| なんてこった、とラビは頭を抱えた。なんてこった。 まず言葉が通じない。なんとなく超嫌がられているということは認識できるものの、ぴぎゃあと半狂乱に叫ぶ子どもに、自分の意志を伝える術を、ラビは学んでいなかった。 最終手段、つまりはボディランゲージ、と身振り手振りで伝えようとしても、意味わかんねーよ! と言われたような気がする。ちなみに事実正解だ。何故だかにんじんにんじん連呼されるのだが、にんじんってなんだろう。 日本語の勉強をしっかりしとくべきだった、とちょっぴり涙目になりそうだ。 そんなラビに救世主もとい破滅への輪舞曲が現れた。レッツ魔王。 「ゆうー、ゆうー!」 「神田っつってんだろうがこのクソガキが」 「かんにゃ!」 「神田だつってんだろ」 ある種微笑ましい光景のように、黒髪二人がラビの前を通り過ぎる。神田の服を掴もうとしたが、何やら足をつるりと滑らせたらしく、ぺちりと床におでこを打ちつつ、そのまま倒れてしまったのだが、神田はそれを気に留めることもなく、ずかずかと歩く。 慌ててラビは「だいじょうぶさ?」と彼女へと手を差し出そうとするも、「にんじんいらない!」とパチリと手のひらを叩かれた。うちひしがれるラビに、妙なタイミングで背後へといたらしいアレンが、ぽん、と優しく肩を叩いた。「超嫌われてますね」「いい笑顔でいうな!」 あの日、ラビは激しく焦った。「ゆうかいはん! ゆうかいはん! ひゃくとうばん!」と叫ぶ子どもの前に、半分思考停止のまま正座し、だらだらと汗を流しながら「ヘルプミー!」と天にも叫ぶ気持ちで、ああ! と頭を抱えた瞬間、たまたま任務を終えたらしい神田が、「ガキの声がうるせーんだよ黙らせろ!」 と怒り沸騰のまま、ドアを叩き切る勢いで、割り込んだ。 つまりは日本人同士腹を割った話し合いが始まったのだが、その光景をラビは一生忘れることはない。泣き叫ぶ幼児と、それを刺し殺さんばかりに威圧を放つ男一人。ラビに理解のできない異国の言語をお互い口から放ちながら、ほんの少しずつ落ち着くに、助かったとため息を吐いたものだ。 どんな説明をしたのかまったくもって理解はできないが、とりあえず、は自分の状況に理解を示したらしい。 そしていつの間にか、ラビを差し置き、子どもにやさしい保父さんとは対極な位置へと居座る神田へと懐いていた。 きょろきょろと物珍しげに目線を動かすと、ぱっちりと目が合った。 ラビは慌ててにっこりとほほ笑んだ後に、ぱたぱたと手を振れば、彼女はとてもめんどくさそうに眉毛をよせて、ふいっと目線をそらす。さみしい。なんでだ。「なんでなんさアレン!」「さー?」 僕にはちゃんとお話してくれましたよ、とにっこりと微笑むアレンが眩しい。おじいちゃんっていってましたけど、どういう意味なんでしょうねと首を傾げるアレンだって、ちょこっと羨ましい。 俺って子どもには好かれる方なんだけどなぁ、と壁へともたれかかるラビを見ながら、「あ、わかった」とぽんとアレンは両手をついた。 「きっとラビの下心が伝わっちゃってるんですよ」 「シタゴコロ!?」 手のひらを水平に上下させながら、ラビって上から下まで守備範囲広いですもんね、と笑う男に悪意はない。恐らく。 「いやいやいやいや流石に子どもに手を出す趣味は俺にはないし!」 「そんな。またまた」 「またまたってナニ!?」 すべては俺の煩悩がわるかったんか!? と叫ぶ男に、「ラビー、任務だってさー」と丸メガネのジョニーがパタパタと資料を持つ手を振る動きを見つめつつ、重い溜息と共に、戻ってくる頃には、きっとも元に戻っているだろう、寧ろ戻っててくださいと鈍く足を動かした。 BACK HOME NEXT 2009/03/04 |