| 「お、。今から保健室かよ」 ぽすん、と叩かれた背中に、げふりと息が出てしまった。何度か繰り返す咳に、山本くんは「おーわりーわりー」……なんで毎回そんな軽いの。軽いテンションなの! ふん! そうですよ。今から保健当番ですよ! という意味を軽く込めて、山本くんをムシして校舎へとたったった、と向かう。 「おーい、、どーしたんだよ」 だから名前で呼ばないでください、話しかけないでくださいって、何回いえば分かってくれるのかしらねこの人は! ああああもう! 見てくださいよ山本くん後方右! 女の子二人が、何アイツ。って目で私の事見てるんです。 はい次は前方左! 女の子四人組が、アイツうぜーって目で、私の事見てるんです。お願いです無言の訴えを気づいてください!(さすがに、今彼女たちの事を、あなたに伝える勇気はありません) じー、と山本くんを見つめて、(つたわれー)(つたわれー)(お願いだからつたわれー)とテレパシーを送ってみた。 じ、と合わさる彼の瞳の奥で、キラリと何かが光ったような気がする。それを見て、思わず私はビクリと肩を震わせてしまった。「……分かった」小さく聞こえる彼の声。え、分かったんですか。そうですそうなんです。「、お前そんなに俺と一緒にいたいのか。ん、どうせ俺お前待つつもりだったし、一緒に帰ろうな」 …………もういやですこの人。 激しく爽やかな、思わずこっちまでニコリとしたいような笑みを、彼は浮かべると、私の手をすいっ、と取った。その途端に、思いっきりきつくなる周囲の視線に、グサグサグサッ! あ、もうやだ、コイツ分かってんの、分かってないんですよね、分かってないんだよね! (ううう、あと一歩近づいたら、かみついてやる!)と思って、じろりと睨んだ途端、すいすいすいっと山本くんが近づいた。(ひい! かみついちゃうのに! 危ないよ!)……あれ何いってんだ私 ぼそっ、と肩越しに聞こえた声が、確かに「悪いな」といっていた。……あれなに、分かってんの、分かってないのこの人、どっち!? と彼を見たら、「ん?」といいながら、首を傾げていた。…だからどっちなのこの人! 「う、う、うあ、」 「どうした?」 「こ、この、ばかやろーーーーー!!!!!」 死ぬ気で振り切って逃げてました。 はぁはぁはぁ、と荒い息を整えて、下足箱前にてぺたん、と座り込んでしまった。な、何考えてるんだあの天然坊主は! いや別に山本くん野球部のくせに坊主じゃないけどさ! まぁとにかく泣きたくなるような気持ちを胸に、ってほどではないけど、しゅんとへたり込んでしまった。(うううう) 「ねぇ」 小さく体育座りをしていた私の背中に、男の人の声が聞こえた。「ふえ」、なんて間抜けな声を出して顔を上げたら、ほんの少し不機嫌顔の(あれ、いつもこんな顔?)雲雀先輩だった。雲雀先輩といえば、時々保健室に来る常連さんの一人だ。……なんで毎回この人こんな怪我してるんだ、何してるんだとツッコミを入れたい。そういえば、一番はじめに先輩に会ったときも、怪我をしてたような気がする。 「ねぇ、そんなトコで座ってちゃ、邪魔だよ」 「へ、あ、…す、すみません」 私がいろんな事を考えてた間に、先輩がコッチをじろっと見ていった。た、確かに、こんな公共の場でへたり込むなんて、恥ずかしいかもしれない。ってうか、恥ずかしい! うあああああ、と悶えそうになって、「あ!」と気が付いた。「そうだ私、保健室に行かなきゃ!」…山本くんの所為で後手に回っちゃってたよ! ちらりと隣にたたずむ先輩を見て、「先輩も保健室ですか?」と訊いたら、何だか複雑そうな顔をした。嬉しそうな、恥ずかしそうな、怒ってる、……ような? 「………小動物」 「へ、あ、はい!(なんでこの人、私の事小動物っていうんだろう)」 「さっきの、」 「はい」 「さっきの、おとこ」 「へ?」 「……………何でもない!」 え、なんですか、さっきの男? 山本くんですが。それが何かしましたか。んん? と首を傾げていると、眉毛と眉毛の間にぐぐぐっと皺が寄った先輩の顔は、ぐるりと私と反対方向を向いて、私の腕をぱしっと掴んでいた。「ほら行くよ小動物!」「へ、あの、」「君は保健委員だろうサボるなんて僕が許さないよ」「あの、別にサボるとか、その」「行くよ!」 ぐいぐい先輩に引っ張られながら、え、あの、何なんですか、と訊きたい気分でいっぱいになるのは、決して、私だけでは、ない……はず? 「小動物、ほらさっさと行くよ!」 「は、はい!」 「………、さん、ほらさっさと!」 「はい!(あれ、今この人私の名前呼んだ?)(まぁいっか!)」 BACK TOP NEXT 2007.08.17 |