無駄にしんとした空気に、どうしようかとため息を一つ。
「………あ、二人とも、ジュース飲む?」
「あ、おれほしい!」
「いらない」
「…………」


第6話  ツンデレの黄金比は7対3




「なーなー、姉ちゃん、遊ぼうぜー」
いつの間にやら私になついてしまったらしい山本武くん。雲雀さんに続いてマジでか! と叫びたくなる気持ちをぐっと抑えて、わざわざ休日に私の家のインターホンを連打するこの少年の相手を無視する事ができようか! いやできまい!(ちなみに頭の検査の方はしっかり病院に行ってみたけど問題なかった!)(これじゃ私がバカみたいな書き方だな)

「うふふ武くんったら可愛いナァ!」のテンションで、まぁ何をするっていっても部屋の中で延々と二人しりとりか二人ばばぬきとかな訳だけど、懲りずにやってくる武くんに聞きたい。お前ホントにコレで楽しいのか(私は違う意味で楽しいけど!)(ちなみに一緒に野球なんて絶対しない本気で天に召されてしまう!)


今日も今日とて、インターホンがピンポンピンポンピンポン(連打しなくていいってば)「はいはい待ってね武くん今開けるよ」 ぱっかりと、ドアを開けたのだ。
当たり前の如く、太陽のような笑みでこっちを見つめてくる武くんと、

「…………恭弥くん?」
「こいつ、だれ」


冒頭に、至る。


原作でもそうだったけれど、相性がいいのか悪いのか分からない二人がそろってしまった。雲雀さんと来たら、何故かキツイ目つきでソファーにどどんと座っていて、もう私はどうすればいいのか分からなさすぎて涙が出そうだ!(た、確かにこれこそ雲雀恭弥なんだけど) 対照的に、にかにか笑顔を浮かべたままで、「姉ちゃん、せっかく三人なんだし、しち並べしようぜ」とポジティブ過ぎる発言の少年を見て頭が痛くなった「うああああ」

「なぁおまえなんだっけ、ひばり。しち並べ」

いくつになっても命知らずな少年は、7のカードを嬉しそうに雲雀さんに見せて、ギロリとした目線を頂いている。それでも負けずと「しち並べしようぜー」 お前ほんっと強いよ!(あああ、私の純粋培養計画が!)

冷蔵庫の蓋をぱかっと開けて、いらないといっていたものの、一応と三人分のオレンジジュースをコップの中に注ぎ込んだ。(……あれ、よく考えてみたら、このシチュって美味しい?)
ちび雲雀に、ちび山本。これってもしかして、二人とも幼馴染み設定とかになるんだろうか(うほっ!) あまつさえ、教育をいい感じに進ませていけば、リアル二人のかけ算とか、「うっはー!!!」

そうと決まれば! とオレンジジュースをお盆の上にことんと載せて、「恭弥くん武くん二人とも仲良くしようね切実に!」とピンクオーラ丸出しでリビングへと駆け抜けた!



しゅっ! 拳が飛ぶ。小学生と思えないような拳の速さに、一瞬目がついていけなかった。そんな速さを、武くんは難なく顔をほんの少しずらして「なぁ、ひばり。しち並べ」「うるさいよかみころす」 ぐるん、と体ごと反転させた回し蹴りが、見事に武くんのお腹に、「ちょ、ちょっとあんたら!」

ギリギリセーフな状態でぴたりと泊まった雲雀さんのおみ足を、見つめた後で、わなわなと震える体をどうしてやろうかと思った。気づけば盆からはオレンジジュースが零れていて、

「なんで仲良くしないの!」


思わず本気で、叫んでしまった。小学生同士だったんなら、ちょっとぐらいのケンカはあるかもしれない、けれども、いきなり会って、理由もないのに、本気のケンカ、だなんて、(そんなの)(それとも、それが雲雀さんだとでもいうのだろうか)

私は、どうやら心の底で、妙な期待をしていたらしい。雲雀恭弥は、確かに、好きなキャラクターだ。すぐに「かみころす」とかいうし、すぐに人をぼこぼこにするし、理由に一貫性もないし、並盛町が、とっても大好きで、けれども、原作には、描かれてないけれど、彼は、もしかしたら人一倍優しいんじゃないか     なんて

危険な男ってやつで、けれども格好良かったり、ときたまかいま見えるかわいさが、素敵だったり、(けれどもそんなの、ただのキャラクターだっていわれた気がした)


バタン、と音がした。いつの間にか消えていた雲雀さんの影に、はっとした後で、武くんが、「姉ちゃん!」と私の服を掴む。「おこんないでよ、姉ちゃん、アイツ、ちょっと俺にむかついてただけなんだよ」 手に持つお盆と、その上に置かれたグラスが、武くんがひっぱる事で、ぐらりと揺れる。ちゃぽんっ、となった水の音に、もう一回、武くんが「ねえちゃん」

ごめんね、と小さく武くんに呟いて、お盆を押しつけた。バタン! 扉を思いっきり閉めた。靴を履く時間も惜しい。半分脱ぎかけた靴のまま、玄関を飛び出して、小さな影を追う。
彼は、隣にあるはずの自分の家へは帰らなかった。私と同じく、半分脱げかけた靴のまま、走る、賢明に。
小学校低学年と、一応は中学生の私は、例え彼の身体能力が著しかったとしても、ほんの少しずつ差が縮まっていく。
長い廊下を、思いっきり手を振った。足も振った(靴の片方が、おかげで飛んでいってしまった)(けれど、こっちの方が、速くていい)

飛び降りた階段に、小さな背中を、ぎゅっと捕まえる。動かされた手と足が、がすがすと私のお腹やら顔やらにちょっとした痛みを与えたけれど、「恭弥くん、」ほんの少し、震えていた彼の体を、もっともっと、ぎゅっと、抱きしめて、

「あいつ、なんなんだよ」
「恭弥くん」
「ね、ねえちゃんねえちゃんって、ずっと」
「うん、恭弥くん」
「な、なんなんだよ!」

ごめんね、恭弥くん。と、小さな体の彼に、私は呟いた。
(……ごめんね、恭弥くん)






  


2008.02.02