結局体育祭になってしまった。



 第13話  私とみんなの体育祭事情 2




背後から聞こえる「ちゃわーん!」 という声に聞かないふりをしようと、ぐいっと耳へ人差し指を突っ込む。茶色い組み立て式の長細いテーブルに肘をつきながら、パイプ椅子をガタガタと動かした。「ちゃわーん、聞いてるぅ?」 聞こえない。頭上のテントの布がバタバタと揺れる。「ちゃわぁーん!」 


「シャマル先生まじめにしてください!」
「だってけが人なんてまだでないしぃ」
「もし緊急のことがあったらどうするんですか! もうちょっと気をはってですね」
「気を張りすぎて必要なときに使い物にならなかったら意味ないよん。ちょっとぐらいぼけーってしてる方がいーの」
「ああああなんか筋が通っているようないないようなぁぁああああぁあ……!」


少なくとも私はストレスがたまります。

シャマル先生の動きを避けつつ動きつつ、ううう、と頭に手を置いて、無事に体育祭終了してくれないかなぁ、とタカタカ回るリレーの走者を見ながら、そう考えた。
ちゃんセンセーといいことしよーよー」「先生本気で怒りますよ」






「うああ、やっとのことで、午前中の部、終了ですねー……!」

先生のセクハラを回避し回避し、何やら妙なところで体力を使ってしまった気がするけれども、やっとのことであと半分だ。足取り軽くグラウンドのまわりを歩き、お弁当箱を、ぶん、と振る。さすがにお弁当の時間くらい、ゆっくりしたい。


委員会の人たちが共同作業で巻いている水やりを、ぼけーっと見つめながら、どこで食べようかなぁ、とぼんやりと頭を動かしたその瞬間だった。

「お、
「山本くん」

ぽん、と叩かれた肩を見れば、いつもどおりに爽やかににっかりと笑う少年で、彼は頬にかいた汗を、体操服の裾で、ぐいっと拭う。「タオル貸しますよ」とひょいと差し出したそれを、「さんきゅー」と受け取り、白いタオルに顔をうめ、「うはー」と妙な声を上げている。

「えーと、お疲れ様です、山本くん」
「まーな、俺リレー1位だったんだけど、見た?」
「え? あ、ごめんなさい」
「ん? 見てねーなら別にいーや」


まぁ次は見といてくれよ、とぽんぽんと撫でられた頭に、ちょっとやめてください! と手をバタバタと暴れさせると、まぁまぁまぁ、と朗らかな声のまま、強くグシグシと撫でつけられた。何がしたいんだこの人は!


「なんですかやめてくださいもー」
「弁当一緒にくわねぇ?」

ん?





何がどうなっているんだろうか。山本くんと一緒に、ツナくんのご家族らしき方々に囲まれて、私はちんまりと正座していた。若いお母さんはにっこりかわいらしく、お姉さんらしき美人の人と、かわいらしい女の子は妹だろうか。その中に、少し前に見かけた牛の少年を見つけてしまったのだけれど、案外世間は狭いのかもしれない。

「………や、山本君」
「ん? どーした?」
「あの、私、お邪魔なんじゃ」
「別にいーって。親父は店でこれねーって言ってたし、一人だろ?」

まぁツナがいーってんだから、気にするだけ損だぞ、と私の背中をバシバシと叩くものだから、ごほごほと少々むせながらも、まぁいいか、とパチリと一つ手を合わせて、ちょこんと頭を下げ、お弁当の蓋をあけた。今朝方めいいっぱい根性を入れたお弁当は、中々の出来だ。


それでもなんとなく、お箸を動かしづらくて、ちらりと目の端でツナくん達を窺えば、可愛らしい女の子が、ツナくんの口元へと、あーんを迫っている。ちょっとビックリ。おお、なんだかモテモテじゃないですか!

「ハル俺自分で食べれるから、別にいいって」
「だめですツナさん、疲れているんですから、バッチリお世話してみせますよー!」

そんな彼らを山本くんも見ていたのか、「………なぁ」と、ぼそりと呟いた。それより先の彼のセリフがなんとなく予想がついたので、「しません」ときっぱりとしたお返事に、ケラケラと山本くんは一人で笑う。「じゃあまた今度な!」「今度ってなんですか!」


気のせいだろうか。なんだかこのテンション覚えがある。なんでだろうか、と考えたときに、はっと気付いてしまったのだ。
(シャマル先生と、そ、そっくり………!)

なんてことだ。山本くんとシャマル先生がそっくりだ。ということは、と頭に思い浮かべられた山本くんの嫌な未来像に、一瞬本気で眩暈がしてしまった。あれだ。ダメだ。これはもうダメだ。はっきり言おう。もうビシリと! 「山本くん!」

びしっと突き立てた私の人差し指を、山本くんは何? と首を傾げながら私を見つめる。ビシリと。「………っ、えー、あー、」 何を言えばいいんだ。


くるくる、くるり。まるでトンボをゲットするがごとく、山本くんの目の前を、くるくると人差し指を回し、彼はそれを静かに見つめる。見つめる。見つめる。

「お弁当、残しちゃだめですよ」
「ん? おう」


私のバカー!
もひもひ再び箸を動かし始めた山本くんを見て、気を使っている自分がバカバカしくなってしまい、黄色いお箸を持ちながら、いざ! とお弁当箱へと進めることにした。



「………アレ?」
「はい?」

ツナくんへと、「あーん」としようとしていた、ちょこっとつり目のかわいらしい女の子が、私と山本くんのお弁当箱を見て、ちょこりと首をかしげた。何かおかしいことでもあるのだろうか、と彼女の瞳を見つつ、山本くんのお弁当箱を見てみたけれども、サイズが少し違うくらいで、特になんの差がある訳でもない。


「………あの?」
「え、はい、こんにちはハルです!」
「あ、ご丁寧に。です」


苗字だろうか、名前だろうか。お互いぺこりと頭を下げて、そのあとぱっちりと再び視線を合わせると、ハルさんはにっこりと春のように微笑んだ。名は体を表すんだなぁ、とドキドキしながら、私と山本くんのお弁当の上をふらふらふらり、と視線をふらつかせる彼女の視線が少々気になる。何かおかしいものでも入っているのだろうか。


あの、と声をかける前に、ハルさんが両手をシュパパパパパ! と高速で移動させ、「あわわわわ、すみません何だか気になっちゃって!」と必要以上に体をのけぞらせた。ツナくんが「ハル暴れるなよー」とぶつぶつと文句をいった言葉に、そちらにもあわわわわ! と謝る。忙しい女の子だな、と思う反面なんだか可愛らしくて、とっても好感がもてる。

お友達になれたらなぁ、と思わず出た欲が、勇気を振り絞って、「どうしたんですか?」と訊いてみた。
ハルさんは、パチパチと瞬きを繰り返した後に、私と山本くんのお弁当箱を見て、「うん、やっぱり!」「何がですか?」


「いえ、お弁当の中が、とっても似てるなぁ、って思ったんです」
「…………! …………!」


そりゃあまぁ、両方とも私が作ったのだから当たり前な訳だけれど、口から出そうになった悲鳴をなんとか抑え込んで、「そりゃあ」と何か発言しようとした山本くんの口を、思いっきり片手でぱちん! と叩いた。アウト、山本くん多分それ思いっきりアウトー!


「あ、ほんとだ何だか似てるね」
「あらあらホント」
「どうでもいいわ」

ツナくんファミリーまでもにじっくりと眺められるマイ弁当に、妙な汗をだらだらと流しながら、「そうですよね! そんなこともありますよね! ね、山本くん!」「いやだってこれ」「ね、山本くん!」「ん、ん、あー、うん」

私の本気の目に押されたのか、若干頭の上にはてなマークを浮かべた山本くんが、八の字眉毛のまま「そうだなぁ、そんなこともあるかもなぁ」とこっくりと頷いた。
勝った! 山本くんに勝った! と思った瞬間、意外にも目ざといのか、「でもお箸も一緒だよね、さんと山本のお弁当」 なんて呟いたセリフに、思いっきり叫びそうになってしまいました。






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リボーンは只今戦略中。
3巻の山本の常識人っぷりにときめいた。

2009/02/05