Cultus






五人目の子どもは、哀れな子どもだった。

崩れた顔の、小さな子どもと亡霊は、てくてくと廃墟の中を歩いて行く。遠く遠く、遠い場所まで。
マテールの亡霊は、遠く消え去る。





(クソッ……)

あのクソモヤシ野郎、と男は苛立たしく舌を打った。あの忌々しいアクマをぶっ倒したはいいものの、一歩だって動けやしない。うもれた砂の中に、じわじわと赤黒い血が滲む。息苦しさに腹をかきむしった。バカなモヤシは、彼と同じく荒い息を繰り返し、ぼろぼろのイノセンスを、彼の片腕を抱え込んだ。(だから、やってらんねぇんだ)

こういうタイプは大嫌いだ。嫌いを通り越して虫唾がはしる。初めよりも、より一層苛つきが深まった。(“治るまで、あとどれくらいだ……?”) 咳き込んだ口元を拭う力すらない。かさりと動かした指先が、砂を絡めた。どすり。


どこぞで、奇妙な音がした。
まるで、何か大きなものが、砂の上に転げ落ちたような音だ。「い、いっちちちち……」 聞き覚えのある、馬鹿みたいな男の声だ。「イヤー、びっくりしたびっくりした……」
んお? と男はザクリと歩を進めた。静かにこちらを窺うように、ぬっとかぶさったその影に、神田は腹立たし気に目を細めた。

「うおわーお。きみたち、大丈夫カイ?」



   ***



やあやあトマ、お互い生きて再会できて嬉しいネ! だなんて、馴れ馴れしく肩を抱く男を見て、神田は点滴台を蹴り飛ばした。見ていてムカツク。
トマもトマで、相手をしなければいいものの、律儀に返事を交わしながら、二人一緒によしこら嬉しげに笑っている始末である。

「チョット神田、ダメダヨー、病院のもの蹴飛ばしちゃー。ついでにきみは病人なんだからね!」
「るせえこの電波野郎。てめえもいるなんざ聞いてねえぞ」
「当たり前デショ! 俺はただの探索部隊! エクソシストなきみがいちいち歯牙にかける相手でもないし、そもそももうちょっとで死にそうだったしね!」

今日もお天道様と出会えることに、劇的感謝さ! と幸せ気に両手を広げてくるくる回る男を、神田は激しく蹴飛ばした。やるならせめて外にしろ。おそらく外でも蹴っ飛ばすが。それでは失礼、と職務に忠実に、そそくさ部屋の外に出て行くトマは、おそらくあのモヤシのもとだ。イノセンスは、未だ回収できていない。最期の子守唄と洒落こむ人形を相手に、あいつは馬鹿のように座り込んで、待ち続けている。


「……なんだっけ? アレンくんって言うんだっけ」

新しいエクソシスト、とこちらの思考を窺うように、にまりとは口を上げた。「面白い子だネ。約束を守ろうとする子は素敵だな」「ハッ」 甘ぇだけだよ、と吐き捨てる言葉は、自身の胸にとどめた。いちいち口に出すことすらも面倒だ。

ギシリとベッドに座り込み、巻きつけられた包帯を見つけた。どうせあと数日でこれも治る。「それにしても、神田もけっこーピンチだったんだねェ。ボロボロじゃないか」「お前みてぇに、ただ逃げまわってすっ転んでたバカとはちげーんだよ」「アッハ」

痛いことをつくなあ、と頬にでかい絆創膏をつけたは、困ったように口端を緩めた。

     探索部隊からは生死不明の判をおされていたこの男は、運良く、地下に落っこち、ただただ意味なくビビってアクマから逃げまわっていた。

その報告をきいたとき、呆れることを通り越してため息すらも出なかった。そうして一人でごろごろ遊び回っている間に、神田達の元へと足を滑らせ、砂の海に埋まってしまったとかなんとか。へえこらアレンと神田を引きずり、ついでにトマを救出したことは功労だが、どうせそれも時間さえあれば自身一人でどうにかできた。とにかく、は役立たずでひ弱でバカな探索部隊であるということだけは間違いない。
相変わらず何を考えているのか、「いやいやめんぼくない!」とへらへら笑うをとりあえずと蹴り飛ばした。バカバカしい。

何がいいたいのか、「7回目のサイコロも、おんなじ数字だったみたいだネェ」とは嬉しげに笑っている。何がサイコロで、同じ数字だ。
「この運だけ男の電波野郎が! 一生俺の前に現れんな! てめえと話すといらついて仕方ねぇ!」
「あっははは、やだやだ神田ったら! そんなこと行って、どーせホームでまた会うって!」
「いますぐ死んで消え失せろ」
「死なないヨー」



「なんてったって、俺には植物のカミサマがついてるからね」と誇らしげに胸をはるの頭を、とりあえず思いっきりにぶん殴った。「イテェ!?」





BACK TOP NEXT

2013/01/12