| 「つまりは異世界だね」 どこかコーヒーの香りがする、真っ白いベレー帽に、くるりと髪を飛び跳ねさせた男性は、そう締めくくった。 第一印象は汚い部屋だった。積まれた本棚は天井にまで達しそうで、そんな大きな本棚は、私は図書館でも見た事がない。立てかけられた梯子に登る勇気もない。 全体的に薄暗い印象をうけるその部屋は、基本的になんでもアリだった。散らばった書類を避けて歩く事はとっても困難で、その部屋の中心へとおざなりに置かれたソファーが中々にミスマッチだった。どこの部屋にもあるモノクロツートンカラーはここでも健在らしい。 「つまり君はニホンにいたわけだ」 「はい、そうです」 「そしたら、赤髪の人間の上に落っこちちゃった、と」 「落っこちたです」 「そんで、twenty first centuryから、ねぇ」 「え……? あの、神田さん、え?」 「21世紀っつってんだバカかお前は」 「ご、ごめなさい…」 めんどくさそうに、ソファーへと腰を深々と埋めた神田さんに、もの凄く申し訳ない気分になる。つまり私はタイムトリップしてしまったんだろうか、と考えたのだけれど、この教団のシステムを考える限り、なんだか違うような気がした。 「あの、ここは、アクマっていう、もんすたーを、倒す人たちが、あつまた、し、しせ……場所、なのですか?」 「うん、そう、施設」 笑いながらコーヒーを飲み込む青年に向かい、神田さんがチッと軽い舌打ちをする。ビクリと肩を震わせてしまったのだけれども、どうやら私に向かってではないらしい。 「ンな事も知らねぇ部外者がいたってのかよ、どうなってんだ」 「そこはボクもビックリ。うーん、人身売買はしてないつもりなんだけどなぁ」 「アア? 本当かァ?」 「うんまぁ一応」 なんでかなぁ? とこくりと彼が首を傾げている事は分かるけれども、単語が難しすぎて所々理解が出来ず、遠い世界の事のように思えてしまって、ぼーっと視線をとばしていると、神田さんにバシリと頭をひったたかれた。 「お前自分の事だろうがちゃんと理解してんのか(訳・関係ねぇ俺巻き込んで悠々してんじゃねぇ潰すぞ)」 なんか二重音が聞こえるのは何故だろう。 「うんまぁちゃん、君が落っこちた人、どんな人だったか覚えてるかな?」 手がかりになるかもしれないから、とメガネのフレームの位置を直しながら、彼は朗らかに笑った。私はええっと、と何度も思い出した彼の事を伝えるように、ばばっと顔を上げる。「赤髪さんです!」 ベレー帽の人は、朗らかな笑みを固めたまま、コーヒーをずずりと飲み込む。「うん、で?」「え?」「それ以外でなんかない?」 え、と私は固まって、ええっと、とばたばたと頭辺りを、さーっと指で動かす。 「あの、こんな、髪型で、赤髪さん、なのです」 「………髪型ばっかかよ」 僅かに神田さんがつっこむ声が聞こえる。 それじゃあ分からないなぁ、とベレー帽の人は、机にある書類の山へと顔をつっこみ、それ以外、それ以外、それ以外、と黙々と考えた「あ!」「ん、何か思い出した?」 「くろす!」 確かにそうだ。彼は別れるとき、そんな事をいっていた。「なんとかなんとかクロスなんとかかんとか」 あのときは、さっぱりと分からなかったけれども、頭の中に出来上がった知識を総動員させれば、なんとなく、言葉が描かれる。いい女になってから来いよ、俺はクロス、クロスなんだ? ええと、マルアン? ううん、と頭をひねらせている私を余所に、神田さんとベレー帽の人は、「「あー」」と見事に声を合わせて、遠くを仰いでいた。 私も真似をして上を見詰めてみたけれども、今すぐ降ってきそうな本だらけしか見つからない。なんか恐いなあ、この部屋。 BACK HOME NEXT 2008.12.23 |