strike.muss.death



気分はヘイヘイムツゴローさんって感じ。



そんな訳で雀くんフレンドリー計画は失敗した。
まあなんていうかもともとなんか無理があったような気がするし無理だったし、にこにこした雀くんがこっちへと手を振って、「くぅーん! あーそぼっ!」なんて言ってくるなんて想像しただけで嫌だった。既に俺の中のイメージ的にいうと、「ククク、遊ぼうか」(←拳から何か赤いものが滴っている)ぺろり。舌舐めずり。なかんじ。最悪だ。

しかしながら俺の拳が彼の顔にヒットし、自主規制な光景を繰り広げてからというもの、雀くんはその小動物チックな名前に反し、涎をだらだら垂らし、いつも以上にギラギラ目が光る肉食獣。ククク……俺を本気にさせやがって、いいぜ力の限り相手してやるYO! な少年漫画の悪役(もしくはライバル)へと本気でジョブチェンジしたらしい。つまり俺は雀くんの中でただのわき役チックな咬みつくおもちゃから、主人公挌へとレベルアップだ。そんな世界滅んでしまえ。


泣けてきた。どれくらいかと問われれば、十割中八割くらい。残り一割二分は見栄っ張りに、八分は小さな勇気。りんりん。愛と勇気だけが友達なんだ。誰か助けろ主に顔があんパンなヤツ。

この間前の学校の友人からぷるぷるとかかってきた電話に、「どう、そっちの学校楽しい?」なんて明るく訊かれたので、俺は目の端っこからキラリと光る滴を見せて語った。「うん超楽しい! 友達とかバリバリでさ! 聞いてくれよ俺雀に懐かれてンだぜ! なんかちょっと凶暴でクチバシ超とがってるけど! てへ!」 泣けた。男のプライドだった。

今更あんな俺のことを見て見ぬふりするようなクラスメートと友達になってやるもんか。こっちから願い下げだ。嫌じゃ。俺はロンリーで生きていく。たとえ雀くんにつつかれても。ロンリー。ロンリー。




「うあああああ嘘です友達ほしいよおおおおおお」


泣いてみた。

家ではマイマザーがニヤニヤしてるし、街中で叫ぶには不審者一丁出来上がり。最後の抵抗として、俺は学校の校舎の裏側で錆びたフェンスに向かって叫んでみた。俺の背中はどこかほかの学年の教室だけれど、放課後になれば人っ子一人見あたらず、王様はロバの耳現象にもつながらない。「とーもーだーちー!」 ともだちー!!

喉の底から叫ぶと、本日ぶっ叩かれたコメカミが引っ張られたのかのように痛くなる。頑丈でも痛いのだ。見事に起こした脳震盪に保健室コースへ連行されたことを思い出し、しくしく泣きながら叫ぶ。既に保護者への連絡もされない。くんは本当に頑丈なのねぇ、先生安心! なんてにっこり笑った担任に何が安心なのか400文字以内で説明してほしい。チキンだからバーカ滅べ! と捨て台詞しか残すことができなかったけれど。

「と、とも、ともだちいいいいい」


そんな自分の叫び声は自分で聞いていて悲愴な気持ちになる。こんなことをしたって意味がないのだ。卒業まで一年もない。それまで頑張れ俺。中学まで頑張れ俺。
自分自身を奮い立たせ、おっしゃぁ! とバチコンとほっぺたを叩いたそのときだった。



「む、友達か!」

どこか力強いセリフと共に、背後の教室の窓が力強く開かれた。思わず驚いて振り返ると、活発な顔をした男子がニヤッと八重歯をのぞかせるように笑い、「とう!」 窓から飛び降りた。

男子はじゃりじゃりと土の地面にスニーカーを乗せ、俺を見た。何故か他学年の教室から飛び出してきたけれど、青い名札は同学年の色だ。笹川。

「ボクシングをすればいい!」
拳をグッ


よくわからないので、俺はそのまま帰ることにした。ランドセルが給食セットとぶつかってカチャカチャ音を立てる。「さぁボクシングだ!」 これ以上意味のわからない奴にかかわってたまるか。「ボクシングをすればすべて解決する!」 帰ろう。そしてご飯と食べて、寝て、元気に学校へ来よう。「ボクシングをすれば強くなれるぞ! 友達もいっぱいだ!」 負けない。俺は負けない。負けてたまるか。「ボクシングだぁあああああ!!!!!」「だまれえええええええ!!!!」


耐えかねた。暑苦しいテンションに耐えかねた。
付いてくんじゃねぇヨ! な気持ちを精一杯に表しながら両手をガッと掲げひっつかむような形の手のひらで、相手を威嚇するように叫ぶ。キシャア!

しかしながらボクシング男(名札から見ると恐らく笹川)はフゥ……とどこか悲しげに首を振り、俺の両手を素早いスピードでひっつかみ、手のひらをグーの形にさせた後、場所を無理やりに固定させた。な、なんだこいつ! と足が出そうになった瞬間、ボクシング男はバックステップで俺から距離をはかり、今の俺と同じようなポーズで、グッと拳を握る。

「そうだ、これがファイティングポーズだ!」

満足げだった。


「……いや、ごめん、意味がわからんから」 な、俺帰るよ。
こういうタイプは頭ごなしに叫んでもつかれるだけなのだ。俺は雀くんで学習した。広い心で、大きな心で。包み込むように。

無視しよう。


「……まてまて帰るんじゃない、俺には分かる、お前にはボクシングの才能があるッ!」
「ないない。ないから。帰るから」
「そのファイティングポーズを見れば一目瞭然! お前には分からんのか、この溢れる才能が!」
「お前がな、笹川くんがな、勝手にしたんだろうが」
「むむっ!? 何故俺お名前を知っているんだ、さてはボクシングを一緒にしたくて」
「名札見ろお前の右胸見ろおおおおおお!!!!」
「その洞察力、やはりお前はボクシング選手になる運命だ!!!!」
「意味わかんねぇよおおおおおお!!!!」
「素晴らしい肺活量だああああああ!!!!」
「なまむぎなまごめなまたまごおおおお!!!!」
「素晴らしい滑舌だあああああ!!!!」
「ハーイ、ボクシング関係なーい!」


そんなことはない、ボクシングは全てに精通するスポーツなのだ! と叫ぶボクシングマンは暑苦しく詰め寄った。本当に暑い。体温高いんじゃないだろうか。知らんがな、ボクシングなんて、知らんがな、と思いっきり首をぶんぶんと振る。ボクシングを習う→俺超強い→雀くん撃退。こんな構図が一瞬だけ頭の中に浮かんだけど、あ、無理。と即座に脳内否定。俺根性ないし。

「いいか」
俺は何もかもが面倒臭くなって、ボンクシングマンの肩にぽすりと手を置いた。「俺はな、ボクシングを習わないからな。他当たってくれ」 優しく。ゆっくりと。スローで。脳内にしみこませるように、まったりとしたペースで。俺優しい子。

ボクシングマンはむ、と一瞬考えるような表情をした後「しかし」口を開いた。「友達がいないと」「うっせえボケ!」「むっ!?」 優しさは終了しました。

えぐるようなパンチはボクシングマンを興奮させる要因にしかならなかったらしい。「ボクシングだ!」「しねぇよ!」
けんもほろろな俺の態度に、少しは諦めたのか、ボクシングマンは「む、そうか……」とどこかしょんぼりした顔つきで、「そうか……」
ああこれで話は終わったのかな、と俺は満足して頷き、そのままくるりと背を向けたときだった。「そうだ!」 思いついたらしいボクシングマン(もう黙ってくれないかなぁ)

「友達になってやるから、ボクシングをしろ!」
「そんな利害関係友達っていわん」
「そうか。なるほどじゃあ友達になってやろう!」
「話を聞こうか」


俺がお前の友達になってやって、そしてボクシングに勧誘するのだ! と長期的な計画を話すボクシング男は、馬鹿だなぁ、と思った反面、俺の心の中がぐらりと揺れた。(ともだちほしいよおおおおお!!!!) 叫びがそっくりそのまま胸の中で木霊する。チャンスかも。この学校で唯一のチャンスなのかも。

普段の俺ならば、こんな誘いには乗らす、ハッと鼻で笑ってさっさと帰宅していたかもしれない。けれども多分きっと、弱っていた。殴られて鼻血とか出しまくる日々に参っていた。
俺はう、と唸りながら首元をぐるぐるとまわし、「い、い、けど」 よくねぇ。最後のプライドがそう叫ぶ。


けれどもボクシング男は、「そうか!」とぴかっと明るい太陽みたいな熱い笑みで、子どもながら分厚い皮をした手のひらをずいっと俺に差し出した。

「俺は笹川了平だ!」
「……
「うむ、まるでボクシングをするために生まれたような名前だな!」
「うん意味がわからない」


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2009.08.03
1000のお題【4 イキが良すぎ】