第16話  山本くんと彼女のお正月事情






ふにふに、と誰かが唇を触っていた。
多分きっと山本くんだ。そんなことを、うっすらと気づいていた。ちゅ、とキスされた。ぼんやりと顔を顔を上げると、山本くんが笑っていた。それからまたキスをした。私はうとうとして、うんうん頷いて、山本くんとキスをした。何度もくっつけて、また離した。ぷに、とくっつく唇が気持ちいい。
もう一回していいよな、と尋ねる山本くんに、うん、と小さく頷いた。それから、またちょんと唇がくっついて、「よー、」「…………やまもとくん?」


夢でありました。



こたつの中はほかほかと暖かい。とっくの昔に年はあけてしまっていたらしい。窓の外は明るくって、私はくっついていた山本くんの服を掴んで、あわあわと視線を移動させた。「あの、えっと、あの」「あけましておめでとう」「あ、あけましておめでとうございます……ではなく!」

「何で山本くんがいるんですかー!」と両手で無理やりおした後に、「なんで私がいるんですかー!」 冷静に考えたら、ここは山本くんのお家である。

「いや、がそのまま寝ちまったんだって。そんでそのままな」
「なんでですか! 起こしてください!」
「寝顔が可愛かったから」
「そういう問題じゃないです!」
「あ、こたつじゃ風邪ひくか」
「だからそこでもないです!」

うっかり寝てしまった自分が悪いのだろうか。とにかく山本くんの隣で寝ながら、思いっきり彼を押しのけたのに、山本くんはびくともしない。こたつ布団には準備がいいことに、誰が持っていてくれたのか毛布までかけてある。「もー!」 と牛みたいな声をだした後に、よくよく考えたらうっかり寝てしまった自分悪いのだと気づいて、「もー!」ともう一回叫んでみた。ばたばたこたつから抜けて、部屋の端っこでうずくまってみた。

(や、やまもとくんと、き、きす、きす、きす)

初夢だ。これって初夢だ、と思ったあとに、いや、初夢は年があけてからだから、セーフ! と気持ちが明るくなった。いやだからセーフとかそんな問題じゃない。
ひいいひいい、と赤くなったほっぺをごまかすみたいに小さくなった。気持ちがよかった。夢なのに、そんなことまで覚えていた。

なんであんな夢見ちゃったんだろ、と泣きたい気持ちで小さくなっていたとき、ぽん、と山本くんに肩を叩かれた。「ほら、掃除だろ」「はい?」

にこにこ、と山本くんは楽しそうに笑って、「掃除だろ? ちょいと遅めの大掃除。そんで近所の挨拶な」 さっさとして、一緒に初詣にいこうぜ、と楽しげに笑う山本くんを見上げて、ほんのちょっと顔が赤くなって、こくりと頷いてしまった。



   ***




なんで私はあんなに素直に頷いてしまったんだろう。
あの変な夢のせいだ。学校の子達に会いたくないのに、うっかり約束をしてしまったものだから私はずるずると山本くんににひっぱられて、神社に連れられた。いつもと違ってごった返した境内は、まるで縁日かなにかのお祭りみたいだ。中にはちらほらと屋台もあるから、ある意味間違っていないかもしれない。

「や、やまもとくん、て、手をはなしてください」
が手袋なんて忘れるから」
「なんで私が忘れたら、山本くんに握ってもらわなきゃだめなんですか!」

なんだかいつもとちがって、どんどん耳の辺りが熱くて、どきどきした。誰かに見られたらどうしよう。いつもなら最初にそう思うのに、そんなことよりも山本くんの手が大きくって、あったかくって、私の手をぎゅっと握っているということにビックリして、人混みの中でくっついて、そのまま小さくなって消えてしまいたいような気持ちになった。

「あのですね、山本くん、やっぱり変だと思うんです。こういうのは、付き合ってる人同士じゃないとですね」「あら! 竹寿司の武ちゃん! 今日もちゃんと仲がいわねえ!」「おうよ、おばちゃん!」

おうよじゃない。
あんまりにもいつもの山本くんに、反対に毒気がぬけてしまった。私はぺこりとおばさんに頭を下げて、人混みの中を進んでいった。





やっとこさついた鈴の前で、お賽銭を出した。がらがらと鈴をならして、ぱんぱん、と両手を叩いて、さて何をお祈りしよう、と今更ながらに首を捻った。案外パッと思いつかない。とにかく、一番最初に考えたお祈りごとが一番だろう。(みんな元気で) ついでに、今年は女の子のお友達ができてくれたら嬉しい。

家に帰っている最中に、相変わらず山本くんに手をひっぱられた。「そういえば、山本くんは何をお祈りしたんですか?」「今年もといられますよーに」「あのですね……」

つっこむ言葉を考えて、なんだかよく出てこなかったものだから、「あ、ごめんなさい」と唐突に思い出した事実に頭を下げた。

「ん?」
「願掛けは口にしたら、叶わないんでした」
「え、うお、ちょ」

、おい、と珍しくぎょっと目をむく山本くんに、「ごめんなさい、忘れてました」「お、おいおい」 うっかりである。口元をへの字にして、眉を垂らす山本くんを見上げながら、 (あ) 今年こそ、キャバッローネのボスに会えますように。そうお願いすればよかったな、と気づいてしまった。

まあいい。そういうのは、自分で叶えるものなのだ。
「そういや、ちょっとツナと正月だから遊ぶらしいんだけどさ、も来るか?」
「……沢田くんですか?」

ほんのちょっとだけ瞳を伏せてみた。「遠慮しておきます。誘われたのは山本くんなんですから、私が行っちゃご迷惑です」「そんなことねーだろ。獄寺とかもきてわいわいするんだってさ」「それにまだ師範と稽古をしていません」「あー」


そんならしょうがないな、と口の端を少しだけ緩めた。はい、と返事をすると、握られたままの手に気づいて、少しだけ赤くなった。(なんで、あんな夢見ちゃったんだろ) 当たり前だけど、山本くんだって男の子なのだ。
キスしてくれ、と冗談みたいに言われたことがある。山本くんは、いつだってそうだ。にこにこして、距離が近くて、すごく優しい。
変な気持ちになった。

見上げた山本くんが、すごくかっこいいのだと気づいてしまった。私は慌てて首をぶんぶんと振り回した。気のせいだ。ものすごく気のせいだ。「?」「な、なんでもないです、沢田くんと約束があるんでしょう、はやく帰らないとだめですよ!」「もうちょいなら大丈夫だろ」「時間には余裕を持って行動です」

はやくはやく、と顔を伏せて山本くんをひっぱって、真っ赤な顔を頑張って隠した。








BACK TOP NEXT


2013/01/15