| 今日は、調理実習の日なのだ。 隣のクラスと合同かぁ、とエプロンを片手に、おにぎりの中の具を、梅干しにしようかなぁ、おかかにしようかなぁ、それとも、とぶつぶつ首を傾げながら家庭科室のドアを開いた。いつもの、クラスの女の子の二倍の人数に、「うっ」と声を漏らして、別けられた席へといそいそと向かう。何となく周りの視線が恐いので、小さく小さく身体を縮こませながら。 丸い小さな椅子を、へ、よいしょと腰を掛けるときに、「あっ」と小さく漏らした声が聞こえた「え」 「」 大人っぽく前髪を別けで、ゆるりと瞳を閉じた目には見覚えがった。「花さん」 その隣には、花さんよりも小さくて、パッチリとした目つきの女の子。だれ? と首を傾げている彼女は確か、笹川さん。 うわぁ、とドキドキしながら、私は二人に「です、よろしく、おねがいします!」と頭を下げた。ガゴンッ 勢い余って、テーブルにおでこをぶつけてしまった。ちょっと痛い。 「ちゃんって、隣のクラスなんだよねー」 「はい、や、えと、うん! 笹川さん!」 京子でいいよう、と朗らかに笑う彼女にどきどきしながら、手に持つおにぎりをぎゅっぎゅっと握りしめて、視線を手のひらへと固定した。女の子と話すときは、やっぱり緊張する。そんな様子を、花さんは、ばっかじゃないの、とでもいいたげにクスリと笑っていて、私も思わずへにょんと笑ってしまった。幸せだなぁ、とやっぱり心臓の鼓動が早くなる。 手についた米粒を、ぺろっと舐めとって、「へへへ」と首をすくめて笑った。お塩がいい感じに利いている。 「ちょっと、、聞いてる?」 突然、振りかけられるように花さんが眼前へとぺちりと手のひらを出した。「え、あ、うんっ」「ちゃんと聞いてたのね?」「き、聞いてない!」「ばか」 肩を飛び出すように首をすくめると、京子ちゃんが優しく笑いながら、「おにぎり、誰にあげるって話してたんだよ」と教えてくれる。 私は出来たおにぎりをお皿の上に乗せて、もう一つと、おひつの中にしゃもじを突っ込んで、手のひらへとホカホカのご飯を乗せ、ぎゅっぎゅっと形にしてから、暫く考えた。「………自分で、たべる?」「ばか!」 今度こそ、花さんの鉄拳が頭に下る。ずれた三角巾を、頭のてっぺんで直しながら、今何故自分は怒られたのだろうと目をぱちくりさせた。 すると花さんは、私が訊く前に、既に出来たおにぎりのお皿を片手で持ちながら、もう片手をくるくると宙に回し、説明する。 「あんたね、こういうときこそ、クラスのバカでサルな男子どもに恩を売るのよ! その為のイベントでしょうが! 調理実習なんて!」 そうなのだろうか。ぽかんと口を開き、彼女の続く熱弁に耳を傾けながら、京子ちゃんが、「まぁまぁ」とにこにこ笑ったままに花さんへと手を振った。「恩を売るとかは置いといてね、自分で食べちゃうのは寂しいよ」 彼女はおにぎりの中に鮭を入れながら、はいできたー、と明るく声を上げた。 私も、もう後一握りで完成だったのだけれど、何となく彼女たちの発言に気兼ねしてしまって、ううん、と頭をひねったまま、おにぎりを眺め続ける。(だ、誰に、あげればいいんだろう) 「山本にやれば?」 「え」 なんで? と首を傾げれば、それこそなんでよ。と花さんがくいっと顎を上げた。「好きな奴にあげるってのが心情でしょうが」「………おにぎりを?」 手の中のご飯をじぃっと見て、やっぱりまだまだうううん? と考えていれば、「さぁさぁクラスの男子どもに恵みに行ってやるわよー!」 と花さんが、勢いよくドアを開け、去っていた。 彼女に向かって、小さくバイバイと手のひらを振りながら、どうしようかなぁ、とやっぱり首を傾げた。 BACK TOP NEXT 2008.10.26 |