第17話  私のなんでも事情のない日




なあなあ、とぺとんと山本くんが背中に乗ってくる。そのまま体を反転させて、「やや、やめてください!」 別にいつものことだ。畳の上にお尻をつけた山本くんが、けらけらと笑っている。いつもなら、ぶんぶん腕を振って、いい加減にしてください、これ以上するなら怒りますし、山本くんはそもそも重いんです、私よりも大きいんです、いやそういう問題でもありません、と切に語るのが常なのに、ぷい、と顔をそむけたまま、「ご飯を作るんで、ちゃんと座っててください」

「ん? わかった」
そんじゃあ皿でも並べとくかな、と立ち上がって、がらがらと戸棚が開く音がする。「…………うぐ」 なんだか緊張する。トタトタまな板につけていた包丁で、うっかり指を切ってしまいそうになった。「ううぐ」 目尻の下あたりが、くすぐったい。なんでだろう。だんだか、(…………くやしい)






「そこでなんで悔しいって思考回路になるのかよくわかんないんだけど」

とりあえず、なんだか悔しいんですよ、とおとなりのクラスの花さんに、廊下の窓に手のひらと顎をかけてもにょもにょと呟いていると、「あのねえ」と花さんはぼんやりとため息をついた。「悔しいじゃないでしょ、そういうのは」「……だって」

いっつもいっつもこっちが振り回されてばかりな気がする。そう気づくと、こんにゃろー、となってくる。よく考えたら、昔っからそうだった。なんだっけ、と花さんが壁にもたれながら首を傾げる。
「あの……山本よね、その話」
「ちがっ、ちがいます、ちょっと色々お世話になっている、幼馴染です!」
「だから山本よね?」

あんた幼馴染大量にわっさわさいんの? と黒い瞳をとろんとさせて問いかけられると、ぐぐ、と言葉につまってくる。「……ちょっとそれっぽい感じかもしれません」「嘘をつくか正直に言うかどっちかにしな」 それっぽいそんな感じってどんな感じよ、と溜息をつかれた。

自分だって分からない。何度か口を動かした後に、右手を握った。ぎゅっと握った竹光の感覚を思い出したら、少しだけ楽になる。「つまりこれってあれよねえ」 ああいう系のお話よねえ、とへらりと花さんが笑った。私は、ん? と首を傾げて彼女を見ると、窓の外に見慣れない姿の人たちがぽてぽてとグランドを歩いてくるのが分かる。「あー……、授業参観でしたもんね」 うちは来ないものだから忘れていた。

きれいな服をきたお母さん達に混じって、お父さんの姿もちらほらいる。「ぎゅーん!」 ぶいんぶいんぶいん、と自分自身で効果音を叫びながら、とてとてとこっちにかけてくる小さな牛柄の男の子が来る。「あ、ランボくん」 体育祭ぶりだねえ、と声をかける前に、「ぶいんぶいんぶーいーんー!」 自ら効果音を口にしながら走り去っていく。「うっわ、私子どもは無理なのよ」

むりむり、避難するわ、と逃げるように自分の教室に向かう花さんの後ろ姿をみつめた。そのとき丁度ドアを開けた山本くんと、ぽすんと花さんがぶつかって、「うお、びっくりした」「悪いわね」

「お、

今日、おやじも来るぜー、とぶんぶん腕を振る山本くんを見て、こっちに話しかけないでください、と無言のジェスチャーで首を振った。でも多分気づいてくれない。気づいてても気づいてくれてない。
にこにこ笑う山本くんを見ていると、なんだかまあいいか、という気持ちになってきた。しょうがない、と溜息をついて、「よかったですね」と小さく声をかけながら、自分の教室へ帰った。今日の晩御飯はなににしよう。


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2014/09/13