| 手のひらに、つーと、紙がはしる。 一瞬暖かくなった部分に「あ」となりで京子が真っ青な顔をして、 「は、ハナー!」と叫んでいるのが聞こえた。 「………別に、これくらい大したことないのに」 本を読もうとしたら、人差し指に紙がこすれた。それだけ。ちゅっ、と軽く指をすうと、真っ赤な線はみるみる消えるのに、京子は「保健室に行こう!」自分も一緒に! といおうとするのを、やっとの事でとめて、私、黒川花はトコトコと保健室までの道のりを歩いている。 授業も終わって、すっかり放課後となったグラウンドからは、運動部の無駄に元気な叫び声が聞こえて、ウザイ。ああ、静かにしてくんないかしら、とか思いながら、人差し指を、またぺろりと舐めた。………もう傷口なんて、見えやしないのに(でも、京子はうるさいだろうし) もうぶっちゃけ、目の前に見える、保健室、という文字に、ふー、とため息一つで、ガラリと扉を開けた。 「………あ」 開けた瞬間、ほんの少し茶色が混じった黒髪を見た瞬間、閉めてやろうかと思った。 真っ白な部屋の中で、丸い小さなイスに、彼女はちょこん、と座って、(私がさっきウザイと思った)グラウンドを見つめていた。しっぽ髪のようにくくっている長い髪を、ゆらゆらとゆらして、クスリと笑う少女。(、)確かとなりのクラスだった気がする。遠目からも整って見えるキレイなお顔に、イラっとして、「ちょっと」 随分、意地悪な声が出た。そういった瞬間、ビクリと肩を動かしたは、「あ」とこれまたキレイな声をあげて私を見る。さらっと揺れる髪の毛が、きっと何の手入れもしてないんだろうな、私と違って。と考えたら、またイラっとしてきた「お客、またせないでくれない」 また、意地悪な声が出た。 。隣のクラス。保健委員。女子の間じゃ、『男好き』なんて不名誉なあだ名を貰う、典型的な噂のタネ。なんでもうちのクラスの山本だとかが第一被害者らしい(別に、私はどうでもいいけど) なんでも。お高くとまっているだとか、性格がよろしくないだとか、無口で、人をバカにしているように見えるだとか。 私自身、と話した事なんてないし、姿を見た事は数回だ(じゃあ何で覚えているのかっていうと、まぁ、キレイな外見をしてたからね)けれども、噂なんて流される方にも、何かの非があるに違いない。取りあえず、警戒する事に損はない。 私が、鼻でふんっ、と笑うように声を掛けると、は、どこか情けなさそうな顔をして、「ど、どうぞ!」さっと指さされた椅子に、ああ座れって事なのか。と思いながら、あれ、、怒らないんだ。憤慨とかしないんだ。と意外とビックリした。(私の中の像は、鼻で笑った私に、文句があるなら出て行きなさい。とピシャリと言い放つ感じなんだけど) よいしょ、と椅子に腰を下ろした。 「ど、どうしたんですか」 「見てわかんないの。怪我したの」 「へ? ど、どこを」 「指」 いった後に、後悔した。指って、さっき私、傷口なんて、もう見えないって、自分でいったばかりじゃない。はっとして、手をぎゅっと握ろうと思ったのに、意外と動きの素早かったは、私の手のひらを、ぎゅ、と握って(しかも意外と力持ち?)じーっと見つめる。………頭の中で、またハッ! と鼻で笑う像が。 (………バカにされるなんて、屈辱)耐えきれない。そう思って、椅子から立ち上がろうとした。っていうか立ち上がった。けれどもそれでも手を放さないは、ぼそり「………切れてる」…………まぁね。 本か何かで? と首を傾げるに(そんなのも可愛い。イラッ) そうよ! とそっぽを向いて答えた。「女の子だもの。傷残っちゃったら駄目だしね、一応消毒しとこう」ね? だから座ろう。きゅ、と小さく握られた手を、放す事が出来ないで、私といったら口をへの字にして、渋々、どすん(勢いよく座ったってだけで、私の体重が重い効果音って訳じゃないんだから!) にこっと、が、笑った。あ、かわいい(だから、イラッ) 透明のケースの中から、脱脂綿に、何かの液体をしみこませて(私の像だと、その液体は未知の液体で、何かの毒物かなんかじゃ・以下略)私の指先に、ちょんちょん、とつける。ひんやりとした感覚は、ちょっと気持ちよかった。 「絆創膏は、はらないでおきますね」「……別に、これくらいで」「これくらいなんてないんですから」…、ね? 可愛らしく、また首を、こてん。 ことごとくがらがらと崩れていく像。なに、アンタ『男好き』じゃなかったの。っていうか 「アンタって性格悪いの」 「…っへ?」 あ、なんか本音が出た。 といったら、ぽかーん、と口を開けて、マヌケな声。…な、はずなのに、この子がいうと、すっごく可愛く聞こえるのはなんでだろう(もちろん、私の親友の京子も可愛いけど) 「せーかく? へ、あのごめんなさい」「別に謝れなんていってないけど」「え、えと、ごめんなさい…うあっ」「………もういい」 ガラガラガラ。崩れていく。砂の山。波でざっぱーん! 跡形もなく! きょろきょろ、視線をどっかに移動させて、私と目が合うと、ビクッとどっかの小動物のように小刻みに震える。……なに、「なんでアンタ、私と目合わせないわけ」「う、」「うじゃないし」 は、手に持つ脱脂綿を、ぎゅ、と握りしめて、私より小さなからだを、もっとちぢこませて、ちらり、と上目遣い(うわかわいい)「あ、あのですね、おこりません?」「………たぶん」 ちらっと、右を見て、左を見て、もう一回、最後に私を見て、 「お、女の子と、話すの、ひさしぶりですんで、き、緊張して、」 なにそれ自分がモテてモテて困っちゃうって自慢ですか。男としか話さないんですか。 私の無言の睨みが伝わったらしく、またびくびくとさせて、「ち、ちがうの!」いや、何が。 「は、話しかけてくれる子、久しぶりなんです!」 「はー?」 「こう、なんか、いやみたいで」 (あ、なんか、ピーンときた) 「アンタ、山本と仲いいの」 「へっ、仲がいいっていうか、幼馴染みっていうか」 「風紀委員の雲雀ともいいって聞いたけど」 「ひ、ひばりせんぱいは、委員会でよくしてくれる人で、」 「っていうかアンタ男好きってマジで?」 「ひえっおおおおおおおとこず、」 「あ、もういい」 (顔のいい男と、知り合い)(本人自体、可愛いし、なんか狙ってるっぽいかわいさだし。イラッ) (そりゃ、妙な噂も流されるわ) 空気中で、ぴっぴっと指をはらうと、やっぱりまだひんやりとした感覚が、変な感じだった。っていうかなんだこの子。真っ赤になった顔を、両手ではさんで、ふるふるとしている(イラッ)狙いすぎでしょ、色々と。 「もういい。帰る」 っていうか京子が待ってる。 よいしょ、と立ち上がって(あ、おばさんくさい)でっかいため息が出たら、が、「あ、待ってください、黒川さん」 え、とビックリした。なんで私の名前知ってんのよ、と目をひんむくと、あっ、と口元に手をよせたは、「あ、ごめんなさい。あのですね、大人っぽくて、綺麗な子だなって前々から思ってて、その、いつも一緒にいる、笹川さん、かわいいなって、」 ぽっと、頬を赤らめながら答える姿に、殺し文句だ、と思った。うん、殺し文句。無意味に可愛いし(イライラッ)私の思考と反対に、「保健室、使用許可、書かなきゃ駄目なんです」ボード版を、すいっと出して、一緒に出されたキャップつきボールペンに、なるほどコレに名前を書けって? お願いします、と無駄に丁寧な言葉に、いいわよ。とソレを受け取る。 放課後。っとかかれた所を、くるっと丸で囲む。名前、黒川花。クラス、一年 その子は、またグラウンドを見ていて、また、小さく、くすっと笑う。何を、見ているんだろう、と私はあんまり目がよくないけど、見てみる。あの白いユニフォームは、野球部だ。オーライ。かけ声と一緒に手を挙げる、男。ちょんっと短めの髪に、ぽすんとかぶった、帽子(……うちのクラスの、山本)じっと見つめる彼女の目を見て、山本を見て、(………幼馴染み、ねぇ)(そういや、さっきもグラウンド見てたわね) 「、さん」 「え、あ、はい!」 「書いたわよ」 「あ、ありがとうございます!」 ちらり、と書き損じがないか、目で追って、「オッケーです!」ぐっ、と親指を突き出した(うっわかわいい)(イラー) 帰っていい? 訊くと、どうぞ! と大きな声が聞こえた。はじめよりも、ずっと大きく声を出しているその子(緊張とか、なくなったのかしら) 扉に、手をかけて、カラカラとほんの少し扉を開けて、チラリと振り向いた。きょとん、とした、、。「ねぇ、」一ついっておくわ。 「さん、あんた、ムカツクぐらいかわいいわ」 あと、敬語いらないから BACK TOP NEXT 雲雀さんが利用許可書を書いてないのは、どうせ提出先が風紀委員だから。 2007.12.09 |