「随分、騒がしいね」



 第7話  私と雲雀先輩の持田先輩事情



ぼそり、と雲雀先輩が、保健室のくるくる回る椅子の上に座りながら呟いた。「そうですねぇ」と私は頷いて、なんで先輩がこんなトコにいるんだろう、と本気で考えてみる。ううん、たしか、風紀委員の定期的な健康チェックは保健委員であるキミの仕事じゃない? とかいっていた気がする。けれども先輩以外が来た事なんてないし、基本的に自分の生活リズムを崩さないようしている(らしい)先輩は、比較的健康だ(けれどもこの頃、疲れが見える、気がする)

くるん、と先輩はもう一回椅子を回って、「騒がしいな」
もういっかい、私も、「そうですねぇ」

珍しく、イライラと床をカンカンカン、と靴のつま先で叩いた先輩を見て、そういえばこの人は、人が群れているのを嫌う、という話をきいた事がある、気がする。
耳を澄ませば、「わー!」とか、「きゃー!」とか聞こえてくる武道場で、いったい何をしているんだろう。剣道部の試合でもしてるのかな?

念のため、と救急箱の中身を確認していると、カチャ、と鉄がこすれるような音が聞こえた。なんだろう。ふっと顔を上げると、いつの間にか、長い棒を持った先輩が、窓枠へと、足をひっかけて     「ひ、ひばりせんぱいっ」なにをしてるんですか!


先輩は、とっても長い足を、開いた窓にかけて、棒(と、トンファー、かな)を両手にはめて、くるん、と回した。

「何って、咬み殺しに」
「か、かみころ……っ」

雲雀先輩は、風紀委員長で、群れるのを嫌ってて、とっても強い。そんな話を聞いたのは誰からだったっけ(草壁さんかな、私そんな話す人、いないし)(ハナさん、だったかも!)
あわわわ、そんな事悠長に考えている場合じゃない、今にも飛び出しそうな雲雀先輩に、くるくるくる、と私の思考は大回転!
飛び出した足下と、「えいっ」とかけ声。「ちょ、ちょっと!」先輩の声が聞こえたけれど、もう無視だ。

ぐるん、と先輩の腰にひっついて、放してなるものか! と力一杯抱きしめた。先輩が「ちょっと小動物、何考えてるの!」とどこか焦ったような声が聞こえたけど(気のせいかな)再び無視だ!

「わ、わたしの目が黒いうちは、けが人を出させません……っ」
「僕は群れている奴らが嫌いなんだよ…っ」
「だめですだめですぜーったい、だめですー!!」
「はなせよ、小動物!」
「は、はなしま、せん、うううー!」

力いっぱい、力いっぱい、抱きしめて、先輩が、小さな声で、「あ、あたるだろ…っ」な、なにがですか、と聞こうとした瞬間に、ふわっと力がぬけた。違うかな、先輩が、見かけによらず力持ちだったせいで、ずっと力を入れ続けていた私は、すっぽぬけた。思わず、後ろへと重心が移動する。面白い具合に反り返った私の頭は、ゆっくりと保健室の、真っ白い天井を見上げていた。…………あれ、案外汚れてるな(あんなトコ掃除できないもんね)


     、さん!」

聞こえた声に、ふ、と視線を先輩に向けようとした瞬間に、ぐいっと、ひっぱられ。
お約束の如く、先輩の胸の中に、ぼすん「あれ」「まったく、キミは…っ」
優しく背中に回された手と、すっぽりつつまれて、見えない視界に、思った。「先輩、意外と、胸かたい」………あ、口からも出ちゃった。


ばしっと、叩かれた。違うかな、正確にいうと、両手で、突き飛ばされた。せっかく頭から地面にごっちんこ、という状況を打破出来たのに(先輩のおかげだけど)、代わりにおしりを、どすん。

「き、キミは、な、なにを、!」
「先輩、あかい、です?」
「うるさい!」


くるん、とーん、したっ!

とっても綺麗に、10点をあげたくなるような素敵な身のこなしで、保健室の窓から(っていっても一階だから安全)飛び降りてそのまま先輩は駆け抜けていった。
あまりの事で、情報処理が追いつかない私は、ぽかん、とおしりを地面についたまま、見つめる。「    あ! か、咬み殺しの、阻止!」
…………ううん、武道場とは、反対の方向に向かっていったから、オッケーなのかな。


静かに座る地面は冷たくて、気づくと生徒達の歓声も、聞こえない。試合が、終わったのだろうか。それとも、はじめから試合でもなんでもなかったのかもしれない。

「下校、時間か…」

戸締まりして、帰ろうかな、と腰を立った、その瞬間、



「ほ、ほ、保健委員ー!! きゅ、急患だー!」
「ふえっ、は、はいい!」

二人ぐらいの男の人が、大きな男の人を運んでいる。剣道着を着たその人は、やっぱり、念のため、救急箱を用意しといてよかった!


「ひえっ、気絶しているんですか、あわわ、あんまり頭を動かさないようにって、あ、あたまー!!!」


あんまりにも、キラリと光っていたもので、私も一緒に気を失いそうになりました。




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全然、持田先輩事情じゃないという。

2007.12.20