゃあ、一緒に食べる?」

一瞬、何を言われているのかわからなかった。
うん、うんうん! と頷こうと思ったのだけれど、ハッとした。「その、柳くん、申し訳ないんだけど……」 友達と、食べる、約束をしていて……。ゴニョゴニョ私が声を小さくさせると、柳くんは、「そっかぁ」と言って、特に気分を害した様子もなく、「じゃあ、またね」

またね、と私は手を振り返して、なんてもったいないことをしてしまったんだろう、と涙が出そうになった。(つ、次こそはー!)



***


さんに断られてしまった。
僕は多少しょんぼりしながら、コンビニの中のパンを見つめた。ふらふらベンチを探して歩いて、よっこいしょ、と腰を下ろす。ついこの間、さんとご飯と食べた場所だ。そのときのことを思いだしてちょっとだけ嬉しくなった。パンの袋をビリッと破って、もぐりと口に含む。


     あ、好きな人、できました


この間のお休みのことだ。
へへへ、と僕が少しだけ照れて報告すると、石川くんがぽかーんとこっちを見ていて、宮村くんは瞳をキラキラさせて、仙石くんは目をぎょっとさせて、井浦くんは「うらー!」と叫んでいた。

「え、っ、おお、柳そうなのか! 彼女!?」
「い、いや石川くんちがいます、僕の片思いで……」
「あ、あかねが片思いとか……こんなにイケメンなのに……」
「いや僕ずっと片思いばっかりなんですが……」
「えーかのじょー? かのじょー? 紹介してよー!」
「宮村くん僕の話を聞いてください」
「そうだ宮村くんの言うとおりだ、家に連れてきてはどうかね」
「どこの家にでしょうか。ここの仙石宅でしょうか」
「あかねツッコミ早くなったな」
「大人になりました」

髪の黒い部分もちょっと減ってきているし。

それはさておき、「えー、そうなのかー、片思いかー」としょんぼりした顔で、宮村くんはぎゅっとクッションを抱きしめた。「そうかー、残念だなぁ……」と同じくしょんぼりしている仙石くんを見て、なんだか楽しいなぁ、と僕はにこにこしてしまったのだ。
高校を卒業して、昔みたいにみんなで一緒に集まることが少なくなった。大学に入って、別の友達もできたけれど、やっぱりみんなで集まると、懐かしくって嬉しくなる。

そんな僕の周囲に、気づけばみんなが輪になっていた。え、ええっ、えええ、と思わず正座になると、その中から代表したかのように、石川くんがぬーっと顔を出した。「柳、それでそれくらい進んでるんだ」「はい?」「だから、その子と……その、どんな感じの」「あ、ゼミが同じです」「ほう、遊びに行ったりとか」「ないですねー」「……ケータイの番号とか」「えっと、知らないです」「……っていうか、その子に彼氏は」「どうなんでしょう……?」

確かに、そういう可能性もある。
盲点だったなぁ、と頷いていると、井浦くんが、ガシッと僕の肩をつかんだ。「え、え、あ、あかねはその子とどうなりたいの……?」 心持ちか顔が近い。そして威圧感がある。「井浦くん、ちょっと柳くんに近づかないでください塩をまくぞ」「まかれうら!?」 ヤダァー! とぶんぶん首を振る井浦くんを見ながら、うーん、と僕は考えた。

「お付き合いしたいです」

ぽつり、とこぼした言葉に、みんなはぽかんとしたように僕を見た。そんなに変なことを言ったんだろうか。「あの、僕、変なこといいましたか?」「いや……そういう訳じゃなくて、柳でも、そんな風に思うんだなぁ……みたいな」「あの、石川くん、僕、吉川さんに告白したことがあるんですが」「あ、あー、そうだよなぁ」

うぐ、と言うように口元を曲げた石川くんを見て、ちょっとだけ笑ってしまった。
僕だって、好きな子と一緒にいたいし、できることなら、お付き合いもしたい。(そっか) 遊びに行ったり、ケータイ番号を聞いたり。
盲点だった。

ちょっと、頑張ってみようかなあ、と僕は体育座りに座りなおして、じーっと天井を見上げると、「まー、あかねならイケメンだから、大丈夫だって!」「ところで井浦くん、あの、プラスチックの彼女元気?」「そんな硬質的な存在初めからおらんわ!」

えー? と首を傾げる宮村くんに向かって、「泣くぞー!!」と悲しげな井浦くんの声が、こだました。







僕はベンチに座りながらモグモグとほっぺを動かした。「……あ、卵サンド」かつサンドだと思ったのに、めがねがなかったから間違えてしまったらしい。しまったー、まあいいか、と思いつつ、この間のことを思いだして、楽しかったなぁ、と口元を緩ませた。

ついでにうんうん、と何度も頷く。これは気合だ。気合を入れているんだ。
よし、頑張ってみよう。次こそは。




月曜日、さんと一緒に授業
火曜日、さんと一緒にお昼ごはん
水曜日、さんと一緒の電車
木曜日、さんと一緒にコンビニ