ある日平和がやってきた。そんな日もあるさ。 じりじりと照りつけられる太陽光に、ああ肌が焼けるなぁ、と俺はプールサイドでがくりと座る。足元が直接熱せられたようにじわじわこんがりしてくるので、最初の方こそあちちうっはあ! と足をぴょこぴょこさせていたけれども、それも体力がつき、みんながバシャバシャ水遊びをする様をハッハ楽しそうでいいですねとゆるい笑みで見つめた。 ぶっちゃけ水着忘れた。 そんなことはどうでもいい。果てしなくどうでもいい。いやどうでもよくない。なんで俺は水着を忘れてしまったんだろう。なんでこんな寂しく端っこの方で見学をしちゃってるんだろう。そしてなんで、 隣で雀くんが、すげぇ大物ずわりをしているんだろう。 大物ずわりっていったらあれだ、社長とかがふかっふかなソファーに座って足を組み、両手を肘掛にかける感じの奴だ。 何故か雀くんは器用にも体育館へと繋がる階段にて、じろっと生徒達を見下ろしている。こええ。 何でこいつは普通に見学してるんだ、体調が悪いのか、俺と同じく水着を忘れたのか、なんなんですかどれなんですか。マンツーマン。雀くんとマンツーマン! 見学者ってもっと多いと思うんだけどどう思うマンツーマン! 絶対雀くんの所為だと思うマンツーマン! 教師までこっちスルーだぜマンツーマン! 一人ほろほろと涙があふれて来そうな状況にも、何故だか不思議なことに、今日の雀くんはおとなしかった。プールサイドにて、現在一時間目、初顔合わせをした瞬間「チッ」と舌うちに今の場所へと王様ずわりだ。もしかして「……雀くん、マジで体調わるかったり?」「チッ!」 答えになってねぇ それでも飛び出すことのないパンチとキックに、ほんの少し俺は気分を大きくして「俺さぁー、水着わすれちゃってさぁ、雀くんは?」「チッ、チッ!」 雀くんとの会話は無理と判断した。 もういいよ、焼かれればいいんだろうよ太陽によ。俺との会話なんて望んでないんでしょうよ。どうでもいいですよ。あーあ、笹川、雀くんやっぱムリだしぃー、と出来たばかりの友人に対して脳内にてぼそっと呟く。ちなみに現在彼は学年合同のプールの為ふよふよ水面へと浮かんでいる。どうでもいいけどお前泳ぎ方変じゃね。 「……こんな……群れれる訳ないだろう」 ぼそっと聞こえた言葉に、「えっ」と振り返ると、やっぱり不機嫌な顔をした雀くんが、じろっとプールを睨んでいた。「え、群れる?」 今なんつったお前。 ねえ何、ねえ何、と近づく勇気は俺にはないので、あーん? と首をかしげて、けれどもやっぱりツンと俺を無視する仕草に、しょうがねぇなぁ、と口を開いた。「今日さー、雀くんちょっとマイルドじゃね」 俺こんなに平和っぽく雀くんと対面したの初めてなんですけど。 雀くんは切れ目な瞳をすーっと動かし、面倒くさそうに口元を動かさず、鼻から息を吐いた。フーッ。 「プールサイドでは静かに、暴れない」 当たり前だろう、と言いたげな彼のセリフにそっかぁ、と一瞬納得しかけて、いやお前平気で廊下走るじゃん、授業超聞いてないじゃん、そもそも今すげぇさぼってるんじゃないですかと色んな疑問がごろごろ生まれ、ああもういいか雀くんだし。と全部を知らないふりをした。 今現在、俺が超平和、すげぇ平和だということが重要なのだ。 改めて平和な雀くんを見つめつつ、一瞬だけ聞こえたセリフを頭の中で考えてみた。(…こんな……群れれる訳ないだろう) 今考えたんだけど、すげぇ考えたんだけど。 雀くんって友達いないんじゃね。 ロンリーウルフな雀くんはいっつもいっつもみんなをめんどくさそうな顔をして一瞥する。時にはハッとバカバカしくいものを見たかのように笑って、一人で自己完結だ。(そうか)そう考えると、(雀くんて) (……寂しい奴なのかもしん)「ブボォ!」 ぼたぼたこぼれる鼻血を押さえながら、「お、おみゃ、いま、プールサイドじゃ、暴れねて」「今すごくむかつくこと考えなかった?」「エスニャーかへみぇえ!」「エスニャーってなに?」 ぼとぼとぼと。鼻をつまんでもつまんでも流れる血だまりはずるずるとプールサイドに広がっていき、真っ赤に侵食しつつあるそれは飛び散った水と混じり合い、自分でも恐ろしいほどに泣きたい光景へと変わっていく。「いやあああ赤ああああ」「すげええ赤ああああ」「ちょ、きもおおおおお!」 生徒たちの叫びを聞きつつ、もう俺忘れ物なんてしない。雀くんが平和なんて絶対に考えないと固く固く誓った。あ、貧血。 BACK TOP NEXT 2009.08.22 1000のお題【286 やりたい放題】 |