大変だ、赤ちゃんが歩いていた。



 第3話  私とリボーンさんのマフィア事情



真っ黒い服にたらりと首から垂らしたおしゃぶり。ついでにいうと、またまた真っ黒な帽子のコンパクトサイズは、まごうことなき、(………赤ちゃん、だよね)

そんな風に、道ばたを何の躊躇もなしにトコトコと歩く赤ちゃんに、え、これっていいのかな、お母さんとかいないのかな、大丈夫かな、うわわわわ! と手を顔の前あたりでぎゅ、と思わず結んでしまう。どうしよう声掛けた方がいいのかな!?

「ちゃおっス」
「ちゃ、ちゃお…?」

じ、と見つめる私を不審がったのか何なのか。その年の割にははっきりとしたしゃべり方で(す、凄い…)、私の横へとスタタタッと移動する。ご、ごめんなさい怪しい者じゃありませんよ…っ!

「お前、沢田って家知ってるか」

かちゃり。と音がして、左のこめかみに、何かが当たる。足下に赤ちゃんはいない。
は、と思わず息を吐いた。安心して? 違う。

「知ってるか」

二度目の言葉とともに、冷たい何かがグリリ、と押しつけられる。ゆっくりと視線を移動させると、どこかのお家のブロック塀に、ちょこん、と座って、さっきと変わらない表情のままに、黒くて、大きな穴が開いたソレを私に押しつけているのだ。

ソレを見たのは初めてだった。けれども、心の底からあふれ出るような感覚に、息ができない。ああ、これは、と。
父さんが昔いっていた『マフィアってのはな、勘が優れてないと生き残れねぇのよ。自分がやばいって思ったとき、ピン、と来て、危険を回避できるヤツじゃねぇと』って言葉を思い出す。

ああ残念ながらお父さん。私は今その感覚を、実感しています。
けれどももっと残念な事に、危ないと分かる前にはピンとせず、危ない今の状況で、初めてピンと来てしまいました(せめて分からなかったら、こんな気持ちにもならないだろうに)(赤ん坊だからって、油断してた)(……私だって、キャバッローネの一員なのに)

「三度目だ」とその赤ん坊が言うとして、さん、というところまでいった時に、私は急いで「知りません!」と叫んだ。実際にそんな名前なんて知らなかったし、もし次の質問も無言で通してしまったら、パンッ! とされてしまっても不思議はない。

「あ、あなたは!」

叫んだ。
心の底にこびりついた、どうしようもないプライドが、ボロボロ剥がれてしまいそうになって、叫んだ。けれども、次のセリフの、「誰なんだ」と続ける前に、カチリ、と彼の指が、ソレへと向かう。喉から溢れていまいそうな悲鳴を飲み込んで、けれども情けなく、小刻みに震える体に叱咤して(人間というものは、叫ぶ事によって恐怖心を和らげると聞いた事がある)(けど、今、叫んじゃ、ダメなんだ)

「お前、どこの所属だ」

小さく聞こえた言葉に、ぎゅ、と舌をかんだ。誰が、誰が絶対いうもん、か。

「人から訊く前に、自分からいうもんじゃ、ないんです、か」
(うう、声が裏返って、な、情けない!)

ふん、と彼は鼻で笑った。その笑いにイラリ、と来る前に、左のこめかみに感じていた重圧がなくなる。…あれ、軽くなった。
片手を帽子において、すとんっ、となめらかな動作で、彼はアスファルトの地面にたった。その後で、その低い目線から、じ、と私を見つめて「そうだな、それがジャッポーネのルールだったか」
あれ、意外と物わかりがいい。

「俺はボンゴレのリボーン」

にやり、と彼、いやリボーンが、口の端っこをあげた。まったく変わらない表情の中で、そこだけがぐにゃりと変わる(何だかとっても印象的だ)

お前は、と訊かれて。けれどもその言葉を頭で飲み込む前に、他の言葉を、私は飲み込んでしまったのだ。
『ボンゴレ』の『リボーン』

ボンゴレって、キャバッローネと協定結んでなかったっけ。
けれどもそれ以上に、あれ、リボーン、って、ボスの、家庭、きょ、う、……し?

(あ、なんかもうだめ)

ぐらり、と遠くなる意識の中で、ちいさな陰の声が聞こえた。

「合格だ、。キャバッローネに飽きたら、俺のトコへ来な。ファミリーに入れてやるぜ」
絶対行きません。私は、ボスに忠誠を誓ったんですから。
「そうか残念だ」







ぱちり、と目を覚ましたら、なぜだか家の中に居た。ソファアに投げ出された体をむくりと起こして、何でだろう、と寝ぼけている間に、自分のリボーンさんに対する数々の無礼が、頭の中を新幹線ぐらいのスピードで、走り抜ける。

「わわわわわ私ってば、伝説のアルコバレーノに、な、なんて事を…っ!」
ひゃああああ!

ああもう泣きたいでもいきなり銃なんて酷い!
ううう、と頭を抱えているとき、一枚の紙が、目についた。

随分達筆な日本語で書かれた、一枚の紙。
『このチラシを沢田家のポストの中に入れておけ』

「一から伸ばす、住み込み家庭教師……?」

なにやら一緒にあった、カラフルなチラシの中に手を伸ばして、何でだろうと考えつつ、取りあえず住所が書かれていたので、ポストの投函しておきました。




(今度、リボーンさんに会ったら、土下座の勢いで謝らなきゃ…!)



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2007.08.05