お兄さんに右腕をつかまれて。
…………ど、どうしよーっ!



 第5話  私と見知らぬ少年のカツアゲ事情 3



「あ、あの、話し合いで、か、解決とか」
震える声に叱咤して、ちろりと彼らを見つめてみると、三人合わせて「「「ああ!?」」」」
ヒイイイ! ちょ、どこのアメフト部の兄弟だよ! とか思いつつ、「あ、やっぱダメですよねー!?」………ううう、ちょびっと裏返った声が、なさけない。
掴まれた右腕と反対の手に持つスーパーの袋が、ギシギシ手の間接に食い込んだ。

「まぁ安心しなよ、俺達だって鬼じゃねぇし、カモには逃げられたけど、嬢ちゃんまで金はとらねぇよ」
「あ、そうしてもらえるととっても助かります(これ山本家のお財布なんで)」

ほー、と心底よかった! と胸をなで下ろすと、三人の視線がちろちろと私の胸もとあたりに………「でかいな」「上物だ」「アタリだな」………あ、すっごいヤな予感がするっ!

掴まれた右腕が引っ張られるようにして彼らに連れられる。やめてください! と抵抗しようとして力一杯踏ん張っても、ずるずるずる。あ、あれれ! 「お前、さっきのガキと同じ事すんのな」「ふんぬー!(だれださっきのガキって!)」

無抵抗に私の顔もと近くにぐい、と顔を寄せたお兄さんの一人(黒髪片耳ピアスの人!)に、思わず左腕にもつ買い物袋をぶつけてやろうか。と考えたけど、あいにくながら今日の購入物の中に入る卵を思い出してしまった。われてぐちゃぐちゃに飛び散る黄色と白色。あああ、もったいない!(だから、だめ)
ごくりと唾を飲み込むと、クックと片耳ピアスの人は忍び笑い。なんですか。小さくかけた声に、「いや何でも」………なんか、ムカツク、と思ったときだった。


「ああお前、可愛らしい顔をしててよかったな」

ぐいっと私のあごを掴んで、マジマジと見つめられた。じゃなきゃ俺ら、相手してやってないよ。とニヤニヤいやみったらしく、そのままぐいっと顎を、持ち上げて    (ちょ、ちょっとこれって)
ぞわりと。体中の毛が、ぞわりと逆立つような感覚が駆けめぐる(ちょ、ちょっと待ってくださいよ)
あと、一センチ、なんてところまでいって、多分。私の中で、ぷっつん、と何かが、キレた。


すっと買い物袋の中から、茶色くて、長細くて、ごわごわしたものを取り出す。そのまま、まるで右ねじの法則をするときのようにそれを持って、ずごっ、と片耳ピアスの人の横っ腹にたたき込んだ。「…げほっ!」 たるんだ腹筋にたたき込まれたせいか、その人はずるずると目を開けたまんま地面に座り込む。
残りの二人がきょとんとした目でそれを見ていた。「………いいかげんに、してください」口に出した声は、意外と低い。

取りあえず片耳ピアスに人のお腹に踏みあげるように食らわせて、そのままの勢いでロン毛の人の方へとソレを押しつけるように、垂直へかかげた。
がっこん! 直接私の拳が彼の顎へと当たる形になって、「あれ」とマヌケな声をあげたまま、ゆるゆるとお腹をむけて、道ばたにドッターン!

ソレをみて、ようやく茶髪の人は意識を取り戻したらしく(さっきまで目が点だったもの)、ふるふると人差し指をこっちへと向けて、ピクピクと口元を引きつらせながら    叫んだ。


「ちょ、それゴボウじゃねぇか!」


あらなぁに、いいたい事はそれだけですか。とひゅんっとしなるように、彼へと“ゴボウ”を向けて        うわああああああああ!!!!!!
叫び声が聞こえた。え、と一瞬思考が停止した頭をふると、その声は徐徐に大きく、大きくなる      うわあああああああ!!!!
砂埃の巻辰ような勢いに、一瞬目を閉じた。次に、パチン、と開けたとき、茶色くて、ツンツンとしていて、ちょっと小さめな、さっき逃がしたはずの男の子が、ボロボロと情けなく涙をながしながら。

たらり、と汗が流れた。もちろん私も、お兄さんも。すうっと、大量に息を吸いながら、彼は走る。走る。走る。「これでも、くらえーーーーー!!!!」

彼の手が、茶髪の不良のズボンへと伸びて    え、そういう趣味    じゃなくて、「えええええーーーーい!!」ずるりっ!


見事だった。ひっぱられたズボンのバランスに、ぎょ、と目を大きくあけたお兄さんを、渾身の力でひっぱる。後ろに、ひっぱるもんだから、次に私が見たものは、ずるり、とお兄さん滑って、おでこを地面にくっつけて、見事なピンク色のパンツを、私は見て、しまった(は、派手、ですね)

「だ、だいじょうぶ、ですか!」

ぼとぼとっと未だに涙を流して八の字眉毛のまま、ずいっと彼は私へと顔を向ける。「………だいじょうぶ、です」あんまりにも必死の形相で、思わず笑ってしまいそうになったけど、それは失礼、とぶるぶると首をふる。………一瞬、返事が送れちゃったのは、否定しないけど。
私の言葉を聞いて、彼はまたボロボロボロっと地面に何滴も何滴も滴を、ただ無言で形作る(え、え、ちょっと待ってくださいどうしたの!)

「………あの、」
「う、うあああ」
「……えっと、その」
「う、うううあ」

ポリポリ。頬を軽くひっかいて、す、と彼のツンツンした頭へと、手を、伸ばして、

「ありがとう、ございます、ね」

それだけいうと、また、ぼとぼとぼと、と地面に丸い円が落ちた。







「あれ、今日なんか、ゴボウ多くね?」

トントントン、と包丁を叩いているところに、ずしりと背中に重しが乗っかる。………お、重い、です。「離れてください」と軽くいうと、「だっての背中、居心地いーんだもん」「た、体格差を考えてください…っ」
ぎゅ、と腰に回された腕を、ぺちりと叩いて、またトントントンと包丁を叩く

「で、今日ゴボウ」
「山本くん、(ゴボウ)キライですか?」
「え、いや俺()すきだけど」
「じゃあ問題ないですね(ゴボウ)すきなんでしょう」
「マジで? 問題ないのこれ」

ぎゅーっと、背中から密着するように抱きしめられて、ふーっと耳に、息が掛けられて、「問題、ないんだろ?」「……………ひっ、やあああああああ!!!!!!」


バチコーンッ


今日も、山本家の食卓に音が響く。
(……とりあえず、このゴボウはさっさと使おう………)



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2007.10.11