隣に金髪のお兄さん一人、周りは揃いも揃ったグラサンをかけた男の人4人。 (………なんだろう、この、光景は……) 「すまねぇな、巻き込んじまった」 「え、いえ」 なんだろうか、この人は。 「……! ……!」 ふいに、私の耳へと、男性の叫びが聞こえてきた。河原のぽっこりと浮いた並盛の家が一望できる場所にて、すっきりとした顔つきの、金髪、恐らく外国人のパーカーにジーンズといったラフな格好をしたお兄さんが、こっちへと突っ込んできたのだ! 「ご、ごふ!」 バランスを崩したらしいお兄さんは、ある意味芸術的に私の鳩尾へと顔をつっこませ、そのままの勢いで二人一緒に転倒した。流石に成人男性の体は重く、「か、勘弁してください……!」 流石の山本くんだって背中からしか乗ってこないんだぞ! それもどうかと思いますけれども! ぎゃあ! という叫び声と共に私の腹部から顔を上げたお兄さんは、僅かに頬を赤くしながら、ペラペラと不思議な言語を繰り返した。「あ、あの」「あ、わるい日本語か!」 困ったように視線をきょときょととさせていると、ああ! と思いついたらしいお兄さんは、物凄く流暢な日本語をしゃべりだす。おお、この頃の外国人さんってすごいなぁ、インターナショナルだー、と感動する暇もなく、「今急いでるんだ、本当に悪い、ごめんな、それじゃあ!」 しゅぱっと立ち上がった。ガスン! そしてこけた。 「…………」 今度は見事に道端へと顔をつっこませたお兄さんの顔は真っ赤に擦れて、あああ痛そうだぁ……と保健委員魂がうずく前にもう一回起き上がる。ガスン! またこけた。「…………」 一体何にひっかかったんだろう。このお兄さん、かっこいいのにちょっとドジだなぁ、と不憫な目を送りそうになったとき、「………!」「!、!」 またよくわからない言語が響く。 腰を地面へとつけたままだった私はひょいっと起き上がり、今度もお兄さんが慌てて立ちあがった。今度は上手くいった。私とお兄さんをぐるん、と取り囲んだ、不思議言語の方々はグラサンで隠れた顔つきに、嫌らしい笑みを浮かべ、じりじりと近寄る。お兄さんが何か言葉を叫んだあと、「すまねぇな、巻き込んじまった」「え、いえ」 …………何に? 「Cavallino Rampante Dino!」 男が叫ぶ。……今なんて言った? よく聞き取れなかったんですが。 もったいぶって取り出された拳銃は、あんまりにも場違いだった。まるでランボくんのおもちゃを見ているような気分になってしまったけれど、きっと違う。リボーンさんにつきつけられた拳銃を思い出し、ピタリと止まった体と動悸と思考は、あれ、並盛っていつの間に物騒になったんだろう? それだけ。 庇われるように抱きしめられた感覚に、はっと一瞬目がさえた。そのまま二人一緒に、えいと力をかけ、河原の斜面をごろごろ滑り降りる。体中が痛くてすりきれじりじりするけれど、「こっち!」金髪のお兄さんを引っ張って、橋の下の視界へと潜った。恐らく、どこだ! と叫ばれているように、感じる。 「俺が出ていくから、お前はここでじっとしといてくれ」 見ず知らずなのに、本当にごめん。 情けないのか、かっこいいのかよくわからない表情で私の肩を押さえたお兄さんのほっぺを、ぐいっとつねった。「いっ」「声を出さないでください」 ふざけるな。 キャバッローネのボスは、市民を見捨てない。素晴らしい方なんだぞ。少ない父からの国際電話を思い出して、私だって、それに恥じないようにしなけりゃなんないのだ。「……私だって」「え?」 男たちの声が近付く。開けた土地に隠れる場所なんてありはしない。くそう、と歯を噛みしめた彼は、私の肩を、ぎゅうっと掴んだままだ。「お兄さん、ごめんなさい」「何が」 どぶん! 冬になることはないものの、秋の水はものすごく冷たかった。服がべたりと皮膚に張り付き、揺れる髪の毛を押さえこんで、初めは驚いたような表情をしていたお兄さんも、心得たとばかりにお互いでがっと体を掴み、浮上しないようにとたいして深くもない川で、体を小さく小さくさせた。ぶくぶくと小さな泡が口元から飛び出して、その泡も押さえこむように顔を下へと向ける。 聞こえる声が、どんどん遠くなり、息も苦しくなってきた頃、「ぶはっ」 水面へと顔を飛び出させ、私とお兄さんはぜえはあと肩で息を繰り返した。 さっきと反対に、お兄さんが無言で私の腕をひっぱり、私も同じく無言で岸へと上がる。靴下の中までぐちゃぐちゃなのだけれど、制服じゃなかったことが唯一の救いだなぁ、と思う反面、お兄さんにはちょっと申し訳ないことをした、と反省した。そもそも、(この人って、何ものだろう) 本物か嘘ものかわからないけれど、銃を持った男たちに囲まれた金髪のお兄さんは、水にぬれた前髪を顔にぴたりとはっつかせ、ぶるぶると犬のように顔を左右にふり、水滴を落とした後、橋の下から、大丈夫だろうか、とあたりを窺っていた。 「うん、大丈夫だ。……その、わるい、今手持ちがねぇんだけど」 「ま、待ってください。私そういうの目当てでした訳じゃないです」 「いや、でも服もぬれちまったし」 「乾かせばいいですから、大丈夫です」 「流石にな、女の子水に濡らしといて知らぬ顔できねぇよ」 「だから、いいです」 意外と頑固な金髪のお兄さんは、「俺の番号……あーくそ、手帳も濡れちまってる」としょんぼりした声を上げ、「名前教えてくんねーか?」と情けない顔つきのままじっとこっちの手を握ったままだった。ここで名前を言ったら、まるで私がお礼目当てで助けたみたいじゃないか。 なんだか、すごく、そんなのは嫌だった。失礼なことだけれど、私は思いっきり首を左右に振った後に、「さ、さよなら!」「えええ、お、おい!?」 にげろ! ばしっと腕を振り払い、そのまま逃亡した背後で、べしゃりとまたすっこける音が響いた。「俺、ディーノ、ディーノだからな! 今度絶対お礼すっから!」 だからいいですって! 小さくなっていく声を聞いて、あれ、ディーノって、どっかで聞いたことあるなぁ、どこだったかな? と首を傾げたのだけれど、やっぱりなんだか思いだせなかった。なんだかすっごく大切なことだった気がするんだけど。……うん? 何故だ。 その日、とっても久しぶりに父から電話がかかってきた。 『おう、、日本になぁ、ボスが行くことになったんだ』 「そうなのお父さん、いつ!?」 『もう着いてんじゃねぇか、多分』 「え、ええ、えええ、なんで教えてくれなかったのー!?」 『いやこないだ電話したけど出なかったしお前』 あれかー!? と体育祭前の電話を思い出して、一人しょんぼりしたとき、ふと父が、どこか真面目な声色で『なぁ』と問いかけた。『ボスに会いたいか?』 当たり前じゃないか! 一も二もなくうん! と頷くと、そうかぁ、とお父さんは頷いて、そしたら今回チャンスかもなぁ、と呟いて、そうかこれってチャンスなのか、とドキドキした。 だって、今まで話の上でしか会うことができなかったボスが、同じ土地の上を踏んでいるのだ。遠い空の下なんかじゃない。 うわあ、うわあ、とあふれる声を押さえこんでいると、お父さんが、そういや、という前置きで口を開く。 『お前武くんと、どうなんだ?』 「何でいきなり山本くん!?」 BACK TOP NEXT 2009.08.24 |