「ああああ、どういう事だあぁぁああ」


第2話  お隣ボーイ遭遇




ちょっとお母さん、私が中学生ってどういうことだい! と突っかかる前に、妙な違和感が自分の体の中におこった。ぺたぺた。胸あたりを触ってみる。ぺたぺた。「………おかあさん、私って、こんなに乳なかったっけ………?」人様よりもあった訳じゃない。けど、それでもひっそりとしたサイズなら、あったはずなのに、ぺたぺた。

「何いってんのアンタもともと貧乳でしょ」


自分が(微妙に)若返った事にこんな事で認識したくありませんでした(かみころしていいですか?)




荷物だしくらい自分で出来るでしょ、とされた放置に、茶色い段ボールの中で脱力した。とりあえず、洗面所で顔を確認しようとしても、鏡の中に映ったその顔は、今と全然代わり映えがない。よく親戚のおじさんとかに「ちゃんは小学校の頃から変わらないなぁ」なんて事を言われて一人憤慨しつつ、心の中でかみころすと連発していた事を思い出した。すみませんおじさん、真面目に私変化ないですね!(なにこれ童顔なのそれともふけ顔なの)残念な事に大して育たなかった私の身長目線も、ほんの数センチの差だ(乳だけでも成長していてよかったねー!)

これは、完璧に、決定だ。トリップ決定。
ぶっちゃけ、お隣さん家の雲雀さんは、多大なるリボーンファンで、思わず息子の名前に恭弥くんと名付けちゃったのかもしれないな! とイヤな妄想をしてしまったけど、どうやら違ったらしい。あの恭弥くんは、正真正銘の、雲雀君小学生バージョンなのだ!

取りあえず、段ボールのガムテープをばりばり剥がしながら、ああああ! と頭を抱えた。だって考えてみてくださいよ、雲雀恭弥ですよ。あの、並盛町全体の影の支配者っていうか、表も支配しちゃってる雲雀さんだ! 例え彼がミニマムであろうとも、群れればトンファー、むかつけばトンファーには代わりはない(と思う) っていうか咬み殺される。

バリバリバリ、と剥がされたガムテープを、ぐるぐると手で集めて、ため息を一つ。ここで一つの決意を持ってみた。今後一切、必要最低限で、お隣さん家の雲雀宅には関わるまい!(だって咬み殺されてしまう)

よしよし頑張れわたし、取りあえずもう一回中学生活やり直しだけれど、高校生活よりも楽に違いない。適当にいい点とって、適当に教師の先生方へとこびをうって、適当にいい高校に進学しようそうしようかみころせー!


ぴんぽーん


えいえいおー! としたポーズのままで響いたチャイム音に、なんだろうなんかの勧誘とか、マンションの管理人さんとかかなとか思いつつ、「はーい!」
バカだったのだ、私は。ちゃんと確認とかしとけば、こんな状況におちいることはなかっただろうに、このバカめ!

開けた扉の先には、誰もいなかった。ちがう訂正、普通の人間の目線の位置には、誰もいなかった。ぐぐぐっ、下げた視線の位置に、ちょこんと、見える黒髪「…………っ」 ひ、ひば、

「…………なに」
「あ、いえ、別に」

ああああちくしょうめ。さっき関わるまいと心の底で決めてガッツポーズまで決めたのに、なんだ早々はちくしょうめー!
くっそもう知らないぞこんちくしょうと思っても、さらさら黒髪だとか、やっぱ原作よりもぱっちり開いているお目々とか、うひいいかわいいなぁ、もう! とか思ってしまうのは、私の性だ。許してほしい。あー、ぷにぷにほっぺ触りてぇー!

彼っていうか、恭弥くんは、背中にちょこんと何かを持っていて、ヤバイもしかしたら、既にトンファー技術をマスターしている彼は、引っ越してきた私に、「洗礼だよニヤリかみころす」とか微妙に舌っ足らずでいってくれるのかもしれない。……うっはー! 殴られてぇ! ってダメだろ私落ち着けよ。そりゃ想像のお話で実際は、勘弁、勘弁、勘弁……なのかな、例え救急車に運ばれようとも雲雀ファンとしては、いやダメだろ普通に。

「えっと、恭弥くん、なにかな」

見つめ合ったままでも埒があかないので、勇気を振り絞ってみた。ぶっちゃけ気持ち的には、すぐさまこの扉を力一杯閉めて申し訳ありませんでした勘弁してください! とドア越しで謝りたい気持ちでいっぱいだったけど、そんな事をしてもっと気分を損なわれちゃ困る。なにをどうしようとしても、私は雲雀さんのお部屋のお隣へと越してきたのだから!(だから頑張ってわたし!)


振り絞る勢いの私の問いかけは、恭弥くん、と私がいったあたりで、彼の肩がぶるりと震えた。ひいい、なんだってんだ特に意識なんてしてなかったけど、「僕の名前なんて呼ぶんじゃないよこの小動物が」とかいうんだろうか。すみませんマジ勘弁してください。

彼に合わせて縮こまった座り方をする私は、ふらりと意識が遠のきそうになった。え、なにこれほんともうどうしようの勢いで。ば! 彼は、背中に隠し持つ、何かを、私に振りかざす! 案外動体視力のよろしい私は、それをしっかりと目でとらえた。黒く、長細く、あたったら痛そうな     ではなく、

「…………これ、母さんが」

透明な箱の中に詰め込まれたソレは、ほんの少しの湯気とともに、中にぽつぽつと浮かぶ水蒸気の白い模様。ほかほか。ついでにくんくんいいにおい。明らかに、これは、今日のお夕食の残りで、差し入れってヤツなのではないだろうか。「あ、あのこれ」何をいっていいかもよくわかんなくなってきた私は、思わず、そのタッパーを取る前に、ぽすん、と恭弥くんの頭に手を置いてしまっていた。「………あ、ありがとう」ヤバイ声がうわずってる。

べ、べつに! と恭弥くんがいった。投げつけるような勢いで、タッパーを受け取って、さっさと隣のドアの中に、しゅるりと入ってしまった。…………なにあれ、あれが雲雀恭弥?


ふらふらふら、と段ボールの渦に、体をぼすん!「う、うあああ」頭を抱え込んで、うああああ


「なんだあのかわいいぶったいはー!!!」
皆さん、ミニマム雲雀は、とっても可愛かったです!(中学生でも可愛いけどね!)


え、何が? お隣の雲雀さん宅には関わらないように生きていこうだって? え、誰が?
あんな可愛い物体と接触せずに生きていけって?

「と、トリップサイコー!」

トリップバンザイ、若返りバンザイ。素敵に、エンジョイしていこうじゃないかこの世界を! ありがとうトリップの神様! なんて世界へと感謝している私は、リボーンを詰めていた箱の私が丹誠込めて書いた「神様へ、雲雀くんとのトリップライフ、よろしくね!」の文字が見事に消され、「あいよ、任された! 神様より」と書かれているなんて事を知るわけもなく。
(でも、気づいたとき、中に入っていたリボーンの単行本グッズ全て無くなっていた事に気づいたとき、本気で暴れ回る事になる)




  


2008.01.02