口は災いのもとっていうじゃん、どう思うよ。 雀くんは俺を殴らなくなった。隣の席に座り、まじめに、至極真面目に授業を聞いている。ノートとかとってないけど。腕くんでふんぞりかえって黒板見てるけど。 けれども。 (……平和……?) だよねぇ、と自分の中で頷いて、それでもなんだかひっかかるような、きもちわるいような、自分でもよくわからない気持ちがごろごろと転がるのだけれど、とりあえず授業中にて隣の彼をのぞき見、話しかけようとして、いやいや、授業中にしゃべるなんて何事だいカミコロス、なんてセリフが出そうだなぁ、と思い、そこまで思考した後、「ねぇねぇ雀くん」 話しかけていた。 小声で、ねぇねぇ、と言った俺の言葉が聞こえなかったのか、ふんぞりポーズのまま、じっと黒板を見詰めている。ときどき先生のチョークがぼきりと折れているのは、ぷるぷる彼女の手が震えているからだということに今気付いた。「ねぇねぇ」 今度はもうちょっと大きめに。「ねぇねぇ」 我ながらちょっとうるさいぐらいに。 ぎしっ、と雀くんの椅子が、動いた。 反射的に、眼前に腕クロスを作り、下半身に力を入れる。 「…………(じろり)」 ただ一瞥だけくれた雀くんは、ただ面倒くさそうに黒板へと視線を戻して、椅子の背もたれへと、ぎしっ、と体重をかけた。(うおおおお?) どったの、きみ。 とりあえず、平和なんだけど。 なんだかなぁ。 なんだろう、この空回り感。つまりはあれだ、飽きたのかもしれない。まぁそれはそうだ。よくも半年以上にかけて、ボコボコバシバシメキメキやれたものだ。寧ろ言おう。よくぞいままで飽きなかった。寧ろよくめげなかった、俺。 ブラボー、と一人さみしく呟いた後、なんだいなんだい、使い捨てたらポイですか、そうしてお古は捨てて新しいのに走るのね、キー! なんてハンカチを噛んでしまいそうな感じだ。残念ながら、今日はハンカチを忘れたのでポケットティッシュしかない。噛まないけど。 「笹川ー」 なんて言って、普通に下校して。普通に友達と寄り道して。背後に気にすることなく、無駄にゴルゴ的な気分になることなく一日を終え グラウンドをまっすぐにつっきっていたとき、ぴたりと足をとめた俺に、笹川はどうしたのだ、と首をかしげた。うん、と俺は静かに頷きながら、なんとなく振り向いた校舎に張り付いた、大きな時計を見る。そして、またその上を見る。 うん、と頷いてううん、と唸って、うーん、と首をかしげる。「笹川先帰っといて」 そういうことで。 そうか、という妙に納得したような(多分そんなことないような)笹川の返事を聞いた後、くるりと背を向け、校舎へと向かった。ばたばた走った足元には、僅かに土煙が待って、小さな小石を無意識に蹴飛ばしていた。 がっちょん、がちょがちょ。ぎぎぎぎぎ。 さびついた音を響かせながら、何故だか壊れた鍵にぞっとして、扉を開けた。ぱっと開けた空と、その向こうのフェンスをみると、その下があるのだと考えれば、いくら頑丈な俺とて、ちょっと怖い。寧ろ俺は人よりバランス感覚が欠如したおっちょこちょいなのだから、近寄らないに越したことはない。 思わず目を細めて、そろそろと足を動かすと、目当ての人物はコンクリートの上へと片膝を立て、もう片方を伸ばし、そして雲がぽこぽこと浮かぶ空を見上げるという、カッコイイポーズをしていた。そしてゆっくりとこっちへ顔を動かし、やっぱり面倒くさそうな顔を、いいやよく見れば違うのかもしれないけれど、俺にはやっぱり分からなくて、いつもよりも、表情がぬけているな、と思った程度だった。 「立ち入り禁止だ、屋上は」 「鍵が壊れてたんだけど」 「僕が壊した」 「アグレッシブ!?」 予想はしてたけど!! いつもならぶっとんでくる拳は、いつまでたっても変わらず、そのまま雀くんは空を見上げて、黄昏はじめた。かっこいいからやめてほしい。なんか俺の存在が消えて泣きそう。 なんとなく俺は、その場に座り込んだ。コンクリートの上に、直接座りこんでみると、予想外にも冷え込んだ石は、俺のおケツを見事に冷やす。なのでまた立った。「忙しいヤツだ」 気のせいかもしんないけど。雀くんが、ククッ、と笑った気がした。その瞬間、何故だかちょっと嬉しいような気がしたのだけれども、おおお? と自分自身首をかしげて、「雀くんは暇人だもんなぁ」と嫌味を言ってやった。まぁ事実かも。 それでも雀くんは微妙に唇を上にあげるだけで、特になんの反応もなかった。拍子抜けにもほどがある。そうだ、さっきから俺、拍子抜けしてんだ。 「なぁ雀くん」 ゆっくりした動作で、雀くんは俺を見、首をかしげた「なんだい」「君どったの」 どうしたの。 パチリと一回瞬きをした雀くんは、「どうしたというか」うん、と彼は一拍置いて、「めんどくさくなった」 めんどくさく。 あ、俺、今雀くんと、結構まともに会話してるかもしれない。なんて頭の隅に思いながら、「おおー」と頷く。 「めんどくさくなりましたか」 「そう。馬鹿を相手にするのはね」 「前々から思ってたけれども、雀くん失礼だよね」 「君もそうだね、馬鹿の塊だと常々思うよ」 「常々も思ってたのはちょっと泣けるからやめて!」 うーん、と俺は雀くんと一緒に空を見上げた。寒い。俺がここへ転校してきたときとにおいが違う。冬のにおいだな、と思った。季節なんて、ころんと変わる。それだけ、雀くんと俺は微妙なる格闘を繰り広げてきたのだ。「そうか」 もっかい、頷く。 まぁ、面倒くさくなったのならしょうがない。俺も平和が戻ってきたなぁ、としごく平穏に、小学六年生の生活を終えようじゃないか、そうしよう。挨拶をすることもなく、立ちあがって、扉へと向かう。でもやっぱり、なんとも口にしないのは、駄目かなぁ、と俺の中の礼儀正しい誰かが口を出してきて、くるりと後ろを振り返った。雀くんは、やっぱり空を見ていた。そんで呟いた。 「群れてばかりなものを見るのは、あまり平穏な志にはなれないな。なるつもりもないけれども。そもそも、ここは、教室は、群れる場所だ」 よくわからないけれど。ムレルって、群れる? 「人がいっぱいいるのがヤなの」 返事はないけれど。「じゃあ、なんで学校来てんの?」 雀くんは、その瞬間、「あっ」という顔をした。目を見開いて、そうか、とでもいうように、ゆっくりと瞬きを一回。 俺が、なんとなく呟いた言葉で、なんかピンとくるものがあったみたいに。 なるほど、とでもいうように彼は一回首を動かした。 雀くんは、その日から卒業式までの約数ヶ月、学校にこなくなった。 BACK TOP NEXT 2010/05/12 1000のお題【440 口は災いの元】 |