力一杯、振った。



 第8話  私と山本くんのご飯事情 2



チ! と軽くするような音に、見当違いの方向へ飛んでいくボール。白い帽子を目元までかぶった先輩が、「おいおい山本、この頃調子わりぃなぁ」と苦笑いをしているのが見える。
「そうなんスよ、どうしたんでしょーかねー」 にかっと笑った口元と、頭の中が違いすぎて、ああもう、

(ぐちゃぐちゃに、なっちまいそうだ)


ガバリ、と布団から飛び起きた。「夢か」 いや違う、これは昨日の事だ。真っ暗な部屋の中で、時計に手を伸ばす。ほんの少し光った数字は、5時と指していた。

あの後先輩は、「山本、どうしたんでしょーかねーじゃねぇって。このままじゃスタメン落ちだぜ」 まさかそんな事ねぇだろう、とでもいいたげな口調に、くいっと肩まで手を挙げた。俺も、そうっスよねぇ、とにかっと、笑って、(ああ、そうなるかもしんねぇな)とこっそり思ったのだ。


まだ外は暗い。微かに開いたカーテンから、ほんの少し見える空は、くすんでいる。「ふあっ」としたあくびを一つに服を脱いで制服に着替えた。
(今日も、朝練がある)もう少しのんびりとしていても、全然問題ねぇけど、目が覚めちまったもんはしょうがねぇ。
適当に突っ込んだ朝飯と、親父に声をかけて、鞄を引きずった。(行きたくねぇな) こんな事、多分初めてだ。

靴を履いた。ドアを開けた。鞄を、肩にかけた。
(行きたくねぇ、な)

ほんの少し、白んできた空を見て、はっと、短く息をつく。進ませる足が、ほんの少しのスピードを保って、アスファルトの道を歩く。(ああ、) 唇を、咬んだ。



「山本、くん?」


微かな、声が耳に響いた。半分瞳を瞑るようにして道を進んでいた俺は、ぱっと目を開けた。ぼんやりとした輪郭の中で、小さな影を作るそれは、「」いつものように、ほんの少しきょときょとと瞳を左右に動かせる姿は、なんかの小動物みたいだ、とこっそり思った。「なんだよ。俺に用事でもあんのか?」 そんな訳ねぇな、と分かってはいる(寧ろは、俺を避けている)(それでも、俺は)

いつもの顔を作れているのか俺は、と自分に問いかけて、ああきっと大丈夫だ、と足を進めた。ゆっくりとに手を伸ばして、さらりと指の間から流れる、俺と比べて、とても綺麗で、細い髪の毛を、触って。
ぽ、とほんの少し、ピンク色に染まった頬を見て、(ああ、可愛いなコイツ)と思った。どうせこの後、「やややややめてください!」と無駄にどもった台詞の後で、俺をはじき飛ばすんだろうけど。

「やややややめてください!」

想像と、一言一句も間違わないで、細い、の両手が、俺の胸を押した。どんっ。の背中へと回されている鞄が、からん、と大きな音を立てる。
別にそんなので弾き飛ぶ程、やわには出来ていないけれど、「しょうなねぇな」と一つ苦笑いをして、「じゃあな、

(行きたく、ねぇけど)
頭の中で流れる台詞を一つ無視して、足を進める「うあ、ま、待ってください!」 そんで、いつもみたいに、ほんの少しどもった台詞で、背中の鞄を、ぐいっ

後ろへとかかった重力に、ピンクの頬を、またピンクにしたを見た。「こ、これ!」 の鞄の中から、取り出された、可愛らしい柄の包みに包まれた箱を、ずいっ、と俺へと押し出した。「こ、こないだ見たとき、コンビニのお弁当だったので!」

かみかみの台詞で、視線を、下に向けて、それでも。差し出された弁当箱に、ごくん、と軽く唾を飲んだ。「俺にか?」 当たり前の確認を、に訊いた。何度もこくこくこくと、首を縦に振って、最後に、ぎっと俺を見る。


元気、出してくださいね、と呟かれた言葉を聞いて、(ああ、やっぱり俺、この子のこと)
思わず、笑ってしまった。



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2008.02.15