魔王がレベルアップとかどんだけ限界点目指してんの。 あの日からというと、雀くんは変わった。どう変わったかというと、主に攻撃力がアップした。ぶんぶんぶん! とどっから調達したのか両手に装着されたトンファーが暴れまわりぶつかりまくり。ちょっと前までそろそろ雀くんなんか脅威にも何にも感じんぜよ! だったはずなのに、ちょ、勘弁してくださいまだ僕若い身空なんでェ!! と半泣き状態へとスキルダウン。 「ああ……」 ないわー。 ぶんっ! 目の前に踊る、黒い軌道を命からがら逃げながら、口元にはにやにやと意地の悪い笑みをたたえている雀くんに、思わず頭突きをくらわしてやりたくなったのだが、そんなことをしてかち割られるのは俺の脳天なので、すごすご逃げるが吉なのだ。 せんせー! たすけて! 心の中の台詞と一緒に、必死の形相にて、教卓の中へと体をひっこませた女性教師にヘルプを送った。教卓から僅かに覗いたその手のひらは、ゆっくりと何かを形作る。親指グッ! 「勘弁して!」 とっくの昔に見捨てられた女へと助けを求めるなど俺らしくもない。男、一匹でなんとかしてみせる……! なんて勢いづいた台詞はとっくの昔に枯れてしまった。「さぁさぁいい感じに逃げてよね」 なんて幸せそうな台詞を吐く雀くんに、ぽろっ、と涙がこぼれそうになる。ぶんぶんぶん! トンファーこわいヨ! だってそうだろう。転校早々友達ができず、ボコボコバコバコぼこられ見捨てられ、頼みの母親からは「弱気はだめヨ!」 なんてフォローにもなんにもならんエールを送られた。強気で物事解決できたら警察いらんわ!!! なんて主張も空しく、唯一つまぁよかったんじゃない? 多分。うん。と言えるのは、ボクシング好きの友人が一人できただけ(←しかもちょっと変) 武器装備にてレベルアップしまくった魔王様を目の前に、ほろほろ涙がこぼれてきた。「雀くん!」 力の限り叫んでみると、なんだい? というように、彼は俺を見下ろした。そうなのだ。彼は決して理不尽な魔王では……あるけど…………日本語が通じない宇宙人よりも距離は近い男なのだ。 「武器は装備しないと意味がなブベら」 「意味がわからない」 俺も思った。(いい台詞が思いつかなかったごめん) そして奥歯がふっとんだ。 比喩でもなんでもなくぶっとんだ奥歯は屋根の上へと放り投げて、ふっとベランダに手をかけながら、「これはないわー」 一人ごちる。 凹んだはずの口内には新たに生えはじめた永久歯。「……これは、ないわー」 俺丈夫すぎて。 すっぽ抜けた歯が新たに生えてくるとか俺どこのワニ。 なんて、なんかよくわからないとこで落ち込んでいると、気づいたら俺の背後にふっと影が落ちた。母さんか、と思いつつ振り向いてみると、母さんよりも、にゅっと縦に長いその男は、「父さん」 ヘイパーパ! 父さんはふっと(なぜだか)優しげな表情になり、ぽんっ、と俺の肩に手を置いた。大きな手のひらだ。これが大人の男なのか、と自分の小さな、比べてしまえば紅葉みたいな手のひらを見ると、父さんは、柔らかな表情のまま、ゆっくりと声を出した。 「……恋か?」 「なんでやねん」 「何息子とコイバナしようとしてるのなんなの乙女なの!?」 なんて台詞はぐいっと飲み込みそうだこの人こんな人だった、この頃仕事で忙しいもんだから、相手しないうちにすっかり忘れていましたと無視を決め込むと、相手にして欲しい年頃なのか、父親は心なしかもじもじしつつ、俺の背中にのの字を書きつつ(やめて)「、父さんはな、悩みがあったら言って欲しいんだ、クラスのどの子だ言ってみろ」 俺の悩みはコイバナ限定か。 「違う」と強く言葉を発してみると、「そうなのか?」と父さんはほんの少し残念そうな顔をして、「じゃあどうした」 「ちょっとケンカで負けてんだよ」 フン、とツンと鼻を上へと上げると、そうかそうか、と父さんは笑った。 「、いいかよく聞け、好きな子ほどいじめたくなるというじゃないか。なんだ相手は男か女か。男も女も関係ない! 大きなラブ、ラブを持って接するのだ!」 ラーブ! なんて目の前に両手でハートを作る中年オヤジを見詰めつつ、それどっかで聞いた台詞ですパーパ。なんてツッコミはなんかできなかった。あんたら似たもの夫婦だな。 ぶんぶんぶん。今日も今日とてトンファーを振り回す雀くんに対峙しながら、ふとコイバナ大すき親父の台詞を俺は思い出した。好きな子ほどいじめたくなるというじゃないか! 「す、雀くん!」 一閃。振り下ろされた軌道を滑り込むように逃げ、ぐいっと俺は教壇の上へと飛び乗った。その中に避難していたらしい、担任教師が「ひぃっ!」と短く悲鳴を上げたが特に気にせず、「なんだい?」 と首をかしげる雀くんをじっと見下ろす。 「も、もしかして、すずめくん」 「お、俺のこと……」 「友達になりたいとか思ってんじゃない!?」 ほら君友達いないし! なーんだぁ、やっぱりそうなのか! 前々から薄々気づいてはいたのだ。だから俺にちょっかいを掛けてくるんだな! それならそうと初めから言ってくれよ! 友達がいないもの同士、仲良くしようぜ! なんて意味を込めて、ぐいっと手のひらを彼へと突き出してみた。すると、じっと床を見詰めたまま、妙に静かだった彼は、ふとこちらへと視線を上げたのだ。真っ黒な中に、爛々と輝く彼の瞳は語っていた。 シ ニ ヤ ガ レ それから数週間、すずめくんからの攻撃レベルが一段と高かった。 なんでだろうか。 BACK TOP NEXT 2010.01.30 1000のお題 【157 戦いに散る】 |