strike.muss.death



めざせ! いつでもどこでもレッツポジティブ。




ミーンミーンミーンミーンミーン。耳障りなはずのどこぞの虫さんヘイがんばってるぜ的な大合唱。うぜえんじゃシネ! と思わず中指を立ててやりたくなったのも数週間前。今ではまったり、さあさあセミさん思う存分合唱なさい、そして夏の時間を多く多く、ここへととどめるのです! とどこぞの聖人ぶりに敬語キャラへとシフトしてしまいそうになっている俺、

「……ああ……」

思わずぐっと拳に力を入れてしまう。「至福……!」 なんていうか、つまりはあれだ、



夏休み!


え、宿題? なにそれやってやんぜバリバリだぜ、とペンをくるんと躍らせながら、こんなに俺って幸せでいいのかな、なんて感じでときどき笹川へと電話しつつ遊びの予定を立てつつ、ウッホウッホとゴリラなみな笑い声が出てしまいそうだった。何がいいたいかというと、酔っている。そうだ幸せに酔っているのだよ!

天下一品のバランスの悪さを疲労して、ずどどどど! と階段からすっころげ、玄関先にてドアにぶつかっても超幸せ。
「今随分でかい音がしなかったか」

遊びの迎えにて、流石の笹川もきょとんとした表情をしたが、「タックルこそが俺の幸せを体言しているんだよ」「なるほどやはりお前はボク」「いや、それはいい」「!?」

(……雀くんにぶちのめされない日々って……こんなに……幸せなんだ……)

忘れていたよ、とかっかと照る太陽に向かって、親指、グゥ。「俺、この日のこと、わすれないー!!」「うむ、よくわからんが明日に向かって駆け抜けようではないか!」「それは嫌だ!(ニコ!)」「!?」



ああ、しあわせー!!
「ところで、飼育当番なのだが、あのウサギのジャンプ力、中々の素質があると見た。ところでお前はどう思う」

ふと漏れた、笹川のいたって真面目な質問に、俺は思わず目をきょっと見開き、そのあとパチパチ瞬きをして、答えたのだ。「…………飼育当番って、なに?」







夏休みでも、学校に来なければいけない制度を作るなんて、俺はどうかと思う。確かにかわいらしいウサちゃん(笹川はボクシングラビット育成計画を持ち上げていたが、それはさておき)を「ひもじいウサ……腹が減ったウサ……」 なんて状況にするのは、想像するだけで、キュッと胸がいたんだ。「ああ……!」 

とりあえずと家から持ってきたレタス、ニンジン、キャベツその他をスーパーの袋の中へとぶっこみ、春にはきっと満開だったろうに、今じゃあセミたちが繁茂する校門の木々達の間を、恐る恐る進んでいく。

ぽろり、と首筋にこぼれた汗は、心なしかちょっと冷たい。暑いのに。外はこんなに暑いのに。心に北風。
グラウンドを横切って、裏庭の、中心から僅かにずれた位置に、ちょこんと鎮座する、深緑色の小屋は、ここからでもうっすらと汚れているのがなんとなくわかる。というかきっとさびてるんだろうなぁ、ウサちゃんお元気ウサウサ? と職員室から借りたウサギ小屋のカギを手元でくるくる回し、足早に近づいた。

うんまあそうだよ、流石の雀くんだって、こんな暑っ苦しい夏休みに、学校にやってくる理由がない。もし俺をぶんなぐりたくって。とかいう理由でやってきているのなら、キングオブザ暇人の名誉を与えたいくらいだ。いやぁウサウサ可愛いなぁ!(てへ)なんて感じで座り込みながら、人さし指を金網越しにちょいちょいと出した。そのときだった。

がしゃあああん! とでっかい音が響き、俺の顔の、丁度横の部分にて、めり込んでいらっしゃるおみ足に、にこっ、と笑っていた顔が笑った顔のままひきつった。可哀そうにも真っ白なウサちゃんは、何事だウサ!? という感じで、小屋の端へ文字通りの脱兎にて、複数匹で顔をつっこみ、ぶるぶる震えている。……アッ、かわいそう……!

「……やぁ、久しぶり」

この頃とみに会話をしてくれる(ような気がする)彼の声は、相変わらず物騒だった。ここら一体に、冷気さえも漂うような錯覚に、「はは……ははは……」と俺は力なく乾いた笑い声を出す。がしゃん! がしゃん! がしゃん!「人と話すときは、きちんと目を見てと、君は教わらなかったのかい」
人と話すときに、最初に足を振り上げるなとお前は教わらんかったのか。

いろんな言葉を飲み込んで、「お久しぶりです雀くん……」と俺はふふっ、と笑いつつも振り返ると、見事に見下しスタイルにこちらを見た雀くんは、フンッ、と鼻で笑った。

「……え、っていうかなんて君ここにいるの」
「そろそろ殴りごたえのある物体が到着する頃かと思ってね」
「キングオブザ暇人!?」

うわあああガチやああああガチで暇人やこいつうううう! と逃げようにも踏みつぶしてやるぜベイベー的オーラを醸し出す少年の前では、なすすべもなく、もう殴れよさぁ殴れ! でも痛くしないでね! と開き直って胸を張り、目を瞑った。

しなしながら、いつもならブンッ、と振り下ろされる無慈悲なまでの拳も、今回ばかりはいつまでたっても変わらず、恐る恐る薄目を開けると、なぜだかウサギ小屋に興味を示しているらしい雀くんは、端っこで震えるウサギたちをじっと見つめていた。(……あれ、もしかして)


ふと、俺はその雀くんの瞳が、小動物を慈しんでいるかのように見えたのだ。何を映すことなく、無表情の彼の仮面を前にして、ふるえる動物たち。ふさふさ。真っ白。ときどき灰色。茶色とか。ふさふさ。ラヴリー。
……ああ、雀くん! 君も、何かを愛する心を持ってたんだね!

「ウサギ、かわいいよね!」
「この群れっぷり、ぶちのめしたくなるよね」
アレッ!?


冗談でもなんでもなく、無理やりに小屋のカギを壊そうとする雀くんに、え、ちょっと待ってうそマジ待って、この世にウサちゃんの可愛さを理解できない男なんているの嘘マジで!? とかなり本気で雀くんの足に、俺はしがみついた「うおらぁ!」 気分はこれだ。
「ウサギさんを殴るなら、俺を殴れ!」 俺の屍を、越えていけ!


ふと止まった、彼の足の運びに、俺はほんの少し、期待した。「雀くん」 しがみついたまま、見上げる。ふっ、と気のせいだろうか。彼は優しいような、ほんの少し目じりをゆるめたようなそんな表情で、

「じゃあ、遠慮なく」




うわああああこいつもう嫌だああああああ!!!!!
夏休み初っ端から、赤いものを散らしました。


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2010.01.09
1000のお題 【297 鬼より鬼畜】