「そういえば、この間、ちょっと変わった外国人さんを見かけましたよ」 ふいに思い出したものだから、何もないところでこけるあの人を思い出して、うふふ、と笑ってしまった。きゅうりのお漬物をとことこ切ってる端から、ひょいひょい食べていく山本くんが、うん? と首を傾げて、「この頃よく見かけるよなぁ、外国人」とぽりぽりお漬物をかじっていた。見かける……かなぁ? 私も首を傾げると、山本くんはふと思いついたように「それ、男?」「男です」 間髪いれずに答えた後、何だか私はしまったなぁ、と思ったのだ。しまったなぁ、とか思っても事実なことに変わりはないし、なんで私がしまった! なんて思わなきゃいけないんだ、と自分自身不思議になったけど、まぁいっか。ときゅうりとお皿の上に盛り付ける。 その後ろで、「ふーん」と低い声を出した山本くんを振り返ると、ぎゅっと目をつむっていた。「いやぁ、狭いなー」 狭い? とお家の中を見回してみたけれども、別にそんなことはない。十分な広さだし、お台所だって不自由を感じたことはなかった。「そんなことないですよ」 とり合えず本音として、そう言ってみると、山本くんは私の頭をぐしぐしとなでて、「ありがとうな」と笑っていた。「まぁ若いしなぁ、今から今から」 一人納得したように頷く山本くんに、一体若さと狭さとの関係って、何が? と思いつつ、やっぱりまぁいっか。と今度はご飯をお茶碗によそうことにした。 外国人と言えば。 父いわく、ボスが日本へ来ているという話は本当だろうか。考えるとわくわくして、どきどきして、不安のような期待ような、自分でもよくわからない気持ちでいっぱいになる。山本くんには、「この頃、そわそわしてんな」と言われてしまった。なんで分かったんだろう。恥ずかしい。ボス、今頃どこにいるんだろ。 『 がらーん。「うおっ、!?」「う、わ、ごめんなさいー!」 ついでに余計なことまで思いだしてしまった。ごろーん、と台所に転がしてしまったお茶碗を、山本くんに苦笑いで誤魔化しつつ拾いなおす。どうなんだって、何がどうなんだ? 『武くんはいい男になるぞー、捕まえとけよー、キスの一発でもすりゃあ完璧だっ!』の、かんぺ、辺りでがちゃりと電話を切ってしまったことが私の敗因かもしれない。おかげでボスが、今どうしてるのか、日本のどこにいるのかが分からずじまいだった。 お父さんのおばかー、おばかー、おおばかー、と心の中で繰り返して、マフィアという仕事柄、連絡先の分からない父からの連絡を今日も待つことになりそうだなぁ、とため息をついた。 「ロマーリオ……」 俺は情けなくもため息をつきそうになって、いいや部下の前だと口を引絞った。ロマーリオは、口髭をゆがめながらまたか、というような表情で俺を見る。俺も思った。またか、俺。 「また情けない声出してるな、ボス」 「俺も今同じこと思ったぜ」 「女に逃げられたんだって?」 「そういうと、別の意味になりそうだからやめてくれ」 そう、俺は日本人の、それも女の子に助けられてしまった。運の悪いことに、商売敵のやつらに狙われ、人気のある場所ではなにもすることができず、ただへいこら逃げ回っているところを、女の子に救われてしまった。そのまま名前も訊くこともできないで、さっそうと駆け抜ける彼女の足は速かった。とても速かった……と、ロマーリオには説明した。途中で俺が顔面からスライディングして見逃してしまったとはとても言えない。 受けた恩は、忘れてはいけない。あの小さな体だ、鉄砲玉を持った相手が恐ろしくない訳がない。それなのに俺の腕をひっぱり、力強く進んだ彼女は尊敬に値する。リボーン、俺はまだまだだぜ、と心の中で呟いた後、また彼女の姿を思い出した。あんな小さな体で。 「ロマーリオ、日本の少女ってのは、みんなあんなに華奢なもんなのか?」 「さぁ? 俺は見てねぇからわからねぇが。そういやにも娘がいるだろう」 「そうか、あいつも日本人で娘か。……ごつそうだな」 「そうだな」 今はイタリアにいる、部下の一人を思い出し、そして次にその体格を思い出し、ついでにその娘も想像して、少々言葉につまった。「人それぞれだな」と静かに呟いた俺の言葉に、「そんなに華奢だったのか」とロマーリオは興味深げに訊いてくる。 その言葉に、俺は掴まれた手の感触を思い出し、そうだな、と言葉を続けた。 「手も随分小さくてな。中学生くらいだと思うんだが。まぁつくとこにはついてたけどな」 「ボス……下心がついてまってるぜ」 馬鹿、ちげぇよ、とロマーリオへと軽く笑う。受けた恩は忘れない。そしてあの少女を探し出して、もう一度、しっかり礼を言わなければいけない。 まるで義務のように考えてしまったが、少し違う。日本って、結構楽しいんだな、と弟分の姿も思い出しながら、マフィア、キャバッローネのボス、ディーノは口の端を少し緩めた。 BACK TOP NEXT 2010.07.26 |